書名 人生を豊かにしてくれる「お金」と「仕事」の育て方
著者 松浦弥太郎
発行所 祥伝社
発行年月日 2020.03.10
価格(税別) 1,450円
水増しは一切ない。仕事や生き方の心構えを説いている本なのではあるけれども,ギュッと中身が詰まっている。著者が実際にしてきた苦労(その多くは普通にしていたのでは体験できないもの)とそこから上がってきた教訓で満ちている。
ゆっくりと読んでいくのが良いだろう。速く読めるのを自慢しているような輩は特に。文章は平易でサッサと読んでいけるものだが,そこをあえてブレーキをかけてゆっくりと。
● 以下に多すぎる転載。
「体力のある者が勝つ」。ある日,僕のビジネスにおける師が教えてくれた言葉です。(中略)ここで言う体力とは,いわゆる身体的なものではありません。その本質は,知識という底力。人と人とのネットワークと信用,ガソリンとも言える,いくばくかのお金です。(p3)
作物を育てる。人を育てる。人間関係を育てる。病気の治療や問題解決など,待つことが大切なことは,日常生活でもたくさんあります。ビジネスにおいても「待つ」ことの本質は,それと同じです。それらを待たずに急いだらどうなりますか? 間違いなく失敗するのです。例えば,一カ月で一〇キロ減量できる方法など,本来,一年かけてやるべきことを,待たずに得る成果には,必ず大きなリスクがあり,決して健全ではありません。ですから,「待つ」ということは,あらゆることの基本中の基本。大切な姿勢です。(p5)
お金の動きが泊まっている時は,何も起きていないということですから,いいことではありません。物事が順調にいっている時には,お金が動いているのです。(p17)
編集長時代に,人は嫌なことを忘れさせてくれるものにお金を使うのだ,と気がついて,雑誌作りに生かしました。嫌なことを忘れさせてくれるものを作る仕事とは,「困っている人を助けること」です。(p33)
利益の本質,それは「感動」です。利益とは,感動する人の数に比例するもので,利益が多いということは,それだけたくさんの人に感動を届けたということ(中略)答えはとてもシンプルです。しかし,たくさんの人が感動するものは,そう簡単には見つかるものではありません。(p37)
せっかく買ったクルマをすぐに売ってしまうのですから,損をしているように見えるのですが,(中略)それは損ではないのです。体験したクルマですから,価値も高く,再販価値も高いのです。その経験のおかげで,誰も知らないようなクルマの特徴を延々と語り続けることができますし,それを発信することもできます。(中略)インターネットのおかげでありとあらゆる情報が手に入る時代だからこそ,体験することの価値がどんどん高くなっています。(p46)
「自分の頭で考えろ」とよく言われますが,何から始めていいのかわからない時はまず観察から入ることです。そして想像し,思考する。(p55)
現場では,僕は若くて素直だし,体力もあるから,どこへ行っても一番人気で取り合いになるくらい。そのうち日給も多くもらえるようになりました。人に必要とされれば,多く稼げることはこの時,学んだんです。(p67)
初めての海外で,言葉も通じないし,そんな安いホテルに泊まったこともない。周りは全員知らない人で,怖いという意味では,すべてが怖かったです。でもそこにいると,いつの間にか,それが普通になるんです。(p69)
なかなか厳しい旅でしたが,そこで僕が感じたのは自由でした。自分で考えて,自分でやったことが,すべて自分に返ってくる。そんな日々がとても新鮮だったのです。(p70)
タクシーの運転手さんから面白い話を聞きました。東京都港区の南麻布は高級住宅街として知られていますが,そこから羽田空港に行ってほしいと言われて,「高速道路を使いましょうか?」と聞いたところ,「必要ありません」ときっぱり断られたそうです。(中略)下の道で行っても間に合う時間に家を出ているのであれば,時間を節約したところで大して意味がありません。その人にそって高速代は,無駄遣い,つまり悪い浪費ということです。(中略)お金持ちと言われる人たちは,使い方をしっかり考える習慣が身についていて,悪い浪費をしないのだと感心しました。(p92)
