2019年7月28日日曜日

2019.07.28 スズキナオ・パリッコ 『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』

書名 椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門
著者 スズキナオ
   パリッコ
発行所 Pヴァイン
発行年月日 2019.04.28
価格(税別) 1,560円

● タイトルにひと目惚れして購入。コンビニで缶ハイボールとサラミを買って電車に乗れば,そこは動くパブなのだし,川辺に降りて腰を降ろせば,そこはマイナスイオン溢れる自然パブなのだ。たっぷり体験済みだ。
 椅子を持ち歩けば,あらゆるところがパブになるのだな。なるほど。タイトルだけで価格だけの価値はあると思った。

● ダイソーて200円の椅子とマットを買って,コンビニで酒とつまみを買って,近くにトイレがある場所を探せばいいんだな。
 そこに椅子を置いて座れば,そこがつまり,プライベート酒場だ。それをチェアリングと著者らは呼んでいる。

● キャンプのように重装備を要しない。しかし,チェアリングのあとは車を運転するわけにはいかないから,移動手段は公共交通機関に限られる。主には電車。これもいい。ぼくは車の運転があまり好きじゃないからだ。
 が,歩いて行けるところにもチェアリングできるところがけっこうありそうだ。人生を楽しむのに,お金は必ずしも必要不可欠ではないのだ。

● というか,著者らによると,チェアリングが成立するようになったのは最近のことだ。コンビニが商っている食べものが旨くなり,コンビニの数も増えたからこそ。
 なるほど,なるほど。いい時代に生きてるだな,ぼくら。

● 以下にいくつか転載。
 ひとたび椅子に座った瞬間,余分な情報がシャットアウトされ,その場所が自分だけの特別な空間として切り取られることは,チェアリストの多くが実感している。(中略)あまつさえ,それをつまみに酒さえ飲んでしまう。天国とはこんなに身近にあったのかと,チェアリストは実行するたびに実感してしまうゆえんだ。(p9)
 チェアリングはまた,本格的なキャンプやアウトドアになりすぎない気軽さも重要なポイント。(p30)
 ではなぜわざわざ山の中に行って酒を飲むという行為に魅せられるのかというと,まず,基本的に静かということかな。居酒屋ってうるさいでしょう?(p35)
 と語るのは和嶋慎治さんだが,何だかスカした野郎だな。付き合いづらい感じがするな,こういうやつは。
 花見ってあるじゃないですか。あの時期だけは酒飲んで表で騒ぐのOKみたいになって。そうなると極端にマナー悪くなるはないですか。あれがすごい嫌。(p53)
 ベラベラ大声でしゃべるんだったら店行けよ,家行けよっていうことになる。もっと味わえよっていうかさ。(p53)
 昔の日本は金があって良かったっていう人がいるけど,その時代よりも今の方が生活実感のレベルって高いと思う。ご飯も美味しいのが安く食べられる,服もいいものが安く売られている,すごくいいワインが超安く手に入る。昔だったらすごくお金をかけなきゃできなかったことが今カジュアルにできるんですよ。(p55)
 チェアリングするときはいつも電車移動だし,それゆえ,それほど駅から遠くない場所で,しかも飲み物や食べ物が容易に手に入るコンビニやスーパーが近くにないと困ってしまう。町と自然とがギリギリ拮抗する場所を探し,そこに座る。(p92)
 チェアリングの不思議なところは,いざ場所を選んで椅子を置き,そこにドカッと身を預けてみるととたんに静かで落ち着いた気持ちになるという点だ。(p102)

2019.07.28 吉越浩一郎 『リタイアライフが10倍楽しくなる 定年デジタル』

書名 リタイアライフが10倍楽しくなる 定年デジタル
著者 吉越浩一郎
発行所 ワニブックスPLUS新書
発行年月日 2018.10.25
価格(税別) 900円

● 定年後はSNSを使って楽しく過ごそうという主張を展開している本だと思って,長らく敬遠していた。定年を機にFacebookを始めるなんてのは,典型的なダメパターンだと思っているので。
 が,反対意見に耳を傾けてみるのも大事なことだ。いや,何だか吸い寄せられるようにして,フラフラとこの本を買ってしまったのだ。

● ビジネス書的な色彩がわりと濃い。仕事も個人生活も対処法は同じというのが著者の言い分なので,自ずとそうなるのだろう。
 ので,本書を貫くのは合理主義だ。割り切りが凄い。iPhoneを使いだしてすぐに紙の手帳は捨てたらしい。

● SNSの中でもFacebookを中核に据えている。Twitterへの評価はわりと淡泊。
 ではなぜFacebookがいいのかというと,交信が途絶えていた友人を発見できることがあるから,であるらしい。個対個のコミュニケーションを大事にする人なのだろう。そういう人にはたしかにFacebookはぴったり来るものだ。
 それでも長く使っているとリアルを前提にしない “友だち” が増える。それに伴う悩みもあるらしいのだが,それを補ってあまりあるメリットがあるということか。

● これを読んでFacebookを再開しようとはまったく思わない。かつてのアカウントで再開できるようにFacebook側がシステムを変えればひょっとして再開したりするのかな。
 たぶん,しないな。Twitterのみで行くだろう。Facebookにはたとえば連投すると嫌われるとか(タイムラインの流れがTwitterよりゆっくりだから),見えないルールがけっこうあるのもウザったい。何より,ぼくは個対個のコミュニケーションをあまり望んでいない。

● 個対個を徹底するならLINEになるが,Facebookは衆人監視のもとで個対個のコミュニケーションを進めていくところに特徴があって,そこに心地良さを憶える人が多いのだと思う。完全に個対個になるLINEだと気詰まり感を覚える人も多いだろう。
 そのLINEは親しい人とのやりとりに使うものだと著者はあっさり断定。LINEでつながっている人を増やすのは愚の骨頂とは言っていないけれども,そういう意味だ。
 ぼくはLINEでつながっているのは配偶者だけだ。それがLINEの本来の使い方だと認めてもらった気分だ。

