2020年12月27日日曜日

2020.12.27 松浦弥太郎 『人生を豊かにしてくれる「お金」と「仕事」の育て方』

書名 人生を豊かにしてくれる「お金」と「仕事」の育て方
著者 松浦弥太郎
発行所 祥伝社
発行年月日 2020.03.10
価格(税別) 1,450円

● 本書と同じようなタイトルの本がいくつもある。それらいくつもの本と本書が異なるところは,かけている元手の違いだ。
 水増しは一切ない。仕事や生き方の心構えを説いている本なのではあるけれども,ギュッと中身が詰まっている。著者が実際にしてきた苦労(その多くは普通にしていたのでは体験できないもの)とそこから上がってきた教訓で満ちている。
 ゆっくりと読んでいくのが良いだろう。速く読めるのを自慢しているような輩は特に。文章は平易でサッサと読んでいけるものだが,そこをあえてブレーキをかけてゆっくりと。

● 以下に多すぎる転載。
 「体力のある者が勝つ」。ある日,僕のビジネスにおける師が教えてくれた言葉です。(中略)ここで言う体力とは,いわゆる身体的なものではありません。その本質は,知識という底力。人と人とのネットワークと信用,ガソリンとも言える,いくばくかのお金です。(p3)
 作物を育てる。人を育てる。人間関係を育てる。病気の治療や問題解決など,待つことが大切なことは,日常生活でもたくさんあります。ビジネスにおいても「待つ」ことの本質は,それと同じです。それらを待たずに急いだらどうなりますか? 間違いなく失敗するのです。例えば,一カ月で一〇キロ減量できる方法など,本来,一年かけてやるべきことを,待たずに得る成果には,必ず大きなリスクがあり,決して健全ではありません。ですから,「待つ」ということは,あらゆることの基本中の基本。大切な姿勢です。(p5)
 お金の動きが泊まっている時は,何も起きていないということですから,いいことではありません。物事が順調にいっている時には,お金が動いているのです。(p17)
 編集長時代に,人は嫌なことを忘れさせてくれるものにお金を使うのだ,と気がついて,雑誌作りに生かしました。嫌なことを忘れさせてくれるものを作る仕事とは,「困っている人を助けること」です。(p33)
 利益の本質,それは「感動」です。利益とは,感動する人の数に比例するもので,利益が多いということは,それだけたくさんの人に感動を届けたということ(中略)答えはとてもシンプルです。しかし,たくさんの人が感動するものは,そう簡単には見つかるものではありません。(p37)
 せっかく買ったクルマをすぐに売ってしまうのですから,損をしているように見えるのですが,(中略)それは損ではないのです。体験したクルマですから,価値も高く,再販価値も高いのです。その経験のおかげで,誰も知らないようなクルマの特徴を延々と語り続けることができますし,それを発信することもできます。(中略)インターネットのおかげでありとあらゆる情報が手に入る時代だからこそ,体験することの価値がどんどん高くなっています。(p46)
 「自分の頭で考えろ」とよく言われますが,何から始めていいのかわからない時はまず観察から入ることです。そして想像し,思考する。(p55)
 現場では,僕は若くて素直だし,体力もあるから,どこへ行っても一番人気で取り合いになるくらい。そのうち日給も多くもらえるようになりました。人に必要とされれば,多く稼げることはこの時,学んだんです。(p67)
 初めての海外で,言葉も通じないし,そんな安いホテルに泊まったこともない。周りは全員知らない人で,怖いという意味では,すべてが怖かったです。でもそこにいると,いつの間にか,それが普通になるんです。(p69)
 なかなか厳しい旅でしたが,そこで僕が感じたのは自由でした。自分で考えて,自分でやったことが,すべて自分に返ってくる。そんな日々がとても新鮮だったのです。(p70)
 タクシーの運転手さんから面白い話を聞きました。東京都港区の南麻布は高級住宅街として知られていますが,そこから羽田空港に行ってほしいと言われて,「高速道路を使いましょうか?」と聞いたところ,「必要ありません」ときっぱり断られたそうです。(中略)下の道で行っても間に合う時間に家を出ているのであれば,時間を節約したところで大して意味がありません。その人にそって高速代は,無駄遣い,つまり悪い浪費ということです。(中略)お金持ちと言われる人たちは,使い方をしっかり考える習慣が身についていて,悪い浪費をしないのだと感心しました。(p92)
 僕自身,お金の使い方にはたくさんの失敗をしてきました。その失敗を思い返し,原因を突き詰めると,自分の目で確かめていなかった。失敗のリユのほとんどはたったこれだけのことなのです。(中略)他人任せにせず,間接的な情報を鵜呑みにせず,どんなささいなことでも自分の目でしっかりと確かめて判断し,お金をその確かめたものに変えていく。これほどお金が喜ぶ使い方はないのです。(p100)
 「成功の反対は失敗ではなく,何もしないこと」という言葉から,一歩を踏み出す勇気をもらいました。(中略)失敗を恐れるあまりに,勇気を失い,何もしない人になってしまうことくらい残念なことはないのです。(p105)
 株を買って毎日のように株価をチェックしていても,下がってくると,また下がった,今日も下がった,と落ち込んでいるうちにうんざりしてきて,チェックするのがイヤになってしまう,というのも失敗のパターンです。数字から逃げるから損を大きくしてしまいます。(p114)
 異論はない。損切りは大事なことだから。しかし,株についていえば,買ったら買ったことを忘れているくらいでちょうどいい。株価なんかチェックしないこと。ノンびりしている方が儲かる確率は高いと思う。
 好きなことを続けていたら,いつの間にか稼げるようになっていた,という話をよく聞きますが,そこまできれいな話は,現実にはあまりないように思います。やはり仕事をするなら,費用対効果がいつも頭にないと,なかなか稼げるようにはならないし,収入は安定しないのです。(p121)
 やはりただぼんやりしているだけではダメなんです。(中略)どんなことにも通じる法則ですが,自分がしっかりしよう,自分でなんとかしようと覚悟しないと,うまくいかないのです。(p131)
 本が欲しくて買うというよりも,僕とのコミュニケーションの代わりに買ってくれる。人は,ただ,物にお金を払うだけではないという,商売の基本がわかってきたんです。(中略)自分に興味を持ってもらえたら,ある程度は売ることができます。その頃,自分を買ってもらう,自分も売りものの一部なんだ,と知りました。(p132)
 困っている人を助けることが面白かったんです。「どうしても欲しいけど見つからない」人に対して,自分ができることを果たす。そこに自分自身の価値を見つけました。そういう仕事の姿勢はずっと変わりません。(p136)
 肉体労働の世界であっても,一生懸命やれば信用されるようになるんです。あいつは真面目でいいやつだ,と評判になると,こっちに来い,と引っ張ってくれる人も出てきます。そういう時のうれしさが僕の仕事の原点にはあるのです。(中略)いつも人に喜ばれること,人が認めてくれることを,藁をもつかむような気持ちでやってきました。(p140)
 投資先のもっとも間違いのない選び方は,自分が一番詳しいもの,もしくは自分が大好きなものです。(中略)一番詳しくて,大好きなものとは,まず「自分」が思い浮かぶはずです。(中略)だから自分という「投資」先を忘れてはいけないのです。(p148)
 鉄則は,自分で調べて自分で考えることです。利益を得たい気持ちで,専門家や詳しい人を頼って,どうしたら良いかを聞いているうちは失敗することが多いでしょう。(p150)
 投資において,欲は禁物。リスクの学び方,楽しみ方とは,この言葉に尽きるのです。(p154)
 チャンスというのはほとんどの場合,常に試練という形でやってくるのです。訪れる試練をただの困難と捉えてしまうのか,もしくは,その中身はチャンスだと思うのかで,リターンが大きく違います。(p155)
 投資の世界で成功する秘訣は,投資対象についてどれだけ詳しくなるかに尽きます。(p155)
 ラッキーが偶然訪れることは,ほぼないと思っています。起きていることは,基本的にはすべて自分次第で,棚からぼた餅が落ちてくることは,滅多にありません。偶然に見えても,それは,その人自身が起こしているものです。(p157)
 こうすれば成功するだろう,と思っているわけではなく,好奇心が旺盛だから,すぐにやりたい,やろう,と反応するのです。そういう態度が偶然を引き起こしているように思えます。(p159)
 ピカソの絵画に興味を持っても,スマホで見ることで好奇心を満たしていると,その好奇心は育ちません。美術館に足を運び,実際に鑑賞することで,次は,この作品が見たい,彼の作品の背景にあることをもっとよく知りたい,と好奇心が伸びていきます。(p160)
 投資信託や株式への投資で一億円の利益を出すのはたやすいことではありませんが,自分でビジネスを始めて一億円の利益を出すことはそこまで難しくはありません。一番リターンの高い投資は自分への投資です。(p161)
 もっともレバレッジが効く投資は,自分が感動することへの投資です。僕は,そう考えています。いろんなことを面白がって,楽しんで,何かに感動するようなライフスタイルを続けるために投資をするのです。(中略)感動すれば,誰かに伝えたくなります。(中略)そうやって感動が人を動かすのです。(p162)
 感動するためには,自分自身が常に学び続けなくてはなりません。同じことを続けていても感動は減る一方です。情報収集も必要になりますし,ワクワクし続けるためには人任せではいけないのです。(p164)
 人は年齢を重ねるにつれ,変化が起きにくくなりますが,それでは成長することができないのです。何より,いい友人を作るためには,自分自身が成長し続ける必要があります。(p171)
 株を運用していて失敗する人に共通して言えるのは,期待しすぎということです。例えば,どこかの会社の株を一〇〇万円で買うとします。そういう人は,来年には二〇〇万円になっていると思ってしまうのです。(中略)感動もそれと同じです。増やすことができるのは,せいぜい年に五パーセントくらい,つまり一〇〇人を一〇五人にするくらいのところから始まります。でも,それを続けた人が成功するのです。(p182)
 時間と仲良くしたいと思ったら,どんなふうに仕事をすればいいのでしょうか。僕が意識していることのひとつに,「準備に時間をかける」があります。(中略)仕事はもっともっと想像力を働かせて,相手の期待値を超えるものでないと成功とは言えません。平均より少し上,八〇点,九〇点を目指すやり方もありますが,それでは誰も感動してくれないのです。一二〇点,一三〇点出せてやっと,喜んでもらえます。そのためには準備に時間をかけることが一番の近道です。(p198)
 僕が続けていたのは,自分が大好きだという想いを語り続けることです。どこへ行っても,事あるごとに語ってきました。(中略)そこから何かが動き始めるのです。だから自分の「好き」を語る時は,照れないで堂々とするのが鉄則です。(p203)
 世の中に「ぼったくり」と言われるようなものは,基本的にないと思っています。高い,これはぼったくりだ,と言ってしまうとそれでおしまい。なぜそれが高いのかが理解できないということです。(p208)
 信用を築くためには時間が必要ですが,失う時はあっという間です。多いのは,お金のトラブルと男女関係のごたごたでしょうか。(中略)会社員であれば,経費の精算などはしっかりと規定に沿って行うようにしてください。(p216)
 なぜなら,そう思わない限り前に進めないからです。(中略)どんなに理不尽で,どんなに自分が不幸な経験をしたとしても,それを許して認めない限り,そこにとどまってしまいます。こういう経験のおかげで自分は学べたのだという感謝がない限り,そこから脱却できません。だから,全肯定なのです。(p220)
 「成功するための条件は何ですか?」と質問されたら,「何かに詳しくなること」と,答えます。人より詳しければ,絶対に成功するのです。世界一詳しかったら世界一になれます。(中略)詳しくなるためにはどうすればいいのか。僕に限って言えば,努力ではなく単純に興味があるから,いつもそういう気持ちで(中略)世の中を観察していて,そこで知り得た情報を,意識しないまま自分の中にインプットしているのです。(中略)自分が詳しいことをどうやって仕事に変えるか,どうすればライフワークになるのか。僕の場合は,わかりやすいところで言うと,言語化とメッセージ。あとは,雑誌やインターネットのメディアで文章を書き続けるということ。(p226)
 僕は「暮しの手帖」の編集長として学んだのは,雑誌の編集技術よりも商売のやり方だったと思っています。いいものを人は「いいね」とは言っても買うとは限らない。どんなものなら欲しくなるのか,買いたくなるのかを徹底的に考えました。(中略)編集長で取次会社に足を運ぶ人はあまりいなかったと思うのですが,僕にとっては情報の宝庫でした。(p233)

2020年12月20日日曜日

2020.12.20 松浦弥太郎 『しごとのきほん くらしのきほん 100』

書名 しごとのきほん くらしのきほん 100
著者 松浦弥太郎
発行所 マガジンハウス
発行年月日 2016.03.31
価格(税別) 1,500円

● 著者が手探りしながら,掴み取った “術” が披露されている。労せずしてそれを知ることができるのは,著者の体験の上澄みを掬うようなものだ。
 では本書を読めば,著者が到達したところからスタートできるのか。そこは心配しなくても,環境がちゃんとゼロから出発させてくれることになる。
 棚からぼた餅的な話はそうそうない。っていうか,まったくない。