僕自身,お金の使い方にはたくさんの失敗をしてきました。その失敗を思い返し,原因を突き詰めると,自分の目で確かめていなかった。失敗のリユのほとんどはたったこれだけのことなのです。(中略)他人任せにせず,間接的な情報を鵜呑みにせず,どんなささいなことでも自分の目でしっかりと確かめて判断し,お金をその確かめたものに変えていく。これほどお金が喜ぶ使い方はないのです。(p100)
「成功の反対は失敗ではなく,何もしないこと」という言葉から,一歩を踏み出す勇気をもらいました。(中略)失敗を恐れるあまりに,勇気を失い,何もしない人になってしまうことくらい残念なことはないのです。(p105)
株を買って毎日のように株価をチェックしていても,下がってくると,また下がった,今日も下がった,と落ち込んでいるうちにうんざりしてきて,チェックするのがイヤになってしまう,というのも失敗のパターンです。数字から逃げるから損を大きくしてしまいます。(p114)
異論はない。損切りは大事なことだから。しかし,株についていえば,買ったら買ったことを忘れているくらいでちょうどいい。株価なんかチェックしないこと。ノンびりしている方が儲かる確率は高いと思う。
好きなことを続けていたら,いつの間にか稼げるようになっていた,という話をよく聞きますが,そこまできれいな話は,現実にはあまりないように思います。やはり仕事をするなら,費用対効果がいつも頭にないと,なかなか稼げるようにはならないし,収入は安定しないのです。(p121)
やはりただぼんやりしているだけではダメなんです。(中略)どんなことにも通じる法則ですが,自分がしっかりしよう,自分でなんとかしようと覚悟しないと,うまくいかないのです。(p131)
本が欲しくて買うというよりも,僕とのコミュニケーションの代わりに買ってくれる。人は,ただ,物にお金を払うだけではないという,商売の基本がわかってきたんです。(中略)自分に興味を持ってもらえたら,ある程度は売ることができます。その頃,自分を買ってもらう,自分も売りものの一部なんだ,と知りました。(p132)
困っている人を助けることが面白かったんです。「どうしても欲しいけど見つからない」人に対して,自分ができることを果たす。そこに自分自身の価値を見つけました。そういう仕事の姿勢はずっと変わりません。(p136)
肉体労働の世界であっても,一生懸命やれば信用されるようになるんです。あいつは真面目でいいやつだ,と評判になると,こっちに来い,と引っ張ってくれる人も出てきます。そういう時のうれしさが僕の仕事の原点にはあるのです。(中略)いつも人に喜ばれること,人が認めてくれることを,藁をもつかむような気持ちでやってきました。(p140)
投資先のもっとも間違いのない選び方は,自分が一番詳しいもの,もしくは自分が大好きなものです。(中略)一番詳しくて,大好きなものとは,まず「自分」が思い浮かぶはずです。(中略)だから自分という「投資」先を忘れてはいけないのです。(p148)
鉄則は,自分で調べて自分で考えることです。利益を得たい気持ちで,専門家や詳しい人を頼って,どうしたら良いかを聞いているうちは失敗することが多いでしょう。(p150)
投資において,欲は禁物。リスクの学び方,楽しみ方とは,この言葉に尽きるのです。(p154)
チャンスというのはほとんどの場合,常に試練という形でやってくるのです。訪れる試練をただの困難と捉えてしまうのか,もしくは,その中身はチャンスだと思うのかで,リターンが大きく違います。(p155)
投資の世界で成功する秘訣は,投資対象についてどれだけ詳しくなるかに尽きます。(p155)
ラッキーが偶然訪れることは,ほぼないと思っています。起きていることは,基本的にはすべて自分次第で,棚からぼた餅が落ちてくることは,滅多にありません。偶然に見えても,それは,その人自身が起こしているものです。(p157)
こうすれば成功するだろう,と思っているわけではなく,好奇心が旺盛だから,すぐにやりたい,やろう,と反応するのです。そういう態度が偶然を引き起こしているように思えます。(p159)
ピカソの絵画に興味を持っても,スマホで見ることで好奇心を満たしていると,その好奇心は育ちません。美術館に足を運び,実際に鑑賞することで,次は,この作品が見たい,彼の作品の背景にあることをもっとよく知りたい,と好奇心が伸びていきます。(p160)
投資信託や株式への投資で一億円の利益を出すのはたやすいことではありませんが,自分でビジネスを始めて一億円の利益を出すことはそこまで難しくはありません。一番リターンの高い投資は自分への投資です。(p161)
もっともレバレッジが効く投資は,自分が感動することへの投資です。僕は,そう考えています。いろんなことを面白がって,楽しんで,何かに感動するようなライフスタイルを続けるために投資をするのです。(中略)感動すれば,誰かに伝えたくなります。(中略)そうやって感動が人を動かすのです。(p162)
感動するためには,自分自身が常に学び続けなくてはなりません。同じことを続けていても感動は減る一方です。情報収集も必要になりますし,ワクワクし続けるためには人任せではいけないのです。(p164)
人は年齢を重ねるにつれ,変化が起きにくくなりますが,それでは成長することができないのです。何より,いい友人を作るためには,自分自身が成長し続ける必要があります。(p171)
株を運用していて失敗する人に共通して言えるのは,期待しすぎということです。例えば,どこかの会社の株を一〇〇万円で買うとします。そういう人は,来年には二〇〇万円になっていると思ってしまうのです。(中略)感動もそれと同じです。増やすことができるのは,せいぜい年に五パーセントくらい,つまり一〇〇人を一〇五人にするくらいのところから始まります。でも,それを続けた人が成功するのです。(p182)
時間と仲良くしたいと思ったら,どんなふうに仕事をすればいいのでしょうか。僕が意識していることのひとつに,「準備に時間をかける」があります。(中略)仕事はもっともっと想像力を働かせて,相手の期待値を超えるものでないと成功とは言えません。平均より少し上,八〇点,九〇点を目指すやり方もありますが,それでは誰も感動してくれないのです。一二〇点,一三〇点出せてやっと,喜んでもらえます。そのためには準備に時間をかけることが一番の近道です。(p198)
僕が続けていたのは,自分が大好きだという想いを語り続けることです。どこへ行っても,事あるごとに語ってきました。(中略)そこから何かが動き始めるのです。だから自分の「好き」を語る時は,照れないで堂々とするのが鉄則です。(p203)
世の中に「ぼったくり」と言われるようなものは,基本的にないと思っています。高い,これはぼったくりだ,と言ってしまうとそれでおしまい。なぜそれが高いのかが理解できないということです。(p208)
信用を築くためには時間が必要ですが,失う時はあっという間です。多いのは,お金のトラブルと男女関係のごたごたでしょうか。(中略)会社員であれば,経費の精算などはしっかりと規定に沿って行うようにしてください。(p216)
なぜなら,そう思わない限り前に進めないからです。(中略)どんなに理不尽で,どんなに自分が不幸な経験をしたとしても,それを許して認めない限り,そこにとどまってしまいます。こういう経験のおかげで自分は学べたのだという感謝がない限り,そこから脱却できません。だから,全肯定なのです。(p220)
「成功するための条件は何ですか?」と質問されたら,「何かに詳しくなること」と,答えます。人より詳しければ,絶対に成功するのです。世界一詳しかったら世界一になれます。(中略)詳しくなるためにはどうすればいいのか。僕に限って言えば,努力ではなく単純に興味があるから,いつもそういう気持ちで(中略)世の中を観察していて,そこで知り得た情報を,意識しないまま自分の中にインプットしているのです。(中略)自分が詳しいことをどうやって仕事に変えるか,どうすればライフワークになるのか。僕の場合は,わかりやすいところで言うと,言語化とメッセージ。あとは,雑誌やインターネットのメディアで文章を書き続けるということ。(p226)
僕は「暮しの手帖」の編集長として学んだのは,雑誌の編集技術よりも商売のやり方だったと思っています。いいものを人は「いいね」とは言っても買うとは限らない。どんなものなら欲しくなるのか,買いたくなるのかを徹底的に考えました。(中略)編集長で取次会社に足を運ぶ人はあまりいなかったと思うのですが,僕にとっては情報の宝庫でした。(p233)