● が,最大の収穫は「Waaaaay!」というアプリがあるのを知ったこと。初めての場所に行って,Googleマップを起ち上げても最初の一歩をどっちに踏み出せばいいのかわからないことがある。そういうときに役立つアプリ。
 方向音痴には福音だ。さっそくインストールした。

● 以下にいくつか転載。
 退任まで14年間社長を務めたトリンプ・インターナショナル・ジャパンでは,思うように仕事をさせてもらって,業績も残せました。けれど今のほうがずっと楽しい。(p5)
 各種の調査によれば,シニア層の経済状況が苦しくなっているのは日本もアメリカももはや変わりません。しかし,欧米の場合はそれが「幸福感」の低下につながっていないのです。(中略)日本のシニア層の「幸福感」の低さとは,社会的なつながりの薄さそのものなのではないでしょうか。(p21)
 生活していくために,またそれ以上に「生きがい」を感じるためには「死ぬまで働く」ことしか選択肢がない,ということは大きな問題なのではないか,と思います。(p23)
 海外の人は「いつまでも働きたくないよ!」というのが圧倒的多数で,「早くリタイアしたいなあ,リタイアする日が楽しみ」というのが「当たり前」の感覚です。(中略)いよいよ定年が近づいてきた時それを心から「楽しみ!」と思えなのは,絶対に「よくない!」と私は思うのです。(中略)「することがないから仕事をしたい」「仕事以外に時間の使い方がわからない」なんて寂しいことを言わないでほしいのです。(p26)
 私はリタイア後の人生を「本生」と呼んでいます。(中略)余った人生ではなく,本当の人生。だから「本生」と呼びたいのです。(p29)
 しょせん仕事というのは「定年」で終了するのですから,そんなものを「生きる目的」にしてはいけない,ということに気づいた。(p33)
 10万円収入が減ったことによる「不満」は,平日の夫婦の会話が1日平均16分増えることによって解消できる(p35)
 仕事もプライベートも,根本的な部分に変わりはありません。仕事ができる人はよく遊ぶ,遊びの達人は仕事もできる。これは古今東西の真実です。(p64)
 PCDAのそれぞれの間隔は短いほどいいのです。いっそ,PCDAというより「CA」の繰り返しでいい。暇なら「P」に時間をかけてもいいけれど(中略)いくら定年後でも「P」だけを趣味にするのでは意味がありません。(p68)
 そもそも完璧な計画などないのですから,計画に時間をかけるより実行のほうに時間を使うべきなのです。実行の回数を増やすべきなのです。(p69)
 一回の間違いで取り返しがつかなくなるような判断というのは,経営者の立場であっても,実際にはめったにありません。日常の仕事は,毎日小さな判断をどんどん下していくことが一番重要です。その上で「昨日の小さい判断が間違いだった」というのがわかれば,翌日から違うことをすればいい。これは「小さな後出しジャンケン」のようなものです。「間違いだった」ことがわかってから,次の判断をするのですから,つぎで「負ける」ことが基本的にない。(p70)
 少し長めの文章になると,(中略)音声入力を利用すると驚くほど簡単です。(p76)
 私は「すべての仕事に締切(デッドライン)を設ける」ことが最低限必要と考えてきましたから,それを在職中にも実践し,本に何度も書きました。小さいことも,大きなこともすべて同じです。(p96)
 私はiPhoneを買ってから,紙の手帳と住所録を使うのをやめました。(中略)すぐ切り替えました。(p99)
 こうしたサービスというのは「完成形」を待ってから「買う」「使う」のではなく,とりあえず使い始めてしまうのが正解。IT系,デジタル系のサービスの最大の特徴だと思います。(p101)
 目的がはっきりしているのなら,紙だろうがデジタルだろうが,手段を選ぶ必要はありません。「重要なものは紙で保存すべき」「紙のほうが信頼できる」という迷信のようなものは,もうさっさと捨ててしまったほうがいい。(p103)
 通信内容が本当に外部にぜったいに漏れてはいけないという場合以外,一般の人が日常の連絡,ウェブの閲覧をするレベルなら,一定の防御をしておけば,それ以上に神経質になりすぎることはないと思います。(p210)
 自分の人生が長過ぎると感じた時点で,その人の人生は「負け」,失敗なのだと思っています。(p215)

2019年7月27日土曜日

2019.07.27 寺井広樹 『「試し書き」から見えた世界』

書名 「試し書き」から見えた世界
著者 寺井広樹
発行所 ごま書房新社
発行年月日 2015.10.04
価格(税別) 1,250円

● 試し書きから世界を見るという試みなのだが,少々の無理がある感じ。なぜ試し書きに惹かれるのかをもっと掘り下げて行けばよかったのに。追随者がいない道なんだから。

● 以下にいくつか転載。
 フランスの絵画とアメリカの絵画を比べても,それほど国や地域としての差がはっきりとは出ないものです。意識的に描いているものなので,当たり前ですが描き手の個性が前面に出るからです。しかし,フランスとアメリカの「試し書き」を比べると,差がはっきりとわかります。無意識で書いているものだから,書いている人さえしらない国や地域の特徴が出るのです。(p14)
 イタリアの文具事情は,ノートやボールペン,ホッチキス(ステープラー)といった日用品については,ハッキリいってかなり残念な状態です。(中略)しかし,万年筆などの効果な文具を見ると,洗練されたデザインでしっかりしたものが多いのはさすがです。このアンバランスといいますか,妙に大きな落差があるところこそイタリアなのでしょう。(p55)
 口には出さないまでも,「なぜこんなゴミみないなものを集めているのか。自分には理解できない」と思っているのがわかりました。それで,私ががっかりしたかというと・・・。そんなことはなく,まったく逆で,その反応がすごくうれしかったのです。なぜなら,「この試し書きの魅力は自分にしかわからないものなんだ!」と確信できたからです。(p166)