● 以下に転載。
 放っておくと僕たちの毎日は「新しさ」から遠ざかり,やるべきことの繰り返しになります。新しさから遠ざかると成長はできません。(p9)
 覚えておきましょう。誰でも知っていることこそ,一番強いテーマだと。(中略)普遍的なものの中に,無限の新しさが潜んでいます。(p11)
 大切なのは,余計なことをしないこと。(p15)
 経験値をもとに積み上げていく仕事をすると,新しさは生まれません。(p23)
 期日がないものは,仕事ではありません。(中略)時間軸がくっきり見えれば,自分で考え,行動に移すモチベーションになります。(p53)
 打てば響くような俊敏さをもつよう,日頃から自分を整えておきましょう。「一日考えてからお返事します」というのでは,チャンスは逃げてしまいます。(p57)
 理屈が通った正しい文句もあります。しかし,文句に問題を解決する力はありません。何か起きたら,自分から動きましょう。(p73)
 「一石二鳥だな」と思ったら,手を出さないと決めておく。これはマナーであり,自分を守る知恵です。(中略)一石二鳥はたかが二鳥。桁外れの大成功をしている人は,一つしか取らないたしなみを知っています。(p77)
 成功している人は,ありとあらゆる失敗をし,それをちゃんと研究した人です。(p81)
 あらゆる仕事の先には人がいるから,答えは人がもっています。(p85)
 人脈が広がりすぎると関係性が空洞化する(p93)
 人は,面白いものと美しいものに引かれます。文章も会話も,伝え方はいつも面白く,美しくしましょう。(p99)
 人を動かすものは感情です。要点だけまとめたリストでなく,思いを込めたストーリーを語ってこそ,動機がちゃんと伝わります。(p113)
 文章を書くコツは,「上手」という言葉を忘れること。(中略)文章の先にいる誰かを思い浮かべて書きましょう。(p115)
 この世界にたくさんの素晴らしさがあったとしても,見つかるかどうかは,その人次第です。(p119)
 正しい方法というのは,愛があるかどうかかもしれません。(p129)
 「ギブ・アンド・テイク」でもなく,「フィフティ・フィフティ」でもなく。(中略)何も要求せず,自分から与えることで生まれる大きな力が,ものごとを成功させるヒントとなります。(p131)
 仕事も人間関係も,一話完結ではありません。(p135)
 自分で見つける。自分で工夫する。自分から発案する。この3つは,誰かから必要とされる「価値ある存在」になるための基本姿勢です。(p143)
 世の中で評価されているものは,興味があったもなくても,知っておくこと。これが仕事の基礎知識となります。(p151)
 本気になれるかなれないかが明暗を分けます。状況を変えるのも,物事を動かすのも,人の心をゆさぶるのも,本気の力。(p183)
 「人がやっていることはやらない」こう決めてしまうと,勝ち負けの渦に巻き込まれずにすみます。(中略)人がひしめいていたら「どうぞ」と譲ってしまいましょう。(p195)
 逃げなければいけないときは,勇気を出して逃げましょう。格好悪くても,弱虫と笑われても逃げる。義理を欠いても,誰かに嫌われても逃げる。(p197)
 いつも笑顔であること。徹底して前向きであること。人に与えつづけること。運を味方につけたいのなら,この3つを守りましょう。(p203)
 もしも迷いが生じたら,計算で答えを出してはいけません。(中略)目を閉じて自分に聞きます。「君はそれをやりたいかい?」。答えがノーならすぐ断る。(p207)
 人の好き嫌いはまた,すぐに変わるもの。(中略)深く考える必要もないことです。(p231)
 言葉で説明できないのなら,自分自身もよくわかっていない証拠です。(p241)
 頭を働かせるよりも心を働かせたほうが,豊かになれる。(p243)
 ときには我慢して,相手を優先しましょう。ただし,控えてばかりだと無責任な傍観者になってしまうことがあります。(p255)
 「食事のしたくが億劫」とお惣菜を買い,「やることがなくて退屈だ」と不平を漏らす。(中略)手間ひまをかければ,退屈するひまがなくなります。(p269)
 不健康なときほど,体に悪いものを食べたくなるもの。ジャンクな味が欲しくてたまらなかったら,体調を崩す前兆かもしれません。(p273)
 「ありあわせで,なんでもやる」とは,無駄がない,賢いやり方に思えます。でも,ありあわせで本質まで届くでしょうか?(中略)日常的にありあわせで済ませるのは,準備を怠っていること。(p279)
 常にちゃんと選ぶ,セレクションという意識を大事にしましょう。(p281)
 すてきな人は,年を重ねるほど素直になり,どんな話も感心して聞きます。(p315)
 優先すべきは,自分が話すことより,相手の話を聞くことです。耳を傾ける姿勢から,さまざまな可能性がひらけます。(p319)
 大人とは静かであるべきです。(中略)擬音がつく動作は慎むこと。(p327)
 辛いときは,息を吐く。緊張したときは息を吐く。覚えておくと役に立ちます。(p329)
 自分が社会とコミュニケーションをとる準備ができているかどうか,きちんと鏡を見ましょう。(p333)
 年をとること,変化していく自分を,存分に楽しみましょう。(中略)時に逆らわずに変化を楽しみ,柔軟に対応していくさまは,実にすてきです。(p335)
 その人という人間がもつエネルギーに,無条件にひかれてしまう。(中略)そんな人は,パッションとロマンがある人。(p351)
 満遍なくいろいろできるオールマイティなプレイヤーが求められる時代は,少し前に終わりました。自分の好きなことを極めましょう。(p403)
 「ミーハーだ」と言われたら,悪口ではなく「好奇心旺盛」というほめ言葉だと受け止めましょう。世の中の人が夢中になっていることに,自分も一緒に夢中になれるのは,心が若々しいから。(p405)
 たしかに生きた証しとは,人の記憶に残ること。突き詰めていくと,どれだけ人の役に立てたか,助けることができたか,感動を与えられたのかということでしょう。(p423)

2020年12月16日水曜日

2020.12.16 和田秀樹 『老後は要領』

書名 老後は要領
著者 和田秀樹
発行所 幻冬舎
発行年月日 2020.08.05
価格(税別) 1,200円

● 著者が若い頃に書いた『受験は要領』は今でも読まれているのだろう。残念ながら,ぼくは著者より早く生まれているので,著者の知見を参考にすることはできなかったのだが。
 で,老後も要領だ,と。この分野での著者の著作はすでに数多く出ているが,本書も読んでいて面白い。何となく元気になる(ような気がする)。その “何となく” のために読めばいいと思う。

● 投資信託の話も登場する。銀行など金融機関が投資に無知な老人を喰い物にする。かんぽの組織ぐるみの悪どさは記憶に新しいが,あれがかんぽだけのことで,銀行や証券会社はそんなアコギなことはしていないと思う人はそうそういまい。
 いずれ,これに対しては法的な歯止めがかかることになると予測はしているが,アコギの対象になる老人は,人がいいというより不勉強な人ではないかと思っている。
 問題は,認知症に足を踏みこんでいるような老人を喰い物にしていることだ。国辱とはこういうことを指すためにある言葉だろう。

● 以下に多すぎる転載。
 その基本方針は,「できないことを嘆く」のではなく,「できることを楽しむ」ことです。(p4)
 ころんでもたた起きない,コロナでもただ起きない--それくらい前向きに考えることが,コロナ時代を元気に言い抜く要諦だと,私は考えます。(p5)
 80歳まで元気なら,老後には,現役時代に働いた時間以上の自由があるというわけです。私は,この途方もない自由時間を有意義に過ごす方法は,2つしかないと考えています。(中略)ひとつは「働く」こと。そして,もうひとつは「勉強する」ことです。他の方法では,残念ながら,人間の脳は飽きてしまうのです。(p19)
 西洋には,「牛乳を毎日飲む人よりも,毎日配達する人のほうが健康」ということわざがありますが,その言葉の正しさは,世界中の研究者が認めているところなのです。(p23)
 人生,何事もやってみなければ,わかりません。「引退」も希有な経験ですし,引退後の暮らしが心から楽しければ,その後,“引退しづづける” のもいいでしょう。ただし,(中略)“最初の引退” は,期間限定のつもり,仕事を一時休むくらいのつもりで,退くことをおすすめしたい。(p38)
 人間の脳は,旅行にも庭いじりにも,いずれは飽きてしまいます。人類の進化の歴史を考えても,私には,人間の脳が「遊ぶだけの30年間」に耐えられるとは,到底思えません。(p40)
 声を大にしていいたいのは,「勉強は最高の健康法だ」ということです。私は,頭を鍛え,“脳力” を維持することほど,効果的な老後の健康法を知りません。(p44)
 動機は,おおむね “不純” なほうが,大きなエネルギーにつながります。人間,なかなか “久遠の理想” のためには努力できません。(p45)
 その不純な動機を達成するための方法は,「アウトプット」することしかありません。(中略)勉強する最終的な目的は,アウトプットすることなのです。話す,教える,文章に書く--手段は,何でもOKです。(p45)
 私は,老後の勉強のアウトプット目標は,「本を1冊,書くこと」におくといいと思います。(p47)
 本を書くためには,テーマが必要です。そのテーマは,あなたが最も興味のあること,勉強したいことでOKです。ただし,それを将来,売り物にする(本にする)ためには,「具体性」が必要です。テーマは具体的であればあるほどベターです。(p53)
 テーマが決まれば,次は「コンテ」を作ることです。(中略)「本作りはコンテ作りが9割」だと,私は思っています。
 私は,本のテーマが決まったあとは,次のようにコンテを作っています。
1 まず,仮タイトルをつける
2 次に,章立てを考える
3 各章に書きたいことの「小見出し」を書き出してみる(p54)
 60代まで,日本語を問題なく話してきた人なら,本気で書き始めれば,すぐにそこそこの文章を書けるようになります。(中略)そう,今は「ワープロソフト」があるからです。(中略)私自身,もしワープロが発明されていなければ,これまでに書いた文章の10分の1も書けていなかったと思います。(p59)
 本格的な老いを迎えるまえの目標を可視化する作業をしていると,私は元気が出てくるのを感じました。人間の脳は,案外,単純にできています。(中略)そうした前向きの作業をするうち,脳内の神経伝達物質や,男性ホルモンのテストステロンなどの分泌量が増えることになったのでしょう。(p66)
 老後は,現役時代以上に,目標と計画を立てることが必要だと考えています。「目標を立てる」ことは,より具体的にいえば,「期限を切る」ことです。要するに,「締め切りをつくる」ことです。(中略)そうしたスケジュールに合わせて,実現する方法を考え,取り組むことは,前頭葉にとって格好のトレーニングになるのです。(p67)
 夫の定年は,夫にとっては “自由な時間の始まり” ですが,妻にとっては,“自由な時間の終わり” を意味します。(中略)夫が妻の自由を奪わなかったからこそ,これまでは仲よくいられたのです。(p73)
 人間関係には,「ほどよい距離感」が必要です。接近しすぎたヤマアラシが互いの体を傷つけるように,人間も近づきすぎると,心にトゲを刺し合うことになるのです。(中略)どれほど仲のいい夫婦でも,何十年もの間,24時間一緒に仲よくいるというのは,無理な話です。(p74)
 若い頃から一緒に楽しんできたのならともかく,老後を迎えてから,「共通の趣味を楽しもう」などと意気込むと,ろくなことにはなりません。たとえば,妻と,同じカルチャーセンターなどに通っていても,同じ時間帯には行かないように工夫したほうがいいくらいです。(p77)
 まだまだ人生の先は長いのです。家庭内離婚,仮面夫婦状態を続けて,不快な気持ちで過ごすと,確実に心身に悪影響を与えることになります。精神科医として,そうして心を壊していく女性の姿も,嫌というほど見てきました。(p80)
 子供を立ち直らせるには,「とにかく放っておく」ことが必要なのです。長年,引きこもっていても,親が食事をいっさいつくらなければ,コンビニくらいには行くようになるものです。(中略)親が態度を変えはじめ,自分の生活の充実のほうに気が向くようになると,子供の態度にも変容が現れるのです。(p82)
 日本は家族関係が極端な国で,べたべたと付き合いすぎるケースがある一方,いったん距離を置くと,その距離が遠すぎるというケースが多いのです。(p86)
 あくまで「現役時代,そこそこの企業に勤めていれば」という条件付きではありますが,今やこの国では,老後の貯金などなくても,金銭的な心配はほとんどありません。制度に関する知識を備え,利用できるものは利用すれば,日本は北欧諸国並の社会保障大国なのです。(p102)
 私はそろそろ,日本人も,現役時代に支払った税金は,老後「取り返してなんぼ」という発想を身につけたほうがいいと思います。むしろ,それが納税者としての “正しい態度” でしょう。(中略)じつは,国民の多くがそうした考え方をもったほうが,マクロ経済はうまく周ります。(p104)
 定年後,銀行に行き,「退職金をどうすればいいでしょうか?」という質問をするような “超世間知らず”,いや “超投資知らず” の人は,投資を避けたほうが賢明です。残念ながら,そういう人は,金融機関にとって,絶国のカモです。彼らにとって,投資知識のない定年退職者ほど,「いいお客さん」はいません。(p113)
 私は,「毎月分配型の投資信託」を買うくらいなら,馬券でも買ったほうが,まだマシだと思っています。(p114)
 今後,あなたの資産を狙って,金融機関やその他の業者が,さまざまな誘惑の言葉を投げかけてきます。(中略)その攻勢は,あなたが年齢を重ねるにつれて,認知能力が落ちるに従って,いよいよ激しくなってきます。(中略)怪しげな勧誘がまかり通っているのは,世の中には投資に関してあまりに無知な人が多いからです。(p115)
 よほど自分の投資技術に自信がある人以外は,インデックス型を利用し,「半分になっても困らない」程度の金額をコツコツと投資するのが,いいと思います。(中略)それでも狼狽売りすることなく,保持し続けていれば,最終的には報われることは,株式市場と資本主義の歴史が証明しています。(p121)
 私は「走る」ことは,50代以上の人にはおすすめしません。(中略)いちばんおすすめの運動は(中略)「歩く」ことなのです。「人間の体は,1日8~14キロは,歩くことを前提にできている」という説もあります。(p135)
 イライラや怒りをしずめる最も簡単な方法は,「深呼吸」です。脳に酸素が十分に行き渡ると,脳内の扁桃という部位の興奮がおさまり,それが交感神経の興奮をしずめるのです。(中略)大きくのびをしながら,目を閉じる。次に,ゆっくりと大きく息を吸い込み,ゆっくりと吐き出す。呼吸だけに意識を集中し,つとめて無心になるのがコツです。こうして,何回か,深呼吸を続けると,気持ちが落ちついてくるはずです。(p160)
 人間の体の60%以上は水分であり,水分不足に陥ると,格段に疲れやすくなります。脱水症状が進むと,血液がドロ頃の状態になって,血液が流れにくくなります。(中略)すると,疲れやすくなるうえ,いったん疲れると,なかなか回復しにくくなるというわけです。(p174)
 脳機能上は,75歳くらいまでは,記憶力はさほど衰えません。急激に衰えるのは,「覚えようとする意欲」です。(p178)
 「脳は,いくつになっても鍛えることができる」--これは,脳科学的には,21世紀になってから立証された新たな常識です。(中略)つまり,「成人になってからでも,脳の神経細胞は鍛え方しだいで増える」ことがわかったのです。(p181)
 若い頃は誰しもそれなりに記憶しようと努力するものです。ところが,中高年になると,大半の人はそうした努力をしなくなってしまう。それなのに,「昔は簡単に記憶できた」ような美しい錯覚に陥り,「記憶力が落ちた」と慨嘆する。(p191)
 脳内のドーパミンを増やし,頭を働かせるためには,まずは「何とかなるだろう」とポジティブに考える「癖」をつけることが必要なのです。マイナス思考にとらわれそうなときは,まずは「何とかなるだろう」と,口に出してみる。(中略)それだけのことで,すこしはドーパミンやセロトニンが分泌されるのだと思います。(p198)
 松下幸之助氏は,社員採用の面接で,「君は,自分は運がいいと思うかね」と尋ね,「運がいいと思っています」と答えた人だけを採用したという伝説があります。これは,松下氏が「人生では楽天主義が大事」ということを骨の髄から知っていたことの証左でしょう。(p198)
 脳には安定を好む傾向があり,ひとつの考え方,ひとつのものの見方に慣れ親しむと,すべてをその考え方やものの見方ですませて,楽をしようとします。前頭葉は,すぐに怠けてしまうのです。(p201)
 「60点主義で即決せよ。機会を失うのは度し難い失敗だ」--昭和の名経営者,かつての経団連会長だった土光敏夫さんの言葉です。(中略)それくらいの勢いがないと,老いの坂を登り切れません。(中略)判断・決断を先延ばしすることは,やがて思考停止につながります。(p202)
 人生,そろそろ,締め切りが迫っているのです。60年以上生きていれば,何事もさっさと決めたところで,大きな間違いはないはず。(中略)「悩む前に跳べ」くらいを心がけることが老後の坂を登る要領だと思います。(p203)
 日本人に多い考え方の中でも,老後のためにとくによくないと思うのは,「完全主義」傾向です。「100点でなければダメ,90点でも努力が足りない」といった考え方をすると,無用のがんばりすぎを招き,うつ病の大きな原因になります。たとえば「親の介護」をするのに,100点満点など,そもそもありえないのです。(p203)
 欧米では,性ホルモンが減少すると,HRT(ホルモン補充療法)を受けるのが普通のことであり,保険も適用されます。しかし,日本では,副作用を懸念し,男女ともにあまり使われていません。私は,女性も男性も,ホルモン療法をもっと利用したほうがいいと思います。(p210)
 高齢者は,若い頃以上に,見た目が重要だと思っています。過去の臨床経験のなか,外見が老人ぽくなるにしたがって,感情の廊下が進み,ひいては全身の昨日が低下していくケースを多数見てきたからです。(p213)
 このようなアンチエイジング治療を,日本では,まだまだ「反則」のように思う人が多いのですが,私は,老後は「いろいろなことを反則と決めつけない」精神が必要だと思います。(p214)
 年の暮れには,多少は値の張るスケジュール帳を買うようにしてきました。上等な手帳を買うと,「使わなければ,もったいない」と思い,「いろいろ書き込む」,つまりは「予定をつくる」ことにつながるからです。(p217)
 神経伝達物質の正常な分泌をうながすためには,毎朝同じ時間に起きることが必要です。前の晩,多少寝るのが遅かったとしても,いつもと同じ時刻にベッドから出ましょう。その日はすこし眠いかもしれませんが,長い目でみると,それが脳と体を守るコツです。(p223)
 納豆は,最安値のサプリメントといってもいいでしょう。(中略)大豆食品は,脳にとっても,強い味方です。(中略)神経伝達物質の重要な原料「レシチン」をたっぷり含んでいるのです。(中略)中でも,納豆は,大豆の栄養をほぼそのままの形で摂取できる優秀な食材なのです。(p225)
 私は,健康に長生きしたければ,義歯やインプラントなど,歯にはお金をかけたほうがいいと思います。(p235)

2020年12月13日日曜日

2020.12.13 堀江貴文 『ハッタリの流儀』

書名 ハッタリの流儀
著者 堀江貴文
発行所 幻冬舎
発行年月日 2019.07.10
価格(税別) 1,400円

● 本書のタイトルからは,実力なんか要らない,ハッタリをかまして目眩まし戦法で生きていけばよい,と言っているのかと思われるかもしれないが,残念ながらそうではない。
 本書で説かれているのは,まっとうな努力の大切さだ。第4コーナーを回ったあたりから,その生真面目さが全開になる。

● 以下に転載。
 人は夢を見たい生き物なのだ。大事なのは「そんなことできないでしょ」と思うようなハッタリを大きくかまして,周りからの注目を一気に集めることだ。そうした「ハッタリ人間」が,結果的に突き抜けていく。(p3)
 一億総評論家時代のように,みんながテレビの前やSNSで他人のことをツッコム。だからこそ,これからの時代は「ボケ」の時代だ。「ボケ」られる人間が貴重だ。他人に「ツッコミ」ばかりしている人に熱は起こせない。(p11)
 今後,生活コストはますます下がっていく。生活のために必死になって働かなくても,何とかなってしまうのだ。(中略)そういう時代には,歯を食いしばって労働作業をする人よりも,お笑い芸人より狂った大ボケをかまし,マンガのような世界を実現しようとするハッタリ人間が求められる。そこに熱が生まれ,人が巻き込まれていくのだ。(p22)
 今,多くの投資家は「カネ余り」に直面している。とても自分たちで使い切れる額ではないので,いいアイデアやアートなど唯一無二のものさえあれば,すぐさまそこに投資したいと待ち構えているのである。(中略)手元に資金がなかったとしても,あなたに唯一無二の可能性や面白さがあると思われた瞬間,ノリでお金が集まる時代なのだ。(中略)お金は君と遊びたがっている。(p34)
 時間を持て余している「大衆」を,社会にダブついた「お金」を,自分のところに集める方法。それはカンタン。好きなことに「損得抜きにして」没入することである。皮肉だが,利害を考えて,人や小銭を集めようとするケチな人間には人もお金も集まらない。(p41)
 今後を見据えてあらかじめ何かにハマっておくなんて,そんな器用な真似ができるわけがない。とりあえず今は,眼の前の本当に興味のあることにハマりまくる。後からその点をつなぎ合わせ,線にしていくことしかできないのだ。(p43)
 「役立つ・意味がある」という価値が下がる。そして「面白い・心が動く」という基準が重視されるようになる。(中略)計算可能な頭脳労働はもはやAIのほうが得意だ。意味があること,役立つことは,ロボットのほうが正確にやってくれる。しかし,意味はないけど面白いこと,というのはロボットにはできない。(p47)
 この動きを加速させるためには黙々とハマるだけではなく,過程を発信し続けることが大切だ。(中略)挑戦の過程こそが一番のエンタメだからである。(p52)
 SNSが出てきてからは,情報なんてコントロールできなくなった。(中略)情報を出し惜しみしていたら,埋もれて誰にも気づかれずに終わる。(p54)
 一方的でオフィシャルな発表を聞いても心は動かない。自分にだけ呟いてくれていると錯覚するような日常的な発信を受け取っているうちに,どんどんファンになっていくのだ。(p55)
 可処分所得の奪い合いの時代から可処分時間の奪い合いに移ったと言われる。(中略)読書をするか,LINEをするか,飲みに行くか,すべてがライバルになっている。そしてその次は可処分精神の奪い合いだ。心を奪えるか? 心を預けてもらえるかどうかが問われてきている。人は心を奪われて初めて時間を使う。時間を使ったその後に,財布を開くのだ。だからこそ自分の努力の過程を,成長の軌跡を,自分の言葉で発信し続ける。(p55)
 ファンがいなければ,勝負の土俵に上がれない時代に,これから我々は放り出されるのだ。恥ずかしがらずに人生をさらそう。そしてお金より共感をためよう。(p60)
 一億総老後時代のようになるだろう。貯金も時間もあるんだけれど,やることがない。(中略)多くの人が,何かワクワクすることはないかと,考え始める。すると老後を迎えたおじいちゃん,おばあちゃんが孫の夢を応援するように,好きな人の夢を応援することが,これからはエンターテインメントになっていく。(中略)これからは他人に「応援させてあげる人」が価値を持つ。(p63)
 「どこかで見たことがあるストーリー」に人は熱狂しない。(p65)
 どうしたら「ハッタリ」の器を広げられるか。それは日々,やったことのない経験をして,出会ったことのない人たちと会うことだ。すると自分の目線が上がっていく。(中略)筋トレと同じように,メンタルや行動力も負荷をかければかけるほど強くなっていく。(p70)
 僕は,どちらかと言えば,営業に向いていないタイプの人間である。そんな僕でも,いろいろな場所にプレゼンに行って,多くの仕事や投資を成立させてきた。それは,「知人に紹介してもらった人にしか会わなかったから」である。(中略)巧みなプレゼンをしたり,キレイな資料作りをしている時間があるならば,自分の提案を欲しがりそうな相手を探すことに時間をかけたほうがいい。(p80)
 机の前でウンウンと考えているのではなく,あなた自身がいろいろなところに行き,面白い人と会いまくり,ネタをたくさん持っていなければならない。「こいつは面白い」と思われることだ。(p101)
 スクリーンに映し出すスライドは,「何かを解説するための資料というよりも,口頭で次の話題を出すためのきっかけにすぎない」と考えてほしい。シンプルに,箇条書きで,必要な項目を列挙してあれば十分だ。(p104)
 まず必要なことは「こうあるべき」という世間一般の常識を一切捨てることだ。(中略)「いいハッタリ」とは完全に常識の外部から来る。計算や論理の先にある予定調和なものに人は熱狂しない。(p111)
 「もっともらしい言葉」には未来の真実はない。過去の結果でしかない。まずは頭の中から「もっともらしい言葉」を捨てよう。(p113)
 真面目な人ほど「世間の目」を気にしてしまう。つまり,どうにもプライドが高すぎる。(中略)自分の望みとは関係なく,世間の目を気にして物事を決めてしまう。そんなツマラナイ人間のハッタリなんかに誰も乗ってこない。(p121)
 昔と違ってSNS時代には情報は公開すればするほど,公開した人のもとにも情報が集まる。だから情報は出し惜しみされなくなってきた。人類史上初,成功ノウハウがタダ同然で手に入る時代。ノウハウの価値は下がり,あとはやるか,やらないかだけ。つまり,行動する人が最高に得をする時代なのだ。(p136)
 すでに上手くいっている方法をパクるのは基本中の基本だ。大して才能もない人間が,机の前であーだこーだ考えている時間ほど無駄なものはない。(p137)
 やらされ仕事をやっていると,上司や取引先に怒られない範囲で納品しようという社畜精神が出てしまうが,自分が好きなことを仕事にしていれば一〇〇点以上を目指そうと自然に力が入る。(中略)自分が熱を込められる好きなことであれば,オリジナリティは自然とにじみ出てくるものだ。(p141)
 ハッタリをかます人には共通点がある。それは「根拠のない自信」を持っているというところだ。君から見たら脳天気なバカかもしれない。(p149)
 「ハッタリをかましてその後で辻褄を合わせること」は,あらゆる場面で大きな成果をもたらしてくれる。僕はこれを,人生の最高奥義だと思っている。(p153)
 チャンスというものは,あらゆる人の前に現れる。それなのに,チャンスをものにできる人とできない人がいる。それは,目の前に現れたチャンスに,ノリよく飛びつくことができるかどうかにかかっているのである。(中略)そして,「ノリよく飛びつく」こと自体にも場慣れがある。最初は躊躇していても,いつもいつもノリよく飛びついていたら身体が勝手に反応するようになっていく。(p156)
 目先の苦労を避けることはできない。ラクができる状況のようなものは,大きな苦労をした先にこそ待っているものだからだ。周りの人から「苦労しているな」と思われるようなことをとことんやって,その先にあるラクをつかんでいく,というのがむしろ正解なのである。(p173)
 本気で努力をする人は意外といない。大体が六五点ぐらいまで。一〇〇点までやる人なんてほとんどいない。そして一二〇点までやり切る人間は皆無だ。だからこそ「努力」はコスパがいい。(p176)
 本当の努力は楽しいものだ。逆に言うと楽しくない努力をしているようだとまだまだ甘い。(中略)いま努力がつらくても,焦らなくて大丈夫。「努力」が楽しくなるのは,少し自分が得意になってからだ。(中略)だから,まずはガムシャラに徹底的に,とことんやり切って,自分のレベルを上げてみることだ。(中略)僕は,いろんなことを楽しんでいるだけのように見えるかもしれないが,まずは八〇点くらい取れるようにガッと努力する型を持っているからだ。楽しくなってさえしまえば,一二〇点までは突き抜けられる。(p179)
 成功への道のりは,最初はコツコツ,後から一気に加速する。まずは焦らず積み上げよう。(p184)
 たくさん叱られたし,批判もされた。でも,そんなことは気にしない。「人はいろいろ言うけれど,そのうち飽きる」「他人は自分になんて興味がない」ということがわかっていたからだ。(p189)
 これからは労働がオワコンになり「遊び」の時代になる。そこでは,「大人」になってしまった退屈な人は価値を生まない。バカ丸出しでボケ続ける「子ども」こそが魅力を放っていく。(p189)
 SNSで大きな挑戦をしている人を揶揄したり,笑ったりする人がたくさんいる。しかし,舞台に立っている人を笑っている観客は,人生の大事な時間を人に使っている。一方,舞台に立って周りから笑われている人は,その他人の時間を自分が吸収している。だからこそとんでもないスピードで進化していくのだ。(p195)

2020年12月12日土曜日

2020.12.12 櫻井秀勲 『70歳からの人生の楽しみ方』

書名 70歳からの人生の楽しみ方
著者 櫻井秀勲
発行所 きずな出版
発行年月日 2019.08.10
価格(税別) 1,500円

● 著者は,60歳,70歳,80歳に向けての生き方論を書いているが,これでその3部作を読んだことになる。これからは若い人はどんどん減って,年寄りだらけになっていく。高齢者の不安解消業は需要が多いことだろう。
 と,一般論にして言っているけれども,自分もかすかながら不安を感じているから,こういう本を手に取るのだ。

● カバーのそでに “「生まれて初めて!」の体験を増やそう” とある。好奇心を失わずにいて,それを実行に移せれば,楽しみに遭遇する確率が上がることは理解できるのだが,それは原因なのか結果なのか。

● 以下に多すぎる転載。
 年を取ると,過去に目が向くようになります。(中略)それはそれで,楽しいことです。でも,それだけではもったいない,と私は思います。(中略)せっかく70歳まで,なんとか生きてきたのです。だったら最後にもう一回,楽しむのです。(p6)
 それこそ,山あり谷あり,どん底ありで,今ここにいる,という人がほとんどでしょう。(中略)あなたがいま,ここに生きているということには意味があります。だから,何かを成し遂げよう,ということではありません。ただ,楽しむことをすること。少なくとも,それをしようと努力することが,命を与えられていることへの義務,ではないでしょうか。(p8)
 自分だけが楽しむわけにはいかない,などと考える必要はありません。あなたが人生を楽しむことで,あなたのまわりの人たちの人生が,明るく幸せになることもあるのです。(p11)
 まわりの人たちからは「若々しい」といわれても,やはり,からだは正直んものです。でも,それは仕方ありません。それだけ長く使ってきたのですから,新品のようにはいかないわけです。だから,そのことを気にしすぎないようにしています。(p27)
 70歳からの人生を楽しむコツは,自分の世界を狭めないことです。どこにでも出かけていき,誰とでも会うことで,世界は広がっていきmす。(中略)「自分の世界を広げなさい」というのは,若い人たちのための言葉のように思われるかもしれませんが,若い人たちの世界は,放っておいても広がっていくものです。けれども,60代,70代となれば,世界はどんどん狭まっていきます。(p28)
 年齢よりも若々しい人に共通して見られるのは,よく食べることです。(中略)それだけ歯と胃が丈夫だということでしょう。(中略)足腰は使うことで強くなります。疲れない程度に,歩くことは毎日の日課として心がけるようにしましょう。(中略)そのためには,「食べたいものがある」「行きたいところがある」というのが一番です。(中略)逆にいえば,多少のからだの支障はあったとしても,「食べたいもの」「行きたいところ」があるというのは,元気で,人生を楽しんでいる人です。(p28)
 70歳で,いま入院するようなこともなく過ごせているとしたら,もともと健康だということがいえそうです。そうであれば,自分の健康に自信を持つことが大事だと私は思います。「自分は健康である」と思えれば,それだけで大きな自信になるはずです。(p37)
 「お酒を飲む」「煙草を吸う」というのは,健康を害する二大巨頭のように思われがちですが,それをしていても,健康で長生きする人は大勢います。煙草やお酒が害になるというのは,やはり,その量が多すぎるということがあるように思いまず。でも,それより重要なのは,どんな場所で喫煙,飲酒しているかです。(p44)
 70歳を過ぎてから,足腰が重要だと考え,歩くことは心がけていましたが,歩幅については,それこそまったく気にしていませんでした。けれども,大学の同級会などで,「老けたなあ」と思うような級友たちを見ていると,彼らの歩幅が小さいことに気づいたのです。颯爽と歩く,というのは若さの象徴のようなものです。(p48)
 立つときは,できるだけ顔を上げ,まっすぐ前を見て,背筋を伸ばすことです。背筋が伸びると,胸が前に出ます。そのときに,両肩が内側に向かないようにしましょう。(中略)胸を張れば堂々と見えます。男性でも女性でも,この「堂々と見える」ということが,とても大事です。(中略)堂々とするだけで,逆に自信も湧いてきます。(p50)
 それに笑顔を加えることです。じつはテレビを見ていてもわかりますが,70代に入った人で,笑顔に慣れるタレントは,ほとんどいません。ビートたけしは72歳ですが,自分では笑っているつもりかもしれませんが,そうは見えません。(p50)
 悪くなった目や耳のメンテナンスにも,手を抜かないようにしましょう。杖や補聴器を使うことに抵抗のある人は多いですが,いまの時代,それらはどんどん進化しています。(中略)私が経験から学んだことは,「文明の利器は使うべきだ」ということです。(p51)
 70歳になったら,あらゆるコンプレックスを手放していきましょう。自分の容姿やスタイル,学歴,仕事,パートナーの職業などなど,自分の理想とはほど遠い現実に,落ち込んだり傷ついたりしたことがあったかもしれませんが,「70歳を過ぎたら,皆同じ」と私は思います。どんな美人も,どんな神童も,どんな大会社の社長でも,70歳になれば,ただの人。たいした差はない,ということです。(p59)
 教養の有る無しで,その人の品格が決まります。70歳を過ぎたときにいちばん大切なのが,この品格ではないかと私は思っています。品格のある人は,まわりから大切に扱われます。それだけ幸せに,日常を送ることができるはずです。(中略)「教養」と「説教」は,まったく根本から違います。説教には教養がありません。(p62)
 若い人に「得」を取らせるのも大切なことです。わかりやすい例でいえば,たまには「メシをおごってやる」ということです。(p63)
 よくも悪くも,私たちは見た目で判断したり,されたりしてしまいます。70歳になったら,この見た目をいままで以上に意識したいものです。「ただの老人」と「紳士」「マダム」の差は,「年齢」よりも「見た目」にかかっているといっても過言ではありません。(p65)
 品格のある人というのは,身なりもきちんとしています。逆にいえば,身なりに気を配ることで,品格を高めることができます。ふだんから,たとえ近くに行くだけのようなときにも,きちんとした服装を心がけましょう。(p67)
 品格を高める方法としてオススメしたいのが,「高い場所」に行くことです。「高い場所」というのは,高級な場所という意味もありますが,高層階の建物や,地上を見下ろすような展望台など,文字通り「高い」ところのことです。(中略)70歳を過ぎたら,できるだけ明るい場所に行くほうが,あなたを若々しくさせます。(中略)品格のある人といえば「神様」がその最高位ですが,神々しさは光が満ちたところに表れます。(中略)人は,明るい場所に集まります。明るい人にも,人が集まるのです。(p67)
 70歳から学び直しをするというときに心得ておきたいのは,「うまくいかなくても気にしない」ということです。(中略)「70歳」という年齢を迎えて楽なことは,語弊を恐れずにいえば,「期待されていない」という点です。(p73)
 いまの私は88歳ですから,たいていの場所で,最高齢者になります。慣れないうちは,そんなポジションに気恥ずかしい思いもしましたが,いまは最高齢者としての役割を果たせるようになってきました。「最高齢者」の役割とは,堂々としていることです。威張るということではありません。(中略)仮に名刺を交換するとしたら,先に出すのではなく,相手から名刺を受け取ってから出すことです。(p76)
 ここで伝えたいのは,「いざというとき」というのを漠然としたイメージだけでとらえない,ということです。イメージだけでは,どんどん不足額が膨らんで,老後の蓄えはいくらあっても足りない,ということになってしまいます。(p79)
 私は,相手に得を取らせることが人脈につながるとかんがえています。相手に得を取らせるとは,自分が損をするということです。(中略)利益が少し減るくらいのことであれば,喜んで私は損をします。(p91)
 お金の使い方で大事なのは,ケチになりすぎないことです。「情けは人のためならず」で,人のために使うお金もまた,「人のためならず」であることを覚えておきましょう。(p92)
 「櫻井さんは恵まれているんですよ」といわれてしまえば,それまでですが,本音をいうなら,恵まれているのではなく,恵まれるように生きてきたのです。(p95)
 前に出る,というのは怖いものです。どんな非難を浴びるかわかりません。自分の名前と顔を出して仕事をしている人には,たとえそれがペンネームであったとしても,それだけの覚悟を持っているのです。舞台に立つには,それだけの覚悟が必要だともいえますが,(中略)舞台に立つといっても,最初から大舞台をめざす必要はありません。自分が経験したこと,勉強したことをシェアする感覚で,「小さな勉強会」を開いてみてはいかがでしょうか。(p95)
 「お金さえあればできるのに」というようなことは,じつは「お金があってもしない」のです。(中略)大切なのは,自分が,それにどれだけの情熱を向けられるか,ということです。情熱というのは,年を重ねるほどに燃えにくくなっていきます。(p99)
 世話をしてくれる人に感謝はしても,どのことで卑屈になったりしないように気をつけましょう。自分ではなく,家族が患者になったときには,とにかく患者の気持ち優先で,その場を対処していきましょう。(p109)
 どんなことでも予定を立てるのは楽しいものです。(p113)
 東京にいると,自分で運転しなければならない必要性は感じませんが,地方であれば,そうはいかないこともあるでしょう。(中略)それでも,事故を起こして,被害者を出してしまっては,事情も何も,理由にはならないわけです。70歳という年齢を迎えて,戒めなければならないのは,自分に対する過剰な自信です。自分だけは大丈夫だという驕りが,一瞬で,あなたの運命をどん底に突き落とすのです。(p115)
 病気やケガをすると,弱気になります。自分の寿命が来たと思って,「病気の自分」を受け入れてしまうのです。病院というのは不思議なところで,たとえ検査入院でも,何日かいると病人らしくなってしまうところがあります。(p117)
 人生は「もう終わった」と思ったところで終わってしまいます。(p118)
 70歳を過ぎたら,悲観的になりすぎないことだと,私は思います。悲観的になったとしても,どうして悲観的になってしまうのかと考えてみることです。悲しいことがあったら,悲しくなるのは当然のことです。それをなかったように振る舞うのは,無理があります。悲観的になっている自分を受けとめることで,悲観的になりすぎるのをくい止めるのです。(p120)
 セックスも恋愛も,したいと思えば,それを我慢することはないし,したくないと思えば,無理をする必要はないわけです。ただ,もったいないと思うのは,「もうできない」と決めてしまうことです。(p127)
 相手との距離が50センチ以内に縮まっても,感情的にイヤでなければ,セックスの相性は悪くないかもしれません。相性というのは理屈ではなく,いいなと思っていた人でも,相性が悪いと,近くにいることが居心地が悪くなるものです。(p128)
 60歳よりも,70歳のほうがモテる,といったら信じますか? でも,これは本当の話です。ことに男性の場合は,100パーセントそうだといっても過言ではありません。(中略)男性が,60歳よりも70歳のほうがモテるというのは,生々しさが抜けるせいかもしれません。いまの60歳は,若すぎるのです。(p130)
 年齢よりも,感覚が合うかどうか,話が面白いかどうか,優しいかどうかで,女性は相手を判断します。その点で,女性というのは,若いときから「人を見る目」を持っている人が多いのです。(p132)
 1人だけにのめりこまないようにするのも,大人のテクニックです。(p135)
 「自分のことを好きな男性はわかる」という女性がいましたが,そう思っていた相手が,自分以外の女性に走ってしまいそうだと思えば,急に惜しくなることがあるわけです。(p135)
 70歳からの恋愛は,それが「人生最後の恋」になりうる可能性が高いでしょう。だとしたら,世間のルールより,自分の気持ち,相手との関係を大切にすべきです。ただし,だからといって何をしてもいいわけではありません。自分の気持ちを大切にしながら,周囲も大事にできる,というのが大人の甲斐性です。(p141)
 身近であるがゆえに,ないがしろにしてしまうことがあるのです。70歳になったら,近くの人こそ,大切にすることです。あらためて,自分のパートナーを見直しましょう。(p149)
 運命の人というのは,その出会いによって,自分の運命が変わっていく存在ですが,生涯にただ1人というわけではない,というのが私の持論です。また夫婦だけが,運命の人とは限りません。ただし,夫婦でも,運命の人ではないことがあるかといえば,それはないでしょう。運命の存在だったからこそ,結婚したのです。(p150)
 チャンスというのは,じつは誰にも,いくつになってもあるものです。あなたの人生も,あなたがその気になりさえすれば,まだまだ変わっていきます。可能性の扉は,いつでも開かれているのです。(p164)
 70歳を過ぎたら,「自分に残された時間」を考えてみましょう。(中略)毎日というのは,なんとなく流れてしまいます。よほどの計画を立てない限り,あっという間に1日は過ぎて,「何もしなかった日」が続いてしまうのです。とくに男性は定年で仕事がなくなると,そうなってしまいがちです。(p167)
 「シャンパンタワー」というのは,グラスをピラミッド状に積み上げ,シャンパンを注ぐセレモニーのことです。そのすべてのシャンパングラスをシャンパンで満たすには,ます一番上の,1つめのグラスを満たし,それがあふれることで,下のグラスにシャンパンが注がれていくわけです。(中略)まずは,自分自身に注ぐことが大事なのです。自分に注いであふれたエネルギーが,次の段へとあふれていくことこそが,美しくエネルギーが行きわたる形なのです。(p174)
 昭和生まれは,自己犠牲を美徳だと考えがちです。(中略)が,70歳を過ぎたら,自分優先でいいのです。いや,本当は70歳を待たず,60歳でも,それをすべきです。(中略)自分を優先するというのは,自分のことをするというのではありません。自分がしたいことをするのです。(中略)あなたの人生が充実していると,元気でいられます。70歳を過ぎたら,あなたが元気でいることが,あなただけでなく,あなたの周囲の人たちにとっても,幸せなことだと気づくのではないでしょうか。(p176)
 外食や旅行をするときに,目的は何かといえば,自分を喜ばせることではないでしょうか。(中略)誰かに見栄を張るための贅沢は,70歳になったら,もう卒業していいでしょう。いや,卒業すべきでしょう。(p180)
 年を重ねると,それだけで気持ちは暗くなりがちです。どんなに若々しさを保っている人でも,自分の老いを感じない人はいないからです。(中略)その暗い気持ちが,病気を誘発してしまうこともあるのではないかと私は思います。だからこそ,気持ちを明るく持っていくことが大事なのです。(p180)
 「お金は使えない」となったら,知恵を絞りましょう。知恵は,そうして使うのです。「フレンチのフルコース」に行くのが難しいなら,自分でフレンチを勉強して,家族にふるまってはどうでしょう。そのほうが,ホテルで食べるより,ずっと楽しそうだと私は思います。(p181)
 未来というと,ずっと先のことを考えてしまいます。30代,40代の若いうちはそれでよいのですが,70歳の未来は,明日のこと,明後日のことでいいのです。(中略)昨日の失敗を引きずることもありません。後悔している時間は,70歳にはないのです。「今日,何をするのか」「明日,何をするのか」ということを考えていきましょう。(p182)
 年を重ねれば重ねるほど,人生の表舞台には立てなくなる,というのは,これまでの常識でした。でも,いまは違います。(中略)人生70年時代,80年時代のロールモデルはあっても,それ以降はどうして生きていけばいいのか,健康をどう保っていけばいいのかを,模索していかなければなりません。いわば,いま70歳のあなたが,そのモデルとなっていくことができるのです。(p188)
 「自分なんて」という言葉を使ってはならない,ということを本や講演で伝えています。(中略)そういっている人には,どんなこともできません。仕事もまわってこないでしょう。(中略)「自分になんてできない」と考えるより,「自分にもできるかもしれない」「いや,自分でなければならない」と考えるほうが,人生は楽しくなるでしょう。(p190)
 たいていは「年齢」や「家族」の話になるのです。(中略)そういう話しかできない人は,話材のない人です。つまり,「内」の話しかできない人は,その話を発展させていくことができません。(p194)
 興味のあることには,列車の時間も忘れて,それだけ没頭できるというのは,やはり大きな才能でしょう。(p196)
 私は,70歳になった人にこそ,手帳を持つことをオススメします。105歳で亡くなるまで,生涯現役を貫いた医師,日野原重明先生は,100歳のときに「10年日記」を買って,3年後の予定も書き込んでいたといいます。(中略)人生というのは,気を抜いていると,あっという間に,なんとなく過ぎてしまうものです。悪いことに,なんとなく過ごしてしまっても,年を取ると誰も叱ってくれません。(中略)そのために,日記や手帳を使って,これからの予定や,その日に知ったこと,気づいたこと,考えたことなどを書き込んでいきましょう。スマホなどに記録することもできると思いますが,私は手と脳はつながっていて,「手で書く」ことで,脳も活発になると信じています。(p198)
 年長者というのは,その存在感で貢献できるということがあるのです。(p203)
 若々しいことは素晴らしいことですが,それよりも大切なのが「自分らしい」ということです。いくつになっても,自分らしく生きられることが,人生の目的といっても過言ではありません。その「自分らしさ」を守るには,「年齢」に制限されないことです。(p207)
 70歳を過ぎて,私が一番無駄なことだと思うのは,「自分にないもの」を数えることです。(p208)
 どんなことでも10年続けていけばプロになれる,といわれます。あなたも,これからの10年をかけて,「残せる仕事」に取り組んでみませんか。(p211)

2020年11月23日月曜日

2020.11.23 野口悠紀雄 『年金崩壊後を生き抜く「超」現役論』

書名 年金崩壊後を生き抜く「超」現役論
著者 野口悠紀雄
発行所 NHK出版新書
発行年月日 2019.12.10
価格(税別) 850円

● 大学の経済学部や経営学部で,年金経済論あるいは高齢者雇用政策論というタイトルの4単位の講義のテキストになりそうな本。今はどうなのか知らないが,40年前の大学だと新書本1冊は4単位の講義に相当する内容があったような気がするな。
 卒業に必要な単位は124単位だから,新書を31冊読めば学士になれるという,非常に大雑把な計算。大学なんてその程度のものと考えておいて,まず当たらずとも遠からず。文系の場合はだけどね。

● 以下に転載。
 「働こうとすれば職を得られるにもかかわらず,働こうとしない」高齢者が多いのです。(p7)
 組織に頼れば組織に使われてしまいます。組織をいかに使うかを考えるべきです。(p10)
 まず最初に,「有利な資産運用法などありえない」ということを知るべきです。昔から,金融資産の運用において巨万の富を築いた人は大勢イます。(中略)ただし,彼らは偶然そうなっただけです。(中略)バフェットが巨万の富を築けたのは偶然の結果なのですから,その真似をするのは,原理的に不可能なことです。(p39)
 この予測を用いて株を買えば,金持ちになれるでしょうか? 答えは「No」です。なぜなら,現在の株価は,その予測を前提として成り立っているからです。その予測はすでに使われてしまっているのです。(中略)公にされた予測を用いても,人を出し抜くことはできないのです。(p42)
 (日本老年学会が)現在65歳以上とされている高齢者の定義を,75歳以上に見直すべきだと提言しています。名前や呼び方は重要です。実態が変わっても,名称が変わらないと,古い観念に囚われる場合が多いからです。(p117)
 在職老齢年金制度は,就業する場合にも低賃金の就業を促進することになります。低賃金の就業を促進することによって,高齢者の能力発揮を妨げているとも言えます。つまり,この制度は,低賃金で高齢者を雇用する企業への補助金として機能しているのです。(p135)
 病気になって就労できなくなり収入がゼロになっても,前年の所得が多ければ,高額の自己負担額が発生し,払いきれなくなる事態は容易に想像できます。(中略)「働いていなければ命が助かったが,なまじ働いていたために,命を落とす」ということがあり得るのです。高齢者になって働くことは,現在の制度の下では,単に「損する」だけでなく,きわめて「危険」なことなのです。(p142)
 医療保険におけるペナルティは,所得にかかるのではなく,「働くこと」に対してかかります。したがって,現在の制度下で最も賢い方法は,退職金を金融資産に投資して,そこから所得を得ながら,医療費の自己負担からは逃れることです。(p144)
 医療,介護保険制度においては,所得を勘案して自己負担額が決められています。問題は,資産が勘案されていないことです。(p152)
 氷河期世代が深刻な問題を抱えていることは間違いありませんが,この世代「だけ」が特別に深刻な問題を抱えているというのは,多分にマスメディアが作り出した虚像なのです。(p163)
 日本では,道路運送法によって,許可のない人が自家用車を使って有償で人を送迎することは,「白タク行為」と見なされまず。(中略)新しい働き方を実現するには,規制緩和が不可欠です。(p177)
 問題そのものがはっきり捉えられていない場合もあります。漠然と不安を抱えているだけで,何が問題なのかを把握できない。だから,そもそも具体的な質問をすることができないのです。(p184)
 人間は,自然が作った平均寿命の限界を超えたのです。これは,誠に喜ばしい変化だといわなければなりません。(p219)
 多くの人が,「仕事は辛いけれども,生活のためにやらなければならない」と考え,仕事から解放される時間を「自分の時間」と考えています。しかし,私には,「仕事をやることこそが生きがいだ」としか考えられません。(中略)私にとっての悪夢は,仕事ができなくなってしまうことです。(中略)こうした仕事を見いだせたことは,本当に有り難いことです。(p222)
 AIの機械学習について,「過学習」ということが問題とされています。これは,AIが機械学習を行う際に,与えられたデータの中で学習しなくてもよいことまで学習してしまうことです。この結果,判断を誤ることになります。これと同じことが,日本の縦型社会において生じているように思われてなりません。(p223)
 日本には,「新しい仕事をやれ」と言われると,「その前にやり方を教えてくれ」と言う人が多くいます。「海図がなければ,航海には出ない」と言うわけです。しかし,それは,間違いです。新しい仕事に挑戦するとは,海図のない航海に出ることなのです。(p228)
 安定した社会が壊れる時は,意欲のある人間にとっては,チャンスの時になります。(中略)いまの日本は,表面的にみれば,安定しています。しかし,その内実を見れば,どうしようもないほど行き詰まっています。(中略)日本はいま「食い詰め」ようとしています。経済停滞が始まったのは1990年代のことで,それ以降,経済はほとんど成長していません。(中略)16世紀のポルトガルと同じ立場に置かれた日本に,いまこそ,エンリケやマゼランが現れて,新しい航海を始めなければなりません。(p230)

2020年11月19日木曜日

2020.11.19 なかむらるみ 『おじさん図鑑』

書名 おじさん図鑑
著者 なかむらるみ
発行所 小学館
発行年月日 2011.12.12
価格(税別) 1,000円

● 大人の絵本というかね。絵も著者が描いている。10年前に出たものだけど,女性が見るおじさんの世界は,永久不変かもしれないねぇ。

● レッテルをどう作るかが図鑑の決めてになりますか。たとえば「ぽっこりおなかのおじさん」。これ,ぼくのことですよ。ぽっこりの下でベルトをするのが基本スタイル,なのだ。なるほど,おっしゃるとおりだ。
 が,ぼくは違うぞ。ベルトをしないからな。しなくてもズリ落ちて来ないから。

● 「何となく嫌なおじさん」というのもある。「何か嫌な感じがして生理的に近寄りたくなりおじさんのこと」というんだけど,何だかギクッとするよね。
 その中には「しけべおじさん」もいる。電車に乗っていて,「隣に女性が座るごとに顔→全身 とチェックするようにじろじろと見る」おじさんのことだ。
 いやいやいや,身に覚えのあるおじさんがけっこういるんじゃないか。ぼくもヒヤッとしたぞ。

● という具合に,自分に引き寄せて楽しむことができる。そういうふうに読んでもらえれば,著者も本望なのだと思う。

2020年11月14日土曜日

2020.11.14 岸見一郎 『定年をどう生きるか』

書名 定年をどう生きるか
著者 岸見一郎
発行所 SB新書
発行年月日 2019.06.15
価格(税別) 830円

● 定年を絡ませる必要はなかったような気がする。無理に定年を持ち込んだために,文章がいったり来たりすることになってしまったような。冗長というか。
 著者にもサラリーマン経験はあるのだが,定年で辞めるサラリーマンの機微にはやや疎かったりするんだろうか。定年=やるべきことと人間関係の喪失=一気の老け込み,があてはまる定年退職者なんて,今どき,いてもごく少数派ではないか。そのごく少数派に向けて書いたのだと言われれば,そうでしたかと申しあげるほかはないが。
 アドラー理論の射程距離も無際限ではないのだろう。やや雑に流れたような印象を持ってしまった。


● とはいえ,以下に転載。
 これまでの人生のように上り坂を苦労して登らなくてよくなり,これからは自転車のペダルから足を外して坂を下るというふうに考えれば,むしろ老年は楽に生きられるというわけです。(p29)
 定年の前と後に価値的な優劣があるわけではありません。例えてみれば,冬が他の季節に比べて劣っているわけではないようにです。冬には冬のよさがあって,それは他の季節のよさと比べることはできません。(p30)
 私には,会社で働いている人が社会との接点を失った引きこもりの人のように見えることがあります。(p32)
 現実はこうなのだといってしまったら,そこから先には進めなくなります。現状はこうだが,そうであってはいけないと考えなければ現状を変えていくことはできないのです。(p40)
 人は「今ここ」を生きているのですから,未来のことを考えても意味がないということです。(中略)未来は「未だ来てない」のではなく,「ない」からです。(中略)不安は未来に関わる感情ですから,未来を手放せば不安から自由になることができます。(中略)今考えられることがあれば,それは未来ではなく,「今」する準備のことです。あるいは,このようにいうこともできます。今変われないのなら,未来にも変われない,と。(p53)
 過去も今できることをするための妨げになることがあります。今,変わるのであれば過去は手放さなければなりません。(p54)
 まず人間の価値を生産性で見ないということです。生きることそれ自体に意味があることを知らなければなりません。(p54)
 学校に行かなくなった子どもの親に私がよくいうのは,何の疑問もなく自動的に身体が学校に運ばれている子どもよりも,今は学校に行っていない子どもの方が,勉強することの意味や人生の意味などについて深く考えているということです。(p56)
 何かをしていなければ怠けているように思う人は,この何かをしなければならないという思いから脱却しなければなりません。人の価値を生産性で見ないという考えにつながっていきます。(p58)
 この趣味には何か意味があるかなどということを考えていれば趣味を楽しむことはできないでしょう。(p69)
 学校は英語ではschoolといいますが,その語源はギリシア語のschole,「暇」なのです。実用性から離れて時間をかけなければ学問とはいえないのです。(p70)
 何が与えられているかではなく,与えられたものをどう使うかが大切だとアドラーはいっています。(p71)
 カメラを買ったのにすぐに使わなくなってしまうというような失敗をしないためには,最初から何もかも揃えて始めるというのではなく,できることから少しずつ始めるのが賢明なのです。(p72)
 自分が経済的に優位であるということを,妻や他の家族よりも優位であるということの根拠にする男性がいます。(中略)このようなことは劣等感によるものです。(中略)本当に優れている人はそのようなことはしないで普通でいられるのです。(p74)
 エネルギーがあればそのエネルギーの向けどころを変えれば立ち直りは早いのですが,エネルギーがあまりなければ,まずそのエネルギーを出すところから始めなければなりません。(p80)
 仕事の場でも,評価は必ずしも正しいとは限りません。(中略)入社試験もそうです。本当は優秀な能力を持っている人でも会社がそれを正当に評価できず,試験に落ちるということはよくあります。(中略)評価と自分の価値や本質は何の関係もないのです。(p82)
 愛という感情があるから二人の関係がよくなりよいコミュニケーションができるわけではありません。よいコミュニケーションができていると思えた時に,この人を愛していると感じられるのです。(p86)
 若い人は就職活動の時,ワードもエクセルも使えますと自分の持っている知識を会社にアピールするのですが,そのことは(中略)自分は他の人と同じ知識を持っている,言い換えれば,他の人に取って代わられるくらいの能力しか持っていないということを会社にアピールしているに等しいのです。(p111)
 仕事は何のためにするのかといえば,私は他者貢献だと考えています。(中略)貢献感を持つことができれば自分に価値があると思え,対人関係の中に入っていけます。(中略)理想をいえば,そんなことすら忘れて自分が取り組んでいることに喜びを感じられることが望ましいと私は考えています。(p127)
 仕事中心の人生を送ってきた人は家事の多くを免除されてきました。いわばそれまでずっと甘やかされて生きてきた人は,定年後には甘やかされて生きることから脱却しなければなりません。(p154)
 他者(定年後にはそれが家族になりますが)が自分の期待を満たすために生きているのではないことを知らなければなりません。(p155)
 いつも一緒にいなければ満足できないというのであればおかしいのです。それは依存であって愛ではありません。一人で過ごすこともできるが二人でいる時の方がより楽しいというのが,本当の意味での自立といえます。(p161)
 人生設計をしてみても,その通りにはならないのは,若い時も定年後も同じです。(中略)人生設計をすることを勧めないのは,このように先が見えない,先のことは決められないからということもありますが,計画を立てると「今」が将来の準備期間になってしまうからです。何かを達成してもしなくても,人は今ここでしか生きることはできないのです。(p167)
 効率的に生きることに意味はありません。誰もが必ず死ぬのですから,効率的に生きるというのは,できるだけ早く死ぬということになってしまいます。(p168)
 人は幸福であることを願うことも,願わないこともできるのではなく,誰もが幸福を目指している,幸福でありたいと願っているというのが,ギリシア哲学の考え方です。(p174)
 お金があってもなくても,また会社で高い地位についていてもついていなくても,幸福に生きるためには,そのようなことにとらわれないことが大切です。(p176)
 持っていないものを失うことはできません。過去も未来も持つことはできません。「各人は今だけを生き,かつそれだけを失う」(p184)
 哲学者の鶴見俊輔はこういっています。「敗戦直後,食事をする気力もなくなった男は多くいた。しかし,夕食をととのえない女性がいただろうか」(p193)
 現実がどんなに苦しくても,本を読めばそこには現実とは違う世界が待っています。苦しさを忘れ,愉快な気持ちになれます。これは現実逃避ではありません。本を読んでいる「今」も現実だからです。(p196)
 問題は間違うことではなく,間違うことを恐れてしまうことです。(p199)
 何もしないうちから,この歳になると記憶力が衰えたというようなことをいって何かを学ぼうとしない人は多いですが,学生時代のように本気で学べば大抵のことはかなりの程度まで身につけることができます。(p200)
 ドイツの詩人であるリルケは,批評してもらうべく自作の詩を送ってきtカプスに,批評を求めるようなことは今後一切やめるように,そして,「書かずにはいられない」のであれば,詩を書くようにと助言しました。(p201)
 とにかく朝目が覚めたら,今日という日を今日という日のためだけに生きる。できるのはこれだけです。(p205)

2020年11月5日木曜日

2020.11.05 帯津良一 『達者でポックリ。』

書名 達者でポックリ。
著者 帯津良一
発行所 東洋経済新報社
発行年月日 2008.10.23
価格(税別) 1,300円

● 高齢者向けの生き方論。帯津さんのこの分野についてのエッセイはすでにいくつも読んでいる。が,また読みたくなる。
 なぜかというに,こうだったら都合がいいのになぁと思うことが説かれているからだ。健康診断の数値? そんなものはクソだよ,とか。ときめきを大切にしろ,とかさ。
 それでいいんだったら自分にもできるかも,と思うじゃん。実際にできるかどうかは別にして。何か,中世ヨーロッパで教会が販売したという免罪符に似たものを買っている気がするんだよね。
 同じように考える人が多いのだろう。帯津さんの本は高齢者にかなり読まれているのではないか。

● 以下に転載。
 私たちの命は宇宙の大きな流れの中で循環しています。「死」は終わりではなく,魂のふるさとである「虚空」への旅立ちなのです。旅立ちなのですから,今を生きながら「死」に向かって,日々エネルギーを高め続けることが大事です。(p3)
 「人は死に損なうとろくなことにならない」というのが私の持論です。人間には死ぬタイミング,つまりそれぞれに「死に時」があると思うのです。(p21)
 高齢者がじっとしているというのは実によろしくないことです。からだのめぐりに支障をきたして,すぐになにかを起こすのです。(p23)
 舞台だってリハーサルなしの一発勝負ではうまくできません。それと同じで,死ということも普段から折に触れて考えておかないと,本当に死を迎えたときに上手にポックリいけないのです。(p52)
 死の不安に打ち克つために一番大事なことは,「死後の世界」を信じることだと思います。(p56)
 自分の死を折に触れ考えている人が来ると,死に直面している人は,死への恐怖が和らぐというのです。生を謳歌している人がいくらなにをいってもダメなのです。(p57)
 食の養生は「旬」であるといつも私は言います。旬で地場のものを食べるのが一番いいのです。なぜならばそれは「場」を共有しているから。(p117)
 食養生で一番大事なことは「おいしい」という心のときめきだと思います。食べたいものをガマンして食べなかったり,苦手なものを無理に食べたりするのはダメなのです。(p118)
 「ときめき」こそが生命のエネルギーです(p130)
 サプリメントもいろいろあって玉石混交の面があります。選び方のコツとしてはまず値段です。適正な価格であることです。月に何十万もするようなものはダメだと思います。そんなに高いわけがないのです。それからそれを売りに来る人の人相,これも大事です。人相の悪い人から買ってはいけません。(p160)
 私は食事の前に手も洗わないし,ガラガラやるのも苦手ですから,うがいもしたことがありません。あまり意味のない健康常識に振り回され,神経質になることは生命場を高めるうえでもいいことはありません。(中略)そもそも,からだ全体を考えず,細かい点にとらわれて命を永らえようとするのは,「達者でポックリ」の概念からは大きくはずれてしまいます。(p166)
 血圧を低めに抑えると,「脳出血」は抑えることができるのですが,今度は「脳梗塞」になるリスクが高まるのです。(p172)
 うちの病院でも以前は,落語家さんに来ていただいたり,落語のテープを聞くなど,笑い療法を取り入れていました。患者さんからも評判がよく,それなりによい効果もあったのですが,今は積極的には行っていません。それは人間,無理にでも笑えばいいものではないということに気づいたからです。(中略)ただ,あるがまま,つらいとき,かなしいときは,泣いたり,ため息をついたりしていいのです。(p177)
 もちろんリラックスは大事ではあるけれど,そればかりでも人生は面白くありません。人間はストレスや困難な状況があると,かえって命が爆発するのです。それが病気を治す起爆剤にもなりうるはずです。(p178)
 交感神経が一回働いて,それから副交感神経系が出てくるというバランスが大事です。一日リラックスして副交換神経だけ働いていてもよくないのです。(p179)

2020年11月4日水曜日

2020.11.04 堀江貴文 『情報だけ武器にしろ。』

書名 情報だけ武器にしろ。
著者 堀江貴文
発行所 ポプラ新書
発行年月日 2019.03.27
価格(税別) 860円

● 副題は「お金や人脈,学歴はいらない!」。すでに発刊済みの書籍やメルマガなどからタイトルに絡む文章を集めた箴言集のようなもの。堀江さんはすでに何冊も箴言集を出しているが,本書もそのひとつ。
 それだけ需要が多いのだろうし,新書版にして価格を抑えることで新たな読者が付く,ということもあるのかもしれない(ないか)。

● 以下に転載。
 情報を持たなければ,人は恐怖に駆られる。仕事や人生の,将来についての不安や恐怖の大半は「情報不足」が原因だ。今,「未来」の何かを怖がっているのなら,残念ながら,あなたは「情報弱者」ということ。(p5)
 僕は子どもの頃から「自分の強みを生かせる『市場』を選ぶ」という思考で過ごしてきた。だから,勝算がなさそうなら,「決められた土俵」には上がらない。(p16)
 まず伝えたいのは「情報とは,自分から積極的に取りにいくもの」という点だ。向こうから舞い込んでくるような情報には,むしろ軽快したほうがよい。(p21)
 幸運にも,現代では,「情報を手に入れる」ためのツールは揃っている。スマホのニュースアプリを使ってもいい。SNSを駆使して,「興味のある人」「先を行く人」の発信をフォローし続けてもいい。そして,情報をハントする「狩り」が終わったら,次は自分の頭で考え,自分なりの言葉で世界中に発信し,頭の中を整理するクセをつけるのだ。(p21)
 取り入れた情報は,すぐに忘れてもかまわない。本当に大事な情報は脳の片隅で待機してくれている。脳はよくできている。(中略)情報の端緒さえ思い出すことができれば,あとは検索するだけでいい。(p26)
 限界まで予定を入れて,やりたいことをやってみると,時間をどう使えばいいのかが浮き彫りになってくる。(p27)
 「抽象的なことをダラダラと考えるクセ」と縁を切ることもおすすめだ。「やりがいって何だ?」「人生において幸福とは何だ?」「努力って何だ?」 こんなことにいくら頭を使っても,残念ながら何も生まれない。(p27)
 「考える,調べる,試す」という「思考実験」を繰り返し行うことでしか,情報を価値あるものに高めることはできない。情報を得ている者が強いのではない。思考実験をし続ける者こそが最強なのだ。(p33)
 「○○さんに会う」というライブ体験に,過剰に心を踊らせるくらいなら,その人の著作やSNSを丁寧に追いかけたほうが,よっぽどいい。(p35)
 何かに没頭して自信を持って訴えかける熱量がないと,「会いたい人」に会っても,化学反応は起こらない。(p37)
 今の自分の「教養」のレベルと同等の情報しか手に入らない。だから普段から,「教養」を磨こう。(p44)
 情弱は「お金=豊かさ」と思っている人が少なくないと思うが,もうその時点でダメだと思うのだ。現代社会においては,お金と豊かさの相関性は高くない。社会が進歩すればするほど,その傾向が強まり,むしろお金の価値は低下している。(p52)
 貧困問題を解決するには,お金をあげればすむという話でもない。個別に見れば,「ちょっと工夫すればいいのに」という問題が多すぎるように思う。いってわからないバカは切り捨てるしかないと僕は思ってしまうが,それは冷たいことだろうか。(p54)
 わずか「10」でも信用があれば,「100」のお金を他人から借りて集めることができる。ところが面白いことに「100」のお金があっても,「10」の信用を得ることはできない。だから,お金そのものを欲しがるのではなく,信用を得ることに先に懸命になるべきなのだ。(中略)そのためにはまず「自分自身が楽しむこと」。あなた自身が楽しいと,その空気は周囲に伝わり,共感してもらえるはずだ。そして多くの人が集まってくるだろう。(中略)だから,あなたは何かに集中して,楽しんで,「自分自身の価値を高めること」に尽力すればいい。(p57)
 さらに多くの人が現金を使わなくなると,仮想通貨も身近な存在になる。そのとき,仮想通貨は再ブレイクするのではないか,というのが僕の見立て。(p64)
 多くの人は巨大な桃が流れてきたら,驚いたり,様子を見たりして,基本スルーだ。ところがおばあさんは平然と持ち帰る。(中略)運を味方につけられる人というのは,このおばあさんのように「これだ!」というものが出てきたら一も二もなく飛びつく。(中略)では,「自分の目の前にあるものが「桃」かどうかをどうやって見わければいいのだろうか。結局それは「自分が熱狂できるかどうか」で判断するしかないだろう。(p66)
 賛同者とアンチ,両方が次々にネット上に湧いて,議論が起こったほうが,世の中がよい方向へ変わったり,新たなファンを獲得できたりするものだ。(中略)立場によっては見解がわかれるネタで,「賛否がいい感じに拮抗するもの」ほど,活発な議論が展開され「建設的な炎上」となる。(p78)
 僕が問題だと思うのは大学の存在が大いなる無駄になっていて社会の負担になっているということだ。若者が4年間もボーッと過ごしているのが大学なのである。(中略)「大学生」という肩書が下手にあるおかげで何かやっている人であるかのような錯覚を本人にも周囲にも生み出している。(p83)
 本屋を「本を読む(本が好きな)比較的知的レベルの高い人たちが集まる場所である」と再定義したことで,何を掛け合わせれば,ちゃんと儲けることができるのかが見えてきたのだ。(p96)
 基本的な知識の吸収という面でいうと,ネット検索でかなりの程度まで事足りるはず。だから「調べられることは,1人でちゃんと調べよう」と声を大にして伝えたい。(p98)
 突発的なトラブルが起こると,自力で解決できず,立ち往生するか,誰かに助けを求めるというのが,情弱の特徴。だから,いいカモにされてしまうというわけだ。(p99)
 人生なんて,(中略)合理的に考えるだけでうまくいく。これが僕の信条だ。だから,あれこれ余計なことについては考えない。具体的にいうと「自分の力でどうにもできないこと」や「他人の言動や人生」について,考える必要なんてない。(p101)
 感情を排して,今ある情報を合理的に考えるだけで,ゴールに早く至ることができる。それは,クヨクヨする時間を短縮し,自分の時間を節約することにもなる。(p105)
 技術とは,もはやただの「情報」なのだから,知られてしまえばそれでおしまい。(中略)動画全盛のこの時代。技術格差はなくなったといっていいだろう。(中略)やってみる,チャレンジできる環境は間違いなく整っている。そして,この状況はさらに加速していくだろう。(p110)
 なぜこの和牛ビジネスが成立しているか。どうやって和牛を売ればいいか。それは,和牛にストーリーという「情報」を載せられるかどうかがカギになる。(中略)いってしまえば,「和牛ではなく,情報を食わせる」ということになる。(中略)人は情報に寄ってくる。ただいいサービスや商品をつくっているだけでは,お客からは相手にされない。(p113)
 ビジネスにおいては,まず「近しい情報を真似てみる」というのが王道だ。それは決して恥ずかしいことでも,志が低いことでもない。(p119)
 昔からよくいう「飯炊き3年握り8年」というのは,寿司職人が増えすぎないよう,見習いにノウハウを教えないための方便にすぎない。(p127)
 情報収集を終えたら,人前でリアルに「アウトプット」する。このサイクルを大切にしている(中略)アウトプットとは,情報を吐き出して終わりじゃない。その情報を行動に移してこそアウトプットといえる。(p135)
 アイデアに価値なんてないのだ。(中略)何かアイデアを思いついたら,それを自分でつくらなければ(行動に移さなければ)意味がない。(p145)
 大して好きじゃないから食っていけるレベルに到達できないのであって,時間を忘れるくらい好きな事ならどんな事であっても必ず食っていける(p151)
 世の中には「ああしなければならない」「○○の資格が必要だ」という「常識」という情報が無数に存在しているが,その大半は嘘であり幻想である。既得権を持った「ギルド」の連中が楽にメシを食うためにもっともらしいルールを張り巡らせているのがこの世界の実相だ。(p151)
 「情報の価値」を最大化するには,その情報をなるべく多くの人と共有することである。(中略)パクられたっていいではないか。(中略)人間は忙しい。やることは山のようにあるのだから,効率を優先すべきだ。(p152)
 僕の執筆スタイルは「ベッドで寝転びながら,スマホでフリック入力」だ。(中略)毎週のメールマガジンも,書評サイト用の文章も,短編小説の原稿さえも,すべて寝転びながらスマホで書き切っている。(中略)まずは「書くこと=時間がかかる」という心理的なブロックを,外してみてほしい。そんな心理的制約は,不毛すぎる。(中略)書評サイト用の文章は,400時詰め原稿用紙4~5枚に相当する。いつも10分で書き切るようにしているが,フリック入力がもっと上達すれば5分前後にまで短縮できる自信がある。(p156)
 飲食店の手法でいうと「常連が増えると客単価が上がる」という法則がある。それほど,お客さん全員が常連化するよう仕掛けていくのは重要なことだ。(p164)
 皆で一斉に横並びで同じことをやったって,自分の価値が高まるはずがない。(p173)
 この人物はお金持ちかもしれないが,こんなにもインプットもアウトプットもしない人間が,魅了的といえるだろうか。(p176)
 よくも悪くも超情報化社会に生きる僕たちは,「情報をスルーする力」を身につけることが不可欠だ。それが,大事な脳をセーブする(労わる)ことにもつながる。(p193)
 そうした世間の常識を押しつけてくるのは誰かというと僕の場合,田舎で暮らす情報リテラシーの低い親である。(p196)
 情報発信において心理できる人を1人でも多く見つけるしかない。これはリアルでもネットでも同じことだ。「情報強者」と探して,自分も「情報強者」になるしかない。(p198)

2020年10月30日金曜日

2020.10.30 帯津良一 『はつらつと老いる力』

書名 はつらつと老いる力
著者 帯津良一
発行所 ベスト新書
発行年月日 2019.01.25
価格(税別) 860円

● あんまりストイックにならなくてもいいよ,ゆっくりかまえて自分の欲望を大事に考えなよ,というメッセージ。しかも,そのメッセージを発するのがお医者さん。
 となると,こんなに勇気づけられることはない。何だか,自分に都合がいいように思える。それを知っているから,帯津さんの書いたものは読んでみようと思う。ぼくはそんなサイクルで読んでいるんですけどね。

● 以下に転載。
 私の場合,血液検査で毎回いくつかの異常値が見つかるのですが,なかでも,γ-GTPは,二十年以上ずっと異常値です。ちていの人には負けません。(p4)
 人間ドッグの数値がすべて正常でも,心身の不調を訴えている人はたくさんいます。それでも,検査で異常が見つからない限り,その人は「健康」と診断され,本人の不調は無視されてしまいます。(中略)人にはそれぞれ,その人に適した「正常値」があります。つまり,健康の「正常値」は,人によって違うのです。(p5)
 健康法にしても,「からだ」だけをみていると,病気を怖れて,「これは危ない」「あれはやめよう」といって,生活をあれこれと制限してしまうことになりがちです。これでは,、毎日がただ苦しいだけで,生きる喜びが失われてしまいます。(p6)
 彼らを見ていると,人のために生きるというのは,どうも免疫力を上げるのではないかと思えてきました。世話人の中には,闘病中の人もいますが,途中で亡くなった人は一人もいないのです。(p41)
 一般的には「食べないほうがいい」といわれている食品であっても,大いなる喜びにときめいて食べれば,食材の不利を補ってあまりある,というのが私の食養生の極意です。(p45)
 ゲルソン療法のような極端な食事療法は,がんが進行して背水の陣になったようなとき,日常性を変えるうえでは悪くはないと思うのです。ただし,肩の力を抜いて,懐を少し深くして行うのがコツです。まなじりを決して,厳しい決まり事を守り抜くとなると,どうしても途中で疲れてしまいます。(p52)
 食べたくなくて食べないなら,それは構わないのです。ただ,肉を食べるのは,からだによくないと聞いたので,食べたいけど我慢している,という場合は,あまり賛成できません。(p63)
 サプリメントは,「旨い」という喜びはありませんが,利用していることで得られる安心感は,まちがいなく養生となります。(p79)
 目元がきりっとしていて,全知の佇まいが凛としている。凛としていることと色気は,案外,裏表になっているのではないかと思います。(p89)
 貝原益軒は,朝の行事をとても大切にしていました。(中略)朝の時間を大切にしているところは,私も共通しています。病院で仕事をする日は,朝二時半に起きます。そして,三時半に病院に到着して,そこから仕事を始めます。患者さんの診療が始まる前に,机の上でできる事務的なことをすべて済ませてしまうのです。(p93)
 貝原益軒は,寝る時間は短いほうがいいと強調しています。(中略)眠りが少ないほうが,気の巡りがいいし,体調もよくなるということです。私も,実感としてそう思います。(中略)なるべく早く起きて,そして睡眠時間は短くする。こういう生活が,年をとるにつれて,より大事になってくると思います。(p96)
 楽しく誰かと酒を飲んでいれば,認知症にならないような気がしています。(p108)
 気功は,ある程度の遊び心をもって,大いなる喜びを感じながら行います。毎日やることよりも,長く続けることが大事です。(中略)しゃかりきになってやったから,高いレベルに早く達するというものでもありません。(p126)
 気功の場合は,気功をやる道場の「場」というのも大切です。一人でこつこつやる時間も必要ですが,いい指導者のもとで,いい仲間を得て,一緒にやる時間を作る。(p131)
 医療をやっていると,祈りというのが非常に大事だと思うようになります。(p149)
 私の患者さんの中には,今日亡くなる方もいらっしゃいます。とすれば,こちらも今日が最後だと思って活きていないと,患者さんより一歩でも二歩でも死に近いところに立つことはできないからです。今日が最後だと思って生きていると,今日一日しっかり生きようという気になります。朝の気功も,日中の診療も,患者さんや職員との何気ない語らいも,すべて今まで以上に愛おしく思えてきて,より大事に時間を過ごすようになります。中途半端なことはしなくなる。(p196)

2020年10月28日水曜日

2020.10.28 今枝由郎訳 『サキャ格言集』

書名 サキャ格言集
訳者 今枝由郎
発行所 岩波文庫
発行年月日 2002.08.20
価格(税別) 560円

● 本書の著者,サキャ・パンディタは13世紀のチベットの人。学者であり政治家であったそうだ。
 訳者は「フランスのラ・ロシュフーコーの『箴言集』と比肩して遜色ないであろう」(p206)というが,ロシュフーコーの小気味良い辛辣さはサキャにはない。ロシュフーコーは人間の狡猾さや間抜けさを個別に取り出して,これでもかというほどに晒してみせるのだが,サキャは処世術をあれこれと語っているような印象を受けた。

● 格言集から転載するのもなんだけども,いくつか引いておく。
 人は医大な人の欠点を探すが 劣った人の欠点は探さない。(p30)
 心にねたみを持つ愚者は 害を及ぼす前に態度に表す。(p38)
 愚者がためになると思ってすることは とんでもない害になる。(p73)
 悪人はどんなに矯正したところで 本性は善くならない。(p81)
 一般に人は自分と同じものに邪魔される。(p95)
 慈しみが過ぎると 憎しみのもとになる。
 世間の争い事の多くは 親密さから生じる。(p100)
 人は長寿を願いつつ 老いを恐れる。(p119)
 悪い池に水がたまると どこかで決壊する。
 金持ちになって 続く家系は稀である。(p129)
 未来のことは考えないで 起きた時に努めて対処する。
 川に出くわせば靴を脱ぐが 出くわす前からどうして脱ぐか。(p131)
 敵に害を与えたいなら 自分が功徳を積むことだ。
 敵は嫉妬で心を焦がし 自分は福徳が増える。(p148)
 慈しみに満ちた言葉を言うことはたやすくて 人を集め喜ばせる最上の方法だ。
 財産で誰を満足させられようか。身命を捨てても半分の人も満足しない。(p172)
 貯めた財産は蜂蜜のようで いつかは人が取って行く。(p176)
 敵は害をなすから征服すると言うのなら 自分の怒りこそ征服せよ。
 怒りは無始の昔以来 自分に対して無限の害をなしている。(p184)

2020年10月26日月曜日

2020.10.26 勢古浩爾 『続 定年バカ』

書名 続 定年バカ
著者 勢古浩爾
発行所 SB新書
発行年月日 2019.11.15
価格(税別) 850円

● 『定年バカ』の続編。趣向は同じ。定年本を肴にして,それをこき下ろす形で自分の意見を開陳していく。もちろん,こき下ろさないで賛意を表しているものもある。橋本治,佐野洋子,楠木建がそれにあたる。
 著者は『定年バカ』で自分の退職金や年金の額を具体的に開示している。定年前に関連会社の役員になったものだから,退職金も早めに受け取ることになったようなのだけども,たしかに大企業や公務員を定年退職した人に比べるとだいぶ少ない。
 そのことが,著者の好きにすればいいのだという言い分に何がしかの説得力を付加しているかもしれない。

● が,在職中から評論や随筆を書き,著書も出している。退職したのは文筆業に専念したかったからではないかと思われる。そして,いよいよ快調に著作を重ねている。『定年バカ』もそうだが,出版不況の現状下でかなり売れた著書も多い。
 会社を辞めたという意味で定年者には違いないのだが,著者は仕事を辞めたわけではない。現役の作家だ。そこは押さえておかないとね。 

● 以下に転載。
 どうして「定年」は,個人的・私的であることを超えて,こんなに社会的な大問題になったのだろう。銀行,保険,証券,出版,旅行,葬儀などの企業が,「定年市場」を作ってしまったからである。つまり,定年は金になるとわかったのだ。(p5)
 定年退職者たちの不安をかきたてるような風潮がでてきた。市場として成立させ,拡大していくためには,不安を煽って不安産業化するのが手っ取り早い。健康・美容産業の手口である。(p20)
 現在の私の悩みは,老人になりきれないことである。客観的にいえば,わたしは見た目は完全な老人である。口を開けば,わたしも自分のことを多少の卑下や自虐を込めて「じじい」と自称したりする。しかしながら本心をいえば,私は自分をまだ「じじい」だとは思っていないのである。(中略)考え方も幼稚である。自分で年齢相応に成長しているとの自覚がない。(p50)
 「老い」を認めたくないから「まだ若い」と言い張るのではなくて,「若い」という基準しか自分を計るものがないから,ついつい「まだ若い」になってしまうのでしょう。(橋本治 p55)
 今より情報が少なかったときは,全部自分で決めたのに,今では自分の判断で損をすることになっては元も子もないと,なんでもかんでも「専門家」に頼ろうとして,「FP」だの「家計コンサルタント」という「専門家」に教えてもらいたがる。これが愚かである。(p85)
 日本人は全般的に差別意識の強い国民だと思う。長いものには無抵抗に巻かれるが,弱い者いじめは大得意である。その逆に「ヤンチャ」は持ち上げる。(p101)
 吉越氏は毎年,一年の半分を南仏のモンペリエで過ごすらしいのだが,(中略)わたしは毎年お盆の時期に四日間だけど,家族と一緒に安曇野の実家に帰りますよ,という人がいるなら,吉越氏のモンペリエとまったく互角である。(中略)おや,こりゃ羨ましいですな,とすぐ忘れることができるようなら互角だが,いつまでもうじうじ愚痴や嫌味をいったり,ケッと腐っている人間は負けなのである。(p134)
 定年後にいかに生きるか,いかに働くか,どんな趣味を持つか,老後をどうとらえるか,などについては,人はけっこう自分の意志や考えを強調しがちである。(中略)そして,その根拠の正しさを説く。(中略)もっともらしい理由を述べる。だが結局は,自分の経験と立場の自己肯定である。(中略)自身の好き嫌いなのだ。(p153)
 わたしは人の人生を見るのは好きである。しかし案外,人の生き方というものは参考にならんもんである。(p155)
 「不自由から解放されて,自由になるために教養がある。それは自分に固有の好き嫌いを自覚し,それを価値基準として思考し,判断し,行動することにほかならない。ごくあっさり言えば,教養の正体はその人の好き嫌いにある」(楠木建 p167)
 自分の価値観は好き嫌いとして表れる。(中略)大勢的な価値観とは,たとえば活動的な人間や友だちの多い人間ほど生き生きとしている,SNSは活用すべし,日本の先輩後輩関係は美的伝統だ,多趣味の人は人生や生活を楽しんでいる,というバカっぽい人間観や人生観のことでる。(p168)
 人間とは案外動かないものである。(p180)
 信じられないことにオヤジは,自信をもっているようなのだ。(中略)おれなら許されるだろう,と自分には甘いからいつまでもセクハラもパワハラも止まらないのだ。(p190)
 中年のおばさんたちが,番組でやってきた火野正平や笑福亭鶴瓶を見て,興奮しまくるという姿が,わたしには醜い姿としか映らない。一時,韓流ドラマに入れあげた佐野洋子は,おばさんたちは「華やぎ」たいのよ,といっていたが。(p192)
 ここ十年,二十年のわたしの気分でいえば,これ以外にない。「ろくでもないものだ」
(中略)若干の厭世感がある。人間の作り上げた「意味のシステム」(価値の体型)のほとんどを疎ましく感じるようになった。(p200)
 よくおばさんたちが「年を重ねた美しさ」というが,たいていそんなものはない。(p213)

2020年10月25日日曜日

2020.10.25 勢古浩爾 『定年バカ』

書名 定年バカ
著者 勢古浩爾
発行所 SB新書
発行年月日 2017.11.15
価格(税別) 800円

● たいていの本と同じように,本書も「はじめに」と「あとがき」を読めばそれで良し,という気がしなくもない。要は,あんたの好きにすればいいんだよ,いい歳して人に訊いてんじゃねーよ,と説いている。清々しいばかりの正論だ。
 教えを垂れるふうのいくつかの定年本を取りあげて,それをあげつらう(?)形で,その正論を何度も説く。空海がやった優劣比較の手法もこういうものなのかね。

● 以下に転載。
 定年後どう生きたらいいかについては,一言で足りる,と私は思っている。「自分の好きにすればよい」である。(p4)
 いちいちごもっともな提言を参考にするのはよい。(中略)しかし,「そうなのか。こりゃ大変だ,なにもしてないぞ」と過剰にプレッシャーを受けすぎて狼狽え,人にばかり教えてもらおうとする者はよくない。(p6)
 好きでする,何もしない生活は,自由の生殺しではない。自由そのものである。(p7)
 いったん不安に襲われたら,それを取り除くことはけっこう難しい。最初から無駄な不安にとりつかれないこと,それが一番である。これはけっしておざなりではない。(p41)
 「おまえはなにもしなくていいというが,二十年間なにもしないのかね」といわれたりもしようが,錯覚しないでいただきたい。二十年間が一度にどっとやって来るわけではない。来るのは一日一日である。人になんといわれようと,その一日一日を好きに暮らせるならそれで十分である。(中略)まだ見ぬ二十年間を先取りしてずっと「充実」させようと思ったり,二十年間持続する「生きがい」を考えるのは無意味である。(p59)
 わたしには「活き活きと輝いている人」というのがどうにもウソくさくて,うっとおしいことこの上ない。(p61)
 健診・検診そのものにも問題がないわけではないが,そこに医者が関わってくる「医療介入」が行われると,検査をしなければわからなかった「検査病」が見つかる。その結果,今朝までピンピンしていたわれわれはいきなり病人予備軍にされ,再検査,薬処方,精密検査,はては即入院,手術ということになってしまう。(p89)
 切れたのは会社との「つながり」だけである。社会といっても,たかだか「会社という社会」にいたにすぎない。(p117)
 ほんとうはみんなわかっているのではないか。はやめの準備など,ほぼ無理なことだと。それに,準備をしさえすれば,何年か先の自分の状況をある程度コントロールできるのではないか,という考えが,虫が良すぎる気がする。(p135)
 どうなるのだろうという不安があっても,実際にその時空の「中」に入ってみれば,なんとかなるものである。(p135)
 いったい読者は,ハウツー本になにを期待して読むのだろうか。希望,だと思われる。「なりたい自分になる」ことであり,「成功」であろう。書き手はそのことを察するがゆえに,読者にほんとうのことがいえない。無理にでも希望を示したいと思う。(p136)
 思い出として残っているものには不朽の価値がある。そんなものと戦って,勝てるはずがない。現前の人物や風景のほとんどは思い出になりきれず,ただ消えていくだけのものである。(p148)
 わたしは,リタイアしていようが,現役であろうが,みんな「ただの人」だと思っている。(p151)
 道徳教育批判はいいのだが,では本を読み,映画を観て,人を見て,話を聴いて,考えて,自分で自分の身を修めるように自己教育をするのか,といえば,そんなことはほったらかしである。そこにこの社会には,不まじめなオレは大物,まじめなやつはバカにしていい,というわけのわからん伝統的な価値観があるものだから,自我のコリ押しをしては自己陶酔する。そういう人間から人が離れ,嫌われた挙句に「ひとり」となっても,自業自得である。(p165)
 六十年も生きてくれば,多少は自分の身を修める術くらいは心得ていてもいいのではないか。-と思うが,この社会では,人間が成長できるようにはなっていない。むしろ,成長しなくていいというメッセージがマスコミ上で溢れている。無知であることがなんの恥でもなくなったのである。(p166)
 ふつう(自然,伝統)が一番,そこに自分らしさなどでごてごてと飾りたてるな(「演出」するな)(p180)
 わたしの定年後の生活は,わたしだけに固有な定年後の生活である。(中略)形だけもっともらしい正しさや,口先だけの無責任な一般論は,一人ひとりの生活に届かない。そんな柔な一撃は到底一撃たりえず,自我から一枚のウロコも剥がれ落ちない。(p193)
 元々,世界は無意味なものである。そこに人間は無数の「意味」をつくりだし,それをみんなで承認しあうことで,世界は成り立っている。(p200)
 自分が好きなら,世間などかまうことはないのである。(p209)

2020年10月23日金曜日

2020.10.23 西原理恵子 『最後の講義 完全版 西原理恵子』

書名 最後の講義 完全版 西原理恵子
著者 西原理恵子
発行所 主婦の友社
発行年月日 2020.03.31
価格(税別) 1,100円

● 「女の子の人生で覚えていてほしいこと」が副題。頭の中で拵えたわけじゃない,人に数倍する実体験からの処方箋が示されている。
 元手のかけ方が違う。それが1,100円で読めるんだから,若い女性は読んでおいた方がいいでしょう。男も,女ってこうなのかと目からウロコが落ちるだろうから,やはり読んでおくのがお得。


● 以下に転載。
 そんなふうにみなさんが真面目に大学に通っている間に,希少種の白馬の王子さまは腕利きのハンターみたいな女に持っていかれて,みんなが卒業する頃にはもうカスしか残っていません。(p5)
 だいたいクリエイターというのはこのタイプが多いです。要はウソつきがプロになっているだけですから。弁護士とか医者にそういうタイプはいないです。あの人たちは真面目に物事を考えるタイプなので。(p14)
 人の命なんて平等じゃないし,早く死んじゃったほうがいい人もいるに決まってるんだから。(p23)
 ダメな男って本気でウソをつくから。本気でウソをつく人にはかないません。(p34)
 ここにいる女性の皆さんは今,お金で換算すると2億円くらいの価値があると思うんです。おっぱいもお尻もきれいで,肌もツルツルだし。でも,40年後には0円になります。(中略)その間に何もしなかったら,死ぬほど怖いことになります。(p38)
 私の知り合いで看護師さんがいるんですけど,夜勤明けの昼間の居酒屋で知り合った男と付き合っちゃうんですよ。そこにどんな男がいるか,わかりますよね。(中略)漁場をまず変えること。同じ漁場で釣りをしている女性が非常に多いです。(p42)
 真面目な女ほど逃げ遅れますね。女の一途ってすごくいけないことだと思うんですよ。相手の悪いところが見えなくなります。(p43)
 男の人って髪切った日に「髪伸びた?」とか平気で言うぐらいだから,バレやしない。女のウソはかなりレベル高いですから,二股,三股ぐらいは全然大丈夫です。(p45)
 私の知ってる範囲では,9割方が慰謝料,養育費もらってません。そもそも慰謝料や養育費が払えるような男だったら離婚になりません。(p46)
 日本では出産も体育会系の根性論みたいになってて,どんなに痛くても母体はそれに耐えうる力がある,それに耐えてこそ母親になれるとか言うけど,真っ赤なウソですからね。絶対に無痛分娩にしてください。(p49)
 山内一豊の妻は本当に間違っていると思います。馬ひとつ買えない夫にへそくりのカネ渡すとか絶対ダメです。それは子供の養育費に突っ込むべきだと思います。(p50)
 人っていい加減ですし,弱い生き物なんですよ。すごい立派な人が急に変な人に変わっちゃうのね。何だろうなって思うんですけど,耐用年数が過ぎたんだねっていう話になって。(p51)
 本当に毎日毎日,夫の病気との戦いだったんですけれど,やっぱり知識がなかった。病気に対する知識がないので,道徳とか人間性を病人に求めてしまう。でも相手はアルコール依存症という頭のおかしくなる病気なので,そこでどんなに倫理を説いてもダメなんですね。だから,病人は医者しか診ちゃいけない。家族は診ちゃいけないんです。家族の愛情では病気は治らないんです(p61)
 私も「夫は明らかに病気だから今捨てちゃいけない」と思ったんですね。大間違いでした。病気のときこそ捨てなきゃいけなかった。家族は後方支援しかしちゃいけないということを知らなかった。(p62)
 ヒマだと人のことを憎んだり腹立ったりしてくるんですね。動いて働いて稼いでいると自分の中のエンジンがどんどん回転して,エネルギーが湧いて明るくなっていくんですよ。(p70)
 働いていれば自炊なんかしなくても済みますからね。アジア人みんな外食ですよ。(中略)手作りとか全然しなくていいんです。日本の女の人だけが手作り信仰に囚われている。(p72)
 家族が仲良くすることを考えたら,自分は外で働いて,家事は絶対にプロに任せたほうがいい。月に1回でいいからプロに任せると,もう格段に家の様子がよくなりますので。(p73)
 人生はやっぱり女のほうが絶対楽しいと思うんです。(中略)家族も作れるし,ウソも上手だし,働くことも楽しいし。たとえば商店街のコロッケ屋のおばちゃんって,毎日笑いながらコロッケ揚げてるじゃないですか。それで必ず温かいほうからくれますよね。あんなふうな人になれたらいいなと思っています。(p75)
 私は不倫もわりとありで,自分の中で「洗って返せば大丈夫」っていう標語があるくらいで。(中略)ウチら漁師文化なので,そういうの気にしない。漁師ってものすごく危険なところで命がけで働いているので,よそで何しても帰ってきたら何も言わないみたいな,そういう文化なんです。(p98)
 何でもいいんでどんどん試して,いっぱい失敗してください。失敗すると覚えるの早いです。(p109)
 女性は若くてかわいいときから子供を産んで母親になって,そこからずうずうしいおばさんになっておばあさんになるまで,生きるステージがいや応なしに変わっていくから,そのステージごとに必ず面白いところがあるんですよ。その面白いところを早く見つけるのがコツですね。(p109)
 夢って「絶対これだけ!」って決めないで,その周りをふわっと薄目で見ていくと,きっと自分の居場所とお金が転がっているんじゃないかと思います。(p111)
 口だけ出してカネ出さない親戚とかに何か言われてもガン無視。(p114)
 「日本人は人のお金は盗まないけど,人の時間は平気で盗む」っていう言葉を聞いたことがあるんですけど,無益な愚痴や悪口で人の時間を盗む人は絶対仕事ができない人です。(p117)
 だいたい私は「家族は仲良くなくてよし」という人間なんで。(p123)
 自分で一生懸命考えて正しい答えが出たことって一度もないんですよ。人生とか男選びとか,必ず間違えてるのね。だから,自分で考えない癖を身につけて,とにかく外に出ていってみようと。(p125)
 大学の先生って,要するに世間で通用しなかったから学校の中にいるんですよ。ひきこもりみたいに。だから,そんなの気にしなくて大丈夫です。(p127)
 私なんか芸術もクソもなくて偽札刷ってるような感覚で絵を描いてますから。(中略)「この雑誌にはこういう感じがよろしゅうございましょう」という空気はすごく読みます。そんなときに自分の京術にこだわってたって誰も喜んでくれませんから。やっぱり商売人としてお客さまのニーズに応えるっていう。ただし,お金はちゃんと取る。優先順位はお金が上,芸術は下です。(p129)
 もうどうしようもない女の子の二面性。女の子って好きな人には天使のような顔するけど,嫌いなやつにはキツい。私もどうしていいかわからないです。(p132)
 「今ここから逃げる」と決めることがエネルギーになりました。(中略)頑張って働けばここから逃げ出せる。二度とここに帰らない。(p137)
 皆さんも小さいことは忘れてください。くだらない悩みはそのうち脂肪が全部飲み込んでくれるようになります。どんどん厚かましくなって,毎日大きく笑って太ってください。ウエストのない世界はとっても楽しいです。(p141)

2020年10月22日木曜日

2020.10.22 弘兼憲史 『俺たちの老いじたく 50代で始めて70代でわかったこと』

書名 俺たちの老いじたく 50代で始めて70代でわかったこと
著者 弘兼憲史
発行所 祥伝社
発行年月日 2019.12.10
価格(税別) 1,300円

● 20年前に刊行したもののリメイク版。まえがきと序章を読めば本書を読んだことになりそうだ。
 が,一切の外的条件から自由になれだとか,主観を強めることで客観(現実の事象)を抑え込むとか,悟りを啓いた高僧でもできないだろうと思えることが説かれる。
 間違ってはいないのだろうが,そこに至るための具体的方法論(もしあれば)も併せて提唱しないと,何も言っていないに等しいのではないか。

● あるいは,生きがいを持てば,免疫系が強まり,病気をも克服しやすくなるとかね。生きがい万能論。
 これも正しいのだと思う。今日できることは明日に延ばすな,というのと同じ程度には。つまり,誰でも知っているのだ。
 が,生きがいを持てている人はさほどに多くはない。知らないから持てないのではなくて,知っていても持てないのだ。正論を述べて終わりでは,やはり何も言っていないに等しい。要するに,何の情報も付け加えていないわけだから。

● 以下に多すぎる転載。
 自立とはなにものにも頼らず,自分の居場所を楽しめる精神の快活さのことだ。(p7)
 運命が過酷になるのは,希望を持たなくなったときあkらだろう。希望さえ抱き続ければ,人生で起こる大多数の出来事はちょっとだけ憂鬱な事柄にすぎない。(中略)現実がどうあろうとそれに左右されにですっきり立ち続けることができるかどうかだ。言い換えれば,一切の外的条件から自由になることだろう。(p7)
 二〇歳が人生に感じる豊かな可能性への予感は,五〇代にも当然あっていい。ないというなら,五〇年分の垢をため込んで身も心もズッシリ重くなっているんじゃないかと心配する。(p16)
 幸せとは何だろう。金銭も地位も客観的現実にすぎない。それを幸せと感じるのは主観だから,幸せの正体は「幸せだと感じる心」があることだろう。(p23)
 値段とか地位とか,比較され得るものから得られる幸福感は,つねに不幸感と隣合わせだ。自分より上が現れれば,途端に幸福ではなくなる。
 比較しないというのはどういうことか。他人があらゆる意味できにならないということだ。自分だけのくつろげる空気に浸っていられることだ。(p26)
 生きていくのに大切なのは,世間が押しつけてくるモノサシを蹴っ飛ばして,生きたいように生きようと思う,そんな主観の強さだろう。言い換えれば,自分の内部に自分だけのモノサシを持つ。(中略)誤解されやすい言葉だけど,「地球は自分中心に回っている」と思ってもいい。(中略)自分があるから,周りの世界があるんだということだ。世界は自分の脳内に生まれた幻影だと思っても差し支えない。(p34)
 世の中のモノサシは全部川に流してしまうのだから,慚愧にたえない過去はもう忘れていい。モノサシがなくなればそこにいるのは別の人間だ。一度死に,そして生き返ることと同じなのだ。新しい人間としてこれからを生きる。少なくともその覚悟だけは旺盛に持つ。(p35)
 気力も主観だから,主観を強めることで客観を抑え込む。(中略)楽しいことを探す姿勢,生きがいを持とうとする姿勢が,「気」の高まりとなる。(p44)
 ぼくは典型的なB型のマイペース人間だ。ゴルフのアプローチのときでも,絶対に成功するいいイメージだけを考える。(中略)ぼくのようなタイプは,失敗したときのことを不必要に考えて悩まない。たぶん重病にかかっても,「なんとかなるさ」と,見舞いに来てくれた友人と,バカ話をする口だ。こういう気持ちが最大の治療法なのだそうだ。(p50)
 生きがいを持てない人の多くは,生きがいを探す以前に,自分に自信を持てない人が多い。自分を好きになれる人なら,生きがいを探すのにそう苦労しない。(中略)自分を好きになったり,自信を持つとはどういうことか、「我を忘れる自分」を知っていることだ。(p56)
 自分が肯定できれば,他人も肯定できるようになる。(中略)他人のアラばかり探すような生き方は,自己治癒力の低下にもつながる。損じゃないか。(p58)
 髪の毛が薄くなったり少なくなるのはやむを得ない。でも腹がせり出してくるのは,それと同列に語れない。それは(中略)「自己をコントロールする能力の欠如」なのだ。(中略)気にならないというのは単なる試合放棄,自分をコントロールする気持ちの張りすらなくなってしまっているということじゃないか。(p62)
 上昇志向はポキンと折れやすい。それは生きることの本質ではないからだ。(p78)
 気後れは,「人生の土俵は二〇代から定年までの四〇年間にある」と思うからだ。その時間を無為に過ごしたという思いから来る。そして,この歳でうまくやっていけるだろうかと臆してしまう。
 でもこれは間違っている。人生の勝負は常に「今」しかない。(p85)
 今やっていることが必ずその人らしさを作っていく。「あの人は昔,銀行の支店長だったんだよ」といくら近所の子どもに言っても,フーンで終わりだ。今が漁師ならその人は漁師なのだ。(p87)
 定年までの舞台が会社なら,定年後の舞台は家庭だろう。家庭でどれだけダンディでいられるか。(中略)舞台が変わってもダンディであろうとすれば,自分のことは自分でやれる男にならなければならない。(p95)
 妻にかっこいいと思わせるしかない。(中略)むずかしいことではない。身の回りのことは自分でやればいい。それだけだろう。(p97)
 素人料理のコツは手を抜くことだ。(中略)料理は手を抜けば抜くほどオリジナルになる。(p106)
 性の不一致というが,男と女の関係は性だけではない。一緒にいることが自然で,ホッとする空気がある。それが情緒だ。情緒の不一致は性の不一致以上にたがいを引き裂く。(中略)セックスレスでもうまