2018年8月4日土曜日

2018.08.04 伊藤まさこ 『おいしい時間をあの人と』

書名 おいしい時間をあの人と
著者 伊藤まさこ
発行所 朝日新聞出版
発行年月日 2017.05.30
価格(税別) 1,500円

● 20人との対談。会って,話をしてもらうには,こいつなら会ってもいいかと思ってもらえなければ。類は友を呼ぶの範疇。ぼくら読者はそのおすそ分けをいただく,と。
 有次18代目の寺久保進一朗さんの話が,特に背筋を伸ばしてくれた。問題はそれが持続しないこと。こちら側の問題。

● 以下に転載。
 一事が万事そうなんです。自分が思っていること,考えていること,そのままをテーブルの上に並べるだけ。それ以上に見せる必要はないんです。(矢野顕子 p14)
 私の場合,「歌う」は,もともとは「体から音を発する」ことでしょうか。なんかね,しょっちゅうフンフンフンフン言ってるらしいの。(矢野顕子 p17)
 私は,所有欲なり食欲なりを満タンにすることにはあまり興味がないんです。いちばん大事なのはその欲を満足させることではないということはわりと早くから思いました。だから,極めない。極めるのは音楽だけ。ひとつあればいいじゃんって。(矢野顕子 p20)
 ニューヨークは特別なところです。街に駆り立てられる。ものをつくる人間にとってはすごくいいんです。(矢野顕子 p20)
 「あなたと私は違うのよ」ということを前提にする人生のほうが,私は心地がいいわけですね。(矢野顕子 p22)
 私は基本,火山のように,ここに(と胸に手を置く)マグマがあって,音楽が勝手に出てくる。そういう生き物なんです。音楽をつくる生き物。だから,どんな方が登山に来てもいいし,ごはんを食べに来てもいいの。(矢野顕子 p23)
 「正しく使う」と,余分なもん,持たんでええねん。必要なものだけ,大事に使う。器でも割れたらついだらええ。塗りも,欠けたら塗り直したらええ。何も大変なこと違う。(寺久保進一朗 p41)
 道具を正しく使うということは,腰が入ってへんと,使われへんよね。つまり「姿」を正しくするということ。そうすると無駄な動きがなくなる。1時間に10秒ずつでも無駄な動きを省くならば,1日にしたら何分間か,貴重な時間を節約できる。(寺久保進一朗 p45)
 料理屋さんはたくさんの道具を使うけど,置くとこがちゃんと決まってる。(中略)それは手が自然にそうなるんや。ねえ。ものを大事にするというのはそういうもの。(寺久保進一朗 p46)
 北欧はすごくよかったですね。あんなに豊かな生活があるということに驚きました。家具や日常に使うものがすごくよくて。(中略)本当に消費が少ない文化なので。(田根剛 p77)
 やっぱり舞台ですね。ゲーム感がいちばんあるんですよね。運動神経というか,スポーツ感。(片桐はいり p88)
 依頼を受けたときは,まずその人が何を着ているかを見るんです。どういうものが好きか,この先どういうふうになっていきたいかということも聞く。着るもので人生が変わる可能性だって,あるわけだから。(椎名直子 p99)
 台詞を言うためにお芝居をするのではなくて,生活の動作の中に台詞をまぶしていこうという意識があるんです。(是枝裕和 p106)
 役者さんは,大事な台詞であるほど台詞に意識が集中してしまいます。でも普通,人はそんなふうにしゃべらないから,意識をそらさせるのが大事で。(是枝裕和 p106)
 ちゃんとそこにいられるというのが,役者さんの一番の能力だと僕は思います。今までここで生活してきて,これからもここで生活していくんだろうな,ということを,ちょっとした動きで感じさせる。(是枝裕和 p108)
 学んで身につくものもあるし,学校で教えられないものもあるし。ただね,少なくとも,学ぶシステム自体はあったほうがいいだろうと思います。(是枝裕和 p112)
 普通の若い子たちがダサいと思っているところのほうが実はかっこいい,というのは感じましたね。(臼井悠 p143)
 カウンターが似合わない女はいないです。(臼井悠 p147)
 夜中のみそ汁とかも冷たいまま食べちゃうな。熱々とはまた別のおいしさなんですよね。(種村弘 p151)
 ある時代のロールモデルになる人は,吹っ切れ方が違う気がします。(種村弘 p158)
 みんなインプットはするじゃないですか。本を読んだり,映画を見たり。それがどこまでいったらアウトプットの側に化学変化を起こすんだろう。(種村弘 p151)
 状況や環境で人は違うし,関係も変わる。でもつい,自分のスケールにのせてその人を判断しようとするのね。(阿川佐和子 p169)
 オートバイは運転しているときのひとつひとつの行為がおもしろいんです。そのぶん集中していないと危ないですが,その魅力はあると思う。(杉本哲太 p189)
 お菓子屋さんを参考にするということはほとんどありません。どうしても真似になってしまいますから。うちはとにかく,真似はしたくない。素材などのヒントはジャンルの違うところからもらうことが多いです。(依田龍一 p197)
 構えているとかえってダメですから,何かの拍子にピピッとくるときが,いいアイデアが出るようですね。(依田龍一 p198)
 うちも先代のころから,「ものをつくるときにはコストのことは考えるな」と。はじめから「これは千円にしよう」などと考え出すととくなものはできません。(依田龍一 p202)
 自分の好みを明快にしておくということではないでしょうか。(中略)結局,人の好みで出しても,わけがわからなくなっちゃうんですね。何が良いものなのか。(依田龍一 p203)
 アートディレクターやデザイナーはなんとなく感性でデザインしてくと思われているかもしれませんが,僕の知っている優れたアートディレクターは,言葉の力も持っています。(水口克夫 p208)
 一回どつぼにはまると自分でも何がオーケーかわからなくなってしまって。でも,なんだろう,ここが違うんだよなということに執着しているとダメなんじゃないかと思います。次のセリフでフォローできたり,他の人との関係で成立したりすることもあるので。(沖田修一 p223)
 劇場って,あるときから客席を暗くして,舞台の上の芸術を邪魔しないように静かに鑑賞するようになった。それもあっていいけど,そればかりでは何か違うんじゃないかなと思って,劇場のあり方を考えるようになった。客席も演劇なんだから,客席の賑わいとか,お客さん同士が見合えるとか,そういうこと大事だから。(串田和美 p242)
 自分を納得させるのは時計だったりカレンダーだったりするでしょ。それって「どっちが主役?」って感じがするな。人間は自分らでつくったシステムをだいたい過信する。お金もそうだし(串田和美 p246)
 コミュニケーションは休憩時間や就業後で十分。現地の言葉でも何を言っているかはだいたいわかるようになる。相手の質問に答えるのは難しいけど,適度に笑って適度に怒っていれば,なんとかなる。ヘラヘラしてるとダメだけど。(内田鋼一 p264)
 海外に行くときでも手ぶらで行く。使い慣れた道具とか一切持っていかない。不自由でも,そこにあるものでやってみたい。(内田鋼一 p270)
 お客様への応対は,その人の人間性というのかな,人生観が出るのではないかと思っているのです。これまで何が好きだったか,どんな美しいものを見てきたか。そういうことがすべて出る。(黒川光博 p274)
 虎屋が考える和菓子の定義は,植物性の原材料でつくられているということです。(中略)あんことクリームを混ぜたりするとおいしいんですよね。でもやらない。それに何の意味があるかと言われると,意味はないかもしれない。おいしいんだからいいじゃないかというほうがよほど説得力がある。だけどそれをしないででこまでできるか。(黒川光博 p277)

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