2019年7月15日月曜日

2019.07.15 外山滋比古 『お金の整理学』

書名 お金の整理学
著者 外山滋比古
発行所 小学館新書
発行年月日 2018.12.05
価格(税別) 780円

● お金の稼ぎ方,貯め方,使い方,が整理されているわけではない。定年後の年寄にとってのお金の価値といつたところが論じられている。
 が,著者が確信をもって書いているのは,末尾の2章。株の話だ。

● 以下にくつか転載。
 とりわけ問題なのは,日本のサラリーマンの多くが,自分たちのことをむしろ〈アリ〉だと思って生きてきたことだろう。(中略)日本人の多くは,「定年後」という冬の時代の厳しさを真面目に考えず,なんとなく働き続ける〈キリギリス〉になってしまっていたのではないだろうか。(p13)
 節約と貯金に熱心になり,財産に余裕があれば子供に相続させるという考え方では,世の中にお金は回らない。家族のことばかり考える個人主義的な思考である。それでいて,困ると社会保障に寄りかかろうというのでは,矛盾している。(p45)
 退屈な社会はリスクの高い社会だ。(p47)
 人間らしい生き方をするために,リスクを伴う選択は必要だ。定年退職をしたら,あとは安全運転で余生を過ごす--そんな思考では,長い人生は面白くならない。(p59)
 人生の第一部はなるべく早く終わらせて,次のステージへ移行する。(中略)国が定年を延ばしたからといって,ダラダラと第一部を続ける必要はない。(p82)
 同じ清掃作業をするにも,大企業のビルのなかを清掃するよりも,小さなお寺の敷地を掃除するほうがいい。お墓参りに来た人に感謝されたりする。(p87)
 趣味で嗜んでいる程度の知識や実力で,お金がもらえるはずはない,と決めつけるのは早計である。どんな趣味でも,自分より後に始めた「初心者」はいるものだ。(p95)
 定年後が退屈になる原因の一つは,「失敗」する機会がないことだ。(中略)新しい仕事を始めていると,そうはいかない。緊張する。(p103)
 意外に思われるかもしれないが,一人きりで実験室に籠ってビーカーを動かしていても,なかなか発明にはたどり着かない。一人で座禅を組んで悟りを開くなんて,常人ができることではない。どの分野であっても,独学には限界がある。むしろ,クラブ的思考に基づき,皆で酒を飲んだり,ものを食べたりしながら勝手なことを言い合っているほうが,新たな気づきへの近道になる。(p111)
 (株投資で)損をして刺激を受ければ,気持ちは若返るだろう。自分がこの世に存在している自覚が生まれる。(p136)

2019年7月13日土曜日

2019.07.13 外山滋比古 『「長生き」に負けない生き方』

書名 「長生き」に負けない生き方
著者 外山滋比古
発行所 講談社+α文庫
発行年月日 2016.07.20
価格(税別) 540円

● 老年期の生き方を説いた実用本ではなくて(そういうものとしても読めるが),短い随筆を束ねたものと受け取った方がいいと思う。
 対決姿勢で読んではいけない。同意しかねるところはあるかもしれないが,その場合であっても著者と対決してはいけない。

● 以下に転載。
 とにかく,みじめでない,生き生きした年寄りになりたかったら,まず,この,“自ら助くるもの”でなくてはいけない。自分のことはなるべく自分でする。人の手を借りない。(p6)
 いつまでも,死ぬことは考えず,明日ありと思って生きる。それには仕事をするに限る。なければつくる。(p19)
 すこしなら,酒もタバコも,外はすくなく,ときとして活力を生む効果がある。いけないのは度をこすこと。適度なら,害は,その効用によって帳消しになる。人間はそうできているように思われる。(p34)
 時間と競争すると,おのずから緊張する。(p55)
 友人は食べものではないが,やはり賞味期限がある。(p64)
 はじめから,いついつに死ぬとわかっていたら,人生というものはそもそも存在しないであろう。(p74)
 ぜいたくが世のため,人のためだけではなく,自分にとってもいいことであるとわかったのも発見である。(中略)そうは言っても,ぜいたくは節約より難しいようである。(p79)
 難局に当たっては怒るに限る。(p92)
 風邪をひいて休養したがために,大事に至らなかったことが,思い返しても,何度もあるような気がした。(p157)
 つけた日記は一度だって読み返さない。(中略)となると,古い日記が場ふさぎで,じゃまになる。が,といってゴミに出すわけにはいかないから,始末が悪い。(p169)
 (菊池寛は)「学問的背景のあるバカほど始末の悪いものはない」といった意味のことばを残しているが,やはり生活の達人でなくては思いもおよばない。生活を文学にした内田百閒が,「なんでも知っているバカがいる」と言ったのもおもしろい。(p176)
 いったん実務の世界へ足をふみ入れた人間には,あてどもなく,本を読んで,知識を増やし,それを利用したレポート的論文を書くのは耐えられなく退屈だった。(p178)
 忘れる力のつよいのは人生の勝者である。(p199)
 叱られると寿命が縮み,ホメられると,寿命がのびる,というのは昔からどれくらいおこっていたかしれないのである。(p210)
 友を選ぶのに,切磋琢磨の相手を求めるのはごく若いうちのこと。一人前の人間になったらケチをつけるような人間は一人でもすくないほうがいい。(p213)

2019年7月11日木曜日

2019.07.11 三浦 展 『下流老人と幸福老人』

書名 下流老人と幸福老人
著者 三浦 展
発行所 光文社新書
発行年月日 2016.03.20
価格(税別) 740円

● 著者お得意のデータに語らせるという内容。「資産の多い少ないにかかわらず,幸せな人ほど友人と余暇を楽しむ機会が多く,幸せでない人ほど機会が少ない」という。大きなお世話だ。
 一方で,男性シニアは友人の数が多いほど幸福度が上がるという傾向は顕著ではない,とも。首肯できる。

● 以下にいくつか転載。
 富裕層は何を買うのかと私もよく聞かれるが,富裕層が買うのはお金なのである。富裕層だからといって,毎日高級フランス料理を食べるわけではないし,健康を考えれば日々の食事は質素である。(中略)特に高齢ともなれば買う物もない。買うとすれば,貴金属も含めた金融商品である。富裕層にとってお金は消費の手段ではなく,さらにお金を増やす手段なのである。(p42)
 金融資産による格差があるのは「生活資金の不足」だけである。病気も災害も介護も死別も差はないのだ。「生老病死」の不安に格差はないと言える。いくらお金があっても,最後は死ぬ。それだけは平等だ。(p50)
 年収が1000万円以上になると幸福度が下がることがしばしばある。また,男性は年収が上がるほど既婚率が上がるのだが,やはり1000万円を超すと既婚率が下がる傾向も,ほとんどすべての調査で見られた。詳しい理由はなぜなのかわからないが,どうも年収800万円が最も幸福なラインらしいのだ。(p94)
 知っている人n数が少ない場合の幸福度は男女差が少ないが,女性は,知っている人の数が増えるほど幸福度がどんどん増していく。(中略)男性の場合は(中略)女性ほどには幸福度を上げないようなのである。(p114)
 男性は(中略)ガールフレンドがいることで格段に幸福度が上がる。ガールフレンドは,子供や孫がいることよりも,隣近所の知人の数が多いことよりも遥かに幸福度を上げるのだ!(p116)
 お金があって友人がいないよりも,お金がなくても友人がいるほうが幸福度が増すのである。(p132)
 不幸な人はお金が欲しい人なんです。お金があれば幸せになれるという価値観で凝り固まっている人が不幸なんですね。(藤野英人 p208)
 何でもネガティブに考えて,世の中のことを否定的に見ている人より,何でも見てみる,何でも首を突っ込んでみるおじいさんとか,おばあさんのほうが,お金があろうがなかろうが幸福だし,たぶんそういうタイプの人が結果的にお金を持ちやすいんだろうと思います。(藤野英人 p211)

2019年7月7日日曜日

2019.07.07 和田秀樹 『「感情の老化」を防ぐ本』

書名 「感情の老化」を防ぐ本
著者 和田秀樹
発行所 朝日新聞出版
発行年月日 2019.03.30
価格(税別) 1,000円

● 前頭葉の萎縮は40代から始まる。放っておくと老化に加速度がつく。ゆえに,抗わなければいけない。その方法論を具体的に教えてくれる。何だか元気が出てくる本だね。
 でも,たぶん,本当にこの情報を必要とする人にはなかなか届かないものでしょうね。

● 以下に転載。
 私は,20年以上にわたって老年精神医学に携わり,数多くの高齢者と接してきました。その中で常々感じていたのが,「個人差の大きさ」です。(中略)見た目に関してはその差がもっと大きく,実年齢プラスマイナス10~15歳は決して珍しくありません。その差はやはり「感情年齢」にあります。(p8)
 若者とシニアで一番違うのは,感情を揺り動かす「ときめき」や「やる気」などのモチベーションの大きさです。(中略)何に対しても意欲が沸き起こるのが「若者脳」なら,なかなか気持ちのボルテージが上がらず,意欲不足に陥るのが「シニア脳」といえるかもしれません。(p16)
 従来の老化モデルは,高齢になると徐々に健康度が落ちていくというものでしたが,最近の老化モデルは,死ぬ数年前までは元気で,最後の数年間でいきなり衰えるというように変わってきています。(p23)
 男性ホルモンが減少すると,判断力や記憶力が低下したり,集中力や積極性が損なわれたりすることがわかっています。(p32)
 人間のメンタルが老化するスピードは,筋力が衰えるより早いのです。(p35)
 閉経して女性ホルモンは減ったままなのに,なぜ元気になるのか。そこには,驚くべき事実がありました。(中略)以前は,加齢とともに女性は女性ホルモンが減ることで,相対的に男性ホルモンの割合が増えると考えられていたのが,そうではなく,男性ホルモンそのものが増えていることがわかったのです。(p53)
 女性に対してまめな人は,案外同性に対しても付き合いが良いものです。つまり,男性ホルモンには「人付き合いがよくなる」という要素があると考えられます。また,男性ホルモンと「意欲」には密接な関係があります。(中略)一般論でいうのなら,知的好奇心が高い人は性的好奇心も高いのです。(中略)男性ホルモンには,「人に対して優しくなる」という要素があることが実証されています。(p54)
 恋多き女に豊富なのは女性ホルモンではなく,男性ホルモンです。(p57)
 「性」は「生きること」に直結した大変重要なことです。また,頭も体も使わなければ衰えるように,性的なことも使わなければどんどん衰えるのです。(p63)
 それこそ,「これは絶対にダメ!」「これ以外は認めない」という考え方は,感情の老化が始まっているのかもしれません。感情を老化させないためには,まず,自分が正しいと思っていること,常識とされていることを疑うのが肝心なのです。(p78)
 感情老化を促進するのは,いわば決まりきったことを続ける刺激のない生活で,これを変えない限り感情の老化も止まらないというわけです。(中略)詳しくいうと前頭葉の中の「前頭前野」という部分が感情をつかさどる中枢なのですが,実はこの前頭前夜の大好物は「ときめき」なのです。(p86)
 脳の若さを保ちたいなら「まあ,いいや」「これでいいや」という言葉はもう封印したほうがいいでしょう。(中略)「まあ,いいや」という消極的な気持ちは,脳が楽をしている状態です。(p88)
 暖色系の色は男性ホルモンを刺激しながら増やす効用もあります。(中略)特に男性ホルモンの増加が期待できる赤系の服は,ぜひトライしてほしいものです。(p90)
 もともと前頭葉は,いつもとは違う状況や変わったシチュエーションで底力を発揮する部位ですから,ルーティン通りの生活ではあまり働かないのです。(p91)
 誰かに命令されてイヤイヤ創作をしたのでは,前頭葉にとってほとんど意味がありません。自ら望んで変化を楽しむから,高価が倍増するのです。(p94)
 たとえば,トランプが大統領になった時,大方の予想で「株が下がる」といわれていたのに,実際にふたを開けてみれば,株価はどんどん上昇しました。このように想定外のことが常に起こるのが相場やギャンブルですから,刺激は満点。そして,想定外のことに前頭葉は激しく刺激されるのです。(p98)
 健康にいいつもりで高たんぱく質の食品を避けていると,脳の栄養が不足して,感情の老化を早めてしまいます。精進料理のような食事が健康的だというのは誤解ですから,ぜひたっぷりと肉や魚を召し上がってください。(p105)
 日本人のメタボ恐怖症やダイエット信仰には,いつも頭をかかえてしまいます。(p110)
 自分の意見と似たような本をいくら読んだところで,前頭葉への影響という点ではあまり効果は期待できません。(p121)
 いつも同じ作家の本ばかり読む人は,たまには全然違うジャンルの本を読んでみるのも良いでしょう。そして,その振り幅が大きいほど脳は活性化します。(p122)
 実は,小腸には体の免疫細胞の8割もが集まっているといわれ,免疫機能として重要な役割を担っているのです。(中略)つまり,老化防止には腸の健康を保つことがとても大切なのです。(p146)
 昔は,心のありようは内面から湧き出るものだと考えられていましたが,現代の行動療法や認知科学の世界では,「人の心のありようは,外側から規定される」という考え方が強まっています。(中略)心も体も,もちろん感情も若々しくいたいと思うなら,まず外見から変えていくのも一つの方法です。(p148)
 人生は長いのですから,早々とお楽しみをやめてしまう手はないのです。(p163)
 よく「ひとり言はよくない習慣」などという説がありましたが,それはまったくの迷信です。(p171)
 意識的に外に出る週案づけをしておくことが大事です。たとえば,毎月,最低1本は映画を見るとか,図書館で本を借りるようにするとか,生活の中の小さなことでも構いません。インターネットの発達により,家に居ながらにして映画を見たり,電子書籍で本を読んだりできる世の中になりましたが,外出して得られる情報や刺激とでは雲泥の差があります。(p174)
 日本人には「新しいことを学び,知識量を増やすことが勉強」という固定観念があります。そのため,「常に知識不足であり,そのためにもっともっと勉強すべきだ」という思いにとらわれがちなのですが,人生後半の勉強では,従来の知識詰め込み型ではなく,アウトプットにこそ意味があると思うのです。(p184)

2019年7月6日土曜日

2019.07.06 樋口裕一 『65歳 何もしない勇気』

書名 65歳 何もしない勇気
著者 樋口裕一
発行所 幻冬舎
発行年月日 2018.08.05
価格(税別) 1,100円

● 目新しいことが書かれているわけでもない。やむにやまれぬ体験からどうしてもこれは伝えておきたい,言っておきたい,書いて残しておきたい,という切迫感が伝わってくるわけでもない。淡々と知的に老年期をいかに生きたらよいかを書いている。

● 以下にいくつか転載。
 これまでの人生で得た価値観をそのまま高齢者になっても持ち続けて,意味のない我慢をしたり,無理をしたり,気をつかったりもしています。もうそのようなことをしなくていい立場になっているのに,自分でしなければならないような気がして,あれこれと仕事を増やし,気苦労を増やしています。そうして,むしろ人に迷惑をかけたり,自分でストレスを作り出したりしているのです。(p3)
 何かをしたとしても,無駄なものを手に入れるだけなのです。(p27)
 思春期のころに,尊大になったり落ち込んだりの起伏が激しいのですが,それは自己愛が強く,自分を絶対視してしまうからでしょう。(中略)生きていくのがつらくなった時,それは自分が肥大化している時だと私は思います。(p42)
 高齢になってもきっとほめてほしいし,少々大袈裟にほめてもらえるとなおさら,うれしいものでしょう。ですから,今のうちから他者をほめることを心がけたいとおもてします。ほめられれば,礼儀として相手はほめ返してくれるものです。つまり,ほめ合う関係ができます。(p59)
 文学作品の多くは社会に対する愚痴ではないかと,個人的には思います。個を通したいが社会の抑圧のためにそれができない,その愚痴を昇華したのが文学だと思うのです。(p60)
 私の人生も楽しいものばかりではありませんでした。つらい時期がありました。思い出したくない出来事もたくさんあります。しかし,(中略)悪い思い出も自分の成長の物語としてとらえられるようになりました。(p72)
 高齢になったら,時間を節約する必要はありません。頑張ってしまうと,翌日にすることがなくなってしまいます。(p80)
 私は時に,「世の中全部冗談だ」と言ってのけるファルスタッフの楽天的な視点を持ちたいと思うのです。(p85)
 「取り返しがつかない」と考えるから,焦ってしまいます。(中略)しかし,命さえ保っていれば,ほとんどのことがなんとかなります。心の底で「なんとかなる」と思っていれば,余裕が生まれます。(p86)
 気をつかうのは,日本人の美徳です。(中略)しかし,日本では気をつかいすぎる人が多すぎはしないでしょうか。(中略)気をつかう人は,自分を苦しめているのです、(p102)
 ちょっと流行遅れで古びていることを気にしなければ,新たに購入しなくても,一生着るのに困らないぐらいの服を,多くの人がすでに持っているでしょう。若いころは贅沢できたが今は貧しいなどと思う必要はありません。生産と消費の活発な産業中心社会から卒業して,お金にこだわらないで済む生活を手に入れることができるのです。(p135)
 孤独の中で楽しめることに,後期高齢者になる前に慣れておくのが,楽しく生きるコツといえるでしょう。そのために私が勧めるのはライフワークを持つことです。何かの作品を作る,何かを勉強する,何かを読んだり見たりするといった生涯続けられるような作業をすることです。(p140)
 コンサートを聴いただけですと,その時の印象はそのうちに消えてしまいます。どんなコンサートに行ったのかさえも忘れてしまいますし,そもそも印象そのものがはっきりしません。家に帰って,パソコンに向かい,音楽を聴いた時の自分の気持ちを思い出し,その日の演奏を思い出すうちに,感想がはっきりしたものになります。(p142)
 鑑賞するだけでも立派なライフワークになります。自分で実際に作業をする必要はありません。上手下手もありません。ただ音楽を聴いたり,絵画を見たりするだけです。(p152)
 現代のオーディオ機器の発達には目を見張るものがあります。それほど高価でなくても,心の底から感動をもたらすような音質で音楽を聴くことができます。(p154)

2019.07.06 『世界の美しい学校』

書名 世界の美しい学校
発行所 パイ インターナショナル
発行年月日 2019.04.19
価格(税別) 1,850円

● 日本からは東大(本郷),一橋,同志社,立教,神戸女学院の5つが紹介されている。欧米にはホテルや宮殿を校舎にしているところもあるし,天井画が描かれたバロック様式ホールなんてのもあるけれど,まぁ日本程度でいいんじゃないのと思ってしまうのは,ぼくが日本人だからだろう。

● すでに大学も図書館もパソコンやスマホの中に存在するといっていいのだろう(日本語文献はまだまだなのだろうけど)。大学のコンテンツは,個々具体の大学以上ものが,すでにネット上にある。
 勉強をするつもりなら,大学に行くのは時間とお金のムダかもしれない。図書館と書店とネットを使って独学する方が,少なくとも文系の場合は,大学に行くよりずっとコストパフォーマンスはいいだろう。

● 大学の建物は建物自体を作品として味わえばいい。そこに4年間在籍して何かをするところではなく,鑑賞の対象。
 大学というと年輩者にとってはまだまだ青春の代名詞的な存在で,キャンパスという言葉にノスタルジーを感じてしまうところがある(ぼくにはある)。しかしながら,ノスタルジーはノスタルジーにとどめておくのが良い。

2019年7月5日金曜日

2019.07.05 和田秀樹 『新・頭のよくなる本』

書名 新・頭のよくなる本
著者 和田秀樹
発行所 新講社
発行年月日 2017.10.27
価格(税別) 900円

● 著者が定義する“頭のよさ”とは「いろいろな考え方や知識を受け入れる柔軟性と,昨日より今日,今日より明日へと前進を続けられる能力と意欲」であり,最終的には「生き延びられる」能力。そのために大切な徳目は謙虚。
 問題を前にしてすぐに答えを出すことには疑問を呈している。答は1つとは限らない。

● 以下に転載。
 「わたしはあの人みないに頭がよくないから」といった言い方の裏側には,「だから同じようにできなくても仕方ない」といった諦めの気持ちが混じっているからです。わたしはこの「諦め」ことが,頭のいい人になるためのいちばんの障害だと思っています。(p18)
 どんなに頭のいい人でも,そのときそのときの状況によってはバカになることがあるのです。(中略)ところがほどんどの人は,「頭のよさ」を固定的なものとして受け止めています。(中略)その思い込みから,あなたは自由になってください。(p20)
 道具はいまあるもので十分です。あなたのいまの知識や語彙力,それさえ活用できればいいのです。活用することで,新しい知識が自然に見についていくからです。(p26)
 頭のいい人は脳のスペックを最大限に発揮できる人だということはわかってもらえると思います。では,頭のソフトって何でしょうか?(中略)わたしは心理学がその鍵を握っていると考えています。(中略)心の働きこそが,頭をよくする大切なソフトになると考えています。(p27)
 本を読んだり勉強したりして身につける知識はもちろん大切です。でもその知識は,人と話したり,教えたり教わったりというやり取りの中で本物の知識になっていきます。(p36)
 わたしはかつて,勉強するのは正解にたどり着くためだと思っていました。(中略)いまは逆です。勉強するのは「いろいろな考え方があるんだ」ということを知るためです。(p40)
 わたしは,頭のよし悪しを最終的に決めるのは,生き延びられるかどうかだと思っています。(中略)いま身につけたい頭のよさは,これからずっと生き延びていくための考える力や応用力になってきます。(p63)
 詐欺師の手口を調べていくと,すべての事件に共通点があります。彼らや彼女たちは,相手を頭の悪い人間にしてしまう術をよく知っているのです。たとえば「結論を急がせる」,「不安を煽る」,「情報から遮断する」といったことです。(中略)つまり詐欺師は頭がいいからだませるのではなく,相手の頭を悪くしてしまうからだませるのです。(p68)
 答をすぐに出せないのは,それだけ考える範囲が広いからということもできるはずです。すぐに答えを出せる人はどうでしょうか?(中略)思考の幅はものすごく狭いのです。いくら知識があっても,それを応用して考える力がないから答えがすぐ出せるのです。(p75)
 大切なのが,もっと賢くなりたいという気持ちではないでしょうか。なぜなら,賢くなりたいという気持ちに終わりはありません。(p81)
 頭のいい人ほど謙虚なのです。(中略)こういった態度はすべて,自分が権威ではなく,まだまだ勉強中の人間だと思っているから自然な振る舞いとして出てきます。(p82)
 すべての地位はいつか失います。社長だって大臣だっていつまでも務まる地位ではありません。(中略)そのとき,謙虚さを失わない人なら周囲と幸せな人間関係を築いていけます。(p89)
 ほんとうに頭のいい人は,結果に満足できたときでも「なぜうまくいったのか」を考えます。(p94)
 なぜ,そういった自信家や自慢するタイプの人は頭が悪く見えてしまうのでしょうか? わたしの答えは単純です。自慢する人には謙虚さがないからです。(p98)
 頭のいい人にはまず,いろいろな方法を思いつく知性があります。この知性というのは,特別な能力のことではありません。とにかく「考えてみる」という習慣です。つぎはそれを実際に試してみる体力です。(p118)
 「あれこれ試すより,一つのことを我慢強く続けたほうがいい」 こういう考え方も,「知的体力」を衰えさせるとわたしは思っています。(p121)
 要は「試してみる」ことさえ忘れなければいいのです。(中略)日常生活のいろいろな場面で,気軽な気持ちで「この方法,どうだろう」と試してみることです。(p124)
 仕事の場合でも,頭のいい人ほど楽しそうだというのがわたしの実感です。「この方法は使えるよ」とか,「もう一工夫するとうまく行きそうだ」とか,自分が試していることを嬉しそうに教えてくれるからです。(p125)
 焦りや不安が大きくなったときの考え方として,ぜひ身につけていただきたいものがあります。「ムダなことなんて何一つない」という考え方です。いまの仕事がどんなに自分のやりたいkととかけ離れていても,現実の仕事です。現実ですから,いろいろな人と会って話し,いろいろな考え方を知ることができます。知識や経験も積み重ねられます。(p134)
 2つとか3つの顔を持つ人は,それぞれに合わせた世界や人間関係を持つことができます。(中略)一つの世界にこだわってしまえば,そういった広がりやチャンスは生まれません。(p137)
 ときどき,「この人,どうやって食べているんだろう」と思わせる人がいます。わたしの気のせいかもしれませんが,かつてに比べればずいぶんそういう人が増えています。でもほとんどの場合,食うための仕事はどこかで確保していることが多いのです。(p141)
 思い切った決断を必要とすることほど,迷うのは当然です。(中略)いつまで迷っても答えは出ません。答えが出ないなら,答えが出るまで迷っていていいはずなのに,それは煮え切らない生き方だとか,優柔不断すぎると考える人がいます。若い人ほど,そういう傾向があるようです。(中略)でもわたしは,決断こそいつでもできるのにと思っています。(p145)
 むしろ,「とりあえず」の答え,「ひとまず」の答えが出ればいいし,そのほうが失敗してもダメージが少ないはずです。それに,次の答えも出しやすいですね。(p148)
 頭のいい人は,他人の頭のよさを素直に認めます。(中略)学歴はもちろん,経験とかポジション,あるいは周囲の評価を鵜呑みにすることはありません。というより,気にしないのです。(p156)
 社会や周囲の価値観とか考え方が強固であればあるほど,そこから抜け出せなくなるという心理がわたしたちにはあります。(中略)いつも感じることですが,自己啓発の難敵は現実の環境そのものだと言うこともできるはずです。(p166)
 みんなと違うことをして失敗すれば自分の責任ですが,みんなに合わせて動いていれば失敗してもだれのせいでもありません。しかもみんなで言い訳することだってできます。やっぱり楽なのです。そのかわり,協調性を優先させれば考える力はどんどん弱くなります。(p169)
 全会一致でトップの提案が可決されたとします。こういう会議の成り行きは「危険だ」と教えるのがアメリカの教育です。なぜなら,仮に10人の出席者がいても,全会一致ならひとりしかいないのと同じだからです。(中略)10人の人間がそれぞれの知恵を出し合い,それぞれの考えをぶつけ合うというプロセスは省略されていますから,最初から結論ありきの会議と同じになってしまいます。開いた意味がないのです。(p173)
 退屈とかヒマというのは,そんなに悪いことなのでしょうか? 約束もノルマも義務もない,自由な時間です。何もすることはないけど,何をやっても許される時間です。本来だったら,こんな幸せで恵まれた時間はないはずです。そのことに気がついていない人は,退屈のありがたさもわからないのではないでしょうか。(p184)
 自由になる時間が少しずつ増えてきたら,どんな分野でもいいですから勉強することだけは忘れないでください。飽きてもいいし長続きしなくてもいいです。(中略)役に立たないことでもいいです。そもそもヒマつぶしですから,自分が面白ければそれで十分です。(p186)

2019年7月1日月曜日

2019.07.01 茂木健一郎 『「いい人」をやめる脳の習慣』

書名 「いい人」をやめる脳の習慣
著者 茂木健一郎
発行所 学研プラス
発行年月日 2018.12.11
価格(税別) 1,300円

● 和田秀樹『自分を信じるということ』と同じ内容。つまり,自分を信じるということは“いい人”をやめることでもある。
 ぼくが若かった頃は最大の徳目は協調性だった。今でも変わるまいが,それを揺さぶる動きが堀江貴文さんあたりを源流にして大きな流れを作りつつあるように思われる。
 自分はといえば,人からの依頼を断れる人になりたい。

● 本書では職場の狭い範囲で同じ人と飲んだり食べたりするのではなく,別の世界にいる人と会うことの重要性が説かれている。なかなか難しいだろう。
 が,今はSNSがある。直接会わずとも,謦咳に接することは一応可能だ。SNSには毀誉褒貶あるが,ネットをうまく活用すれば,ベストではないにしても現状を揺すってみることはできるのではないか。

● 以下に転載。
 そもそもこの世の中には,すべての人に好かれる人などひとりもいません。(中略)これが人間関係の本質ではないでしょうか。ところが,こうした本質を認めることができない人は意外にも多く,誰からも好かれたい一心で「いい人」を演じてしまい,苦しんでいるのです。(p18)
 「いい人」を演じているあなたの脳で,どんなことが起こっているのか。実はその瞬間,あなたの脳の前頭葉では抑制回路が強く働いています。(p21)
 世の中で成功を勝ち取っている人たちのほどんどは,脳の抑制を外すことに長けた人たちです。そのため,熱烈な支持者もいれば,同時に強烈なアンチもいるわけですが,彼らはそんな周囲の反応などに臆することもなく,常に新しいことにチャレンジしてイノベーションを起こしているのです。(p33)
 「いい人」という言葉は「常識人」とも言い換えることができるでしょう。しかし,大きな結果を出したいときに「常識人」でいることなどできないのです。(p34)
 脳科学的に見ても,人間は現状を変えることを嫌う生き物だといえますから,この固定観念は必然的に身につきやすい考え方だといえるでしょう。(中略)しかし現在は(中略)ものすごいスピードで変化しています。つまり,固定観念を捨ててその変化に対応できなければ,どんどん時代に置いていかれてしまう。(p43)
 「相手の期待に応えるよりも,まず,自分の気持ちを優先させよう」 私はそう考えて行動する習慣を持ったことで,脳の抑制が外れてフル回転を始めるようになりました。(p50)
 「自分をさらけだす」 これが,自分の個性を発揮するということです。(p55)
 「人よりも劣っている」と覆われるポイントの近くに,その人ならではの輝きが潜んでいることは,脳科学の研究でもわかっています。(p58)
 なぜ,他人の期待に苦しまないのでしょうか? それは,期待とは「応えるもの」でhなく「超えるもの」なのだと考えているからです。期待に“応える”という「相手本位」の発想ではなく,期待を“超える”という「自分本位」の発想にシフトチェンジするのです。(中略)たとえそれが面倒な仕事であっても「期待を超える」と決意した途端,嫌々やっていた仕事が,チャレンジすべき仕事へと変化するのです。(p65)
 存在感がある,つまり独自の輝きを放っている人の言葉と行動には,常にその人なりの哲学が込められています。(中略)皆さんもまず自分の存在感を意識して,少しでも自分を出してみてください。(p80)
 嫌われることを恐れ,自分の保身ばかり考えている人には,どうがんばっても相手の心の中を読むことはできないからです。その点,どうすれば相手に喜んでもらえるかをいつも真剣に考えているような思考回路の人は,誰からも好かれ,何をやっても受け入れてもらえるということになるのです。(p92)
 「この状況をどうすれば楽しめるのか」という意識を持ちさえすれば,どんなことでも自分の学びや成長の機会にすることはできるということ。(p117)
 ユーモアのセンスを身につけること自体は,脳科学の立場からも,ぜひおすすめしたいことです。というのも,脳の神経回路は楽観的に物事を捉えることで活性化され,潜在能力が発揮されるという性質を持っているからです。人間関係に限らず,あなたがさまざまなチャレンジを続けている際に,笑顔でいることは大変重要なのです。(p127)
 私自信もSNSを利用していますし,そのシステム自体に問題があるとは思ってはいませんし,無理やり辞める必要があるとも思いません。むしろ,これは使い方次第で自分の世界を広げることがでいる素晴らしいツールだと思っています。そして,狭いコミュニティで他人の顔色を窺ってばかりいるよりは,SNSを通じて世界中の人と「毛づくろい」をしてほしいと考えています。「いい人」ちすて評価されることなどはさっさと卒業し,世界に能動的に働きかけて,本当の意味での「自己アピール」をしてみてはいかがでしょうか。(p131)
 セルフ・ブランディングを成功させるために,最も重要なポイントは何でしょうか。社会や周囲に対して,自分がどんな価値を提供できるのか,さらにはどんな貢献ができるのかを,他者の価値にぶら下がるのではなく,自分自身が責任を持って発言,行動することによって明確にすることです。(p133)
 「いい人」は常に他人本位のマインドになりがちで,能動的に自分の感動を他者と共有する意識が低いものです。けれどもあなたが自分の本当に感動したことを発信し続けていれば,そのうちあなたに賛同してくれる人,すなわち同じ「バズ回路」を持った人が現れるはずです。(p137)
 自分の意見を言えない人間は意思決定を任される人材になり得ないのです。(p144)
 賢いといわれる人ほど,実は「手抜き」が上手であるということをご存知でしょうか。(中略)ですが,そうした「正しい手抜き」をするためには,まずは本物の味を知っておかなければならない。(p162)
 「つながりタイム」を十分に楽しむためには,それと同じくらいに十分な「孤独タイム」がないといけないのです。なぜなら,人間は孤独な自分だけの時間に,他人とのコミュニケーションから得た情報や感覚を脳の中で整理する必要があるからです。(p168)
 人とのつながりに過度な期待を持たないことで,かえって自己肯定感が高まり,人間関係を構築する心地良い自信が生まれるものです。(p169)
 私は,正しいといわれる行動を1回しかしない人よりも,間違った行動を100回する人のほうが,絶対に学びが多いと考えています。そうやって「正解」がわからないことが,世界の最先端を生きている証なんだ。そう思えば,どんなことでも楽しくなります。(p185)
 「いい人」のままでいる人は,自分の個性という資源を使わずに,そのまま放置している人です。(中略)自分という個性の資源を発掘できなければ,当然自分自身を生かすことはできませんし,いつまでも「いい人」でいると自分の付加価値がどんどん下がっていきます。(p188)