書名 リタイアライフが10倍楽しくなる 定年デジタル
著者 吉越浩一郎
発行所 ワニブックスPLUS新書
発行年月日 2018.10.25
価格(税別) 900円
● 定年後はSNSを使って楽しく過ごそうという主張を展開している本だと思って,長らく敬遠していた。定年を機にFacebookを始めるなんてのは,典型的なダメパターンだと思っているので。
が,反対意見に耳を傾けてみるのも大事なことだ。いや,何だか吸い寄せられるようにして,フラフラとこの本を買ってしまったのだ。
● ビジネス書的な色彩がわりと濃い。仕事も個人生活も対処法は同じというのが著者の言い分なので,自ずとそうなるのだろう。
ので,本書を貫くのは合理主義だ。割り切りが凄い。iPhoneを使いだしてすぐに紙の手帳は捨てたらしい。
● SNSの中でもFacebookを中核に据えている。Twitterへの評価はわりと淡泊。
ではなぜFacebookがいいのかというと,交信が途絶えていた友人を発見できることがあるから,であるらしい。個対個のコミュニケーションを大事にする人なのだろう。そういう人にはたしかにFacebookはぴったり来るものだ。
それでも長く使っているとリアルを前提にしない “友だち” が増える。それに伴う悩みもあるらしいのだが,それを補ってあまりあるメリットがあるということか。
● これを読んでFacebookを再開しようとはまったく思わない。かつてのアカウントで再開できるようにFacebook側がシステムを変えればひょっとして再開したりするのかな。
たぶん,しないな。Twitterのみで行くだろう。Facebookにはたとえば連投すると嫌われるとか(タイムラインの流れがTwitterよりゆっくりだから),見えないルールがけっこうあるのもウザったい。何より,ぼくは個対個のコミュニケーションをあまり望んでいない。
● 個対個を徹底するならLINEになるが,Facebookは衆人監視のもとで個対個のコミュニケーションを進めていくところに特徴があって,そこに心地良さを憶える人が多いのだと思う。完全に個対個になるLINEだと気詰まり感を覚える人も多いだろう。
そのLINEは親しい人とのやりとりに使うものだと著者はあっさり断定。LINEでつながっている人を増やすのは愚の骨頂とは言っていないけれども,そういう意味だ。
ぼくはLINEでつながっているのは配偶者だけだ。それがLINEの本来の使い方だと認めてもらった気分だ。
● が,最大の収穫は「Waaaaay!」というアプリがあるのを知ったこと。初めての場所に行って,Googleマップを起ち上げても最初の一歩をどっちに踏み出せばいいのかわからないことがある。そういうときに役立つアプリ。
方向音痴には福音だ。さっそくインストールした。
● 以下にいくつか転載。
退任まで14年間社長を務めたトリンプ・インターナショナル・ジャパンでは,思うように仕事をさせてもらって,業績も残せました。けれど今のほうがずっと楽しい。(p5)
各種の調査によれば,シニア層の経済状況が苦しくなっているのは日本もアメリカももはや変わりません。しかし,欧米の場合はそれが「幸福感」の低下につながっていないのです。(中略)日本のシニア層の「幸福感」の低さとは,社会的なつながりの薄さそのものなのではないでしょうか。(p21)
生活していくために,またそれ以上に「生きがい」を感じるためには「死ぬまで働く」ことしか選択肢がない,ということは大きな問題なのではないか,と思います。(p23)
海外の人は「いつまでも働きたくないよ!」というのが圧倒的多数で,「早くリタイアしたいなあ,リタイアする日が楽しみ」というのが「当たり前」の感覚です。(中略)いよいよ定年が近づいてきた時それを心から「楽しみ!」と思えなのは,絶対に「よくない!」と私は思うのです。(中略)「することがないから仕事をしたい」「仕事以外に時間の使い方がわからない」なんて寂しいことを言わないでほしいのです。(p26)
私はリタイア後の人生を「本生」と呼んでいます。(中略)余った人生ではなく,本当の人生。だから「本生」と呼びたいのです。(p29)
しょせん仕事というのは「定年」で終了するのですから,そんなものを「生きる目的」にしてはいけない,ということに気づいた。(p33)
10万円収入が減ったことによる「不満」は,平日の夫婦の会話が1日平均16分増えることによって解消できる(p35)
仕事もプライベートも,根本的な部分に変わりはありません。仕事ができる人はよく遊ぶ,遊びの達人は仕事もできる。これは古今東西の真実です。(p64)
PCDAのそれぞれの間隔は短いほどいいのです。いっそ,PCDAというより「CA」の繰り返しでいい。暇なら「P」に時間をかけてもいいけれど(中略)いくら定年後でも「P」だけを趣味にするのでは意味がありません。(p68)
そもそも完璧な計画などないのですから,計画に時間をかけるより実行のほうに時間を使うべきなのです。実行の回数を増やすべきなのです。(p69)
一回の間違いで取り返しがつかなくなるような判断というのは,経営者の立場であっても,実際にはめったにありません。日常の仕事は,毎日小さな判断をどんどん下していくことが一番重要です。その上で「昨日の小さい判断が間違いだった」というのがわかれば,翌日から違うことをすればいい。これは「小さな後出しジャンケン」のようなものです。「間違いだった」ことがわかってから,次の判断をするのですから,つぎで「負ける」ことが基本的にない。(p70)
少し長めの文章になると,(中略)音声入力を利用すると驚くほど簡単です。(p76)
私は「すべての仕事に締切(デッドライン)を設ける」ことが最低限必要と考えてきましたから,それを在職中にも実践し,本に何度も書きました。小さいことも,大きなこともすべて同じです。(p96)
私はiPhoneを買ってから,紙の手帳と住所録を使うのをやめました。(中略)すぐ切り替えました。(p99)
こうしたサービスというのは「完成形」を待ってから「買う」「使う」のではなく,とりあえず使い始めてしまうのが正解。IT系,デジタル系のサービスの最大の特徴だと思います。(p101)
目的がはっきりしているのなら,紙だろうがデジタルだろうが,手段を選ぶ必要はありません。「重要なものは紙で保存すべき」「紙のほうが信頼できる」という迷信のようなものは,もうさっさと捨ててしまったほうがいい。(p103)
通信内容が本当に外部にぜったいに漏れてはいけないという場合以外,一般の人が日常の連絡,ウェブの閲覧をするレベルなら,一定の防御をしておけば,それ以上に神経質になりすぎることはないと思います。(p210)
自分の人生が長過ぎると感じた時点で,その人の人生は「負け」,失敗なのだと思っています。(p215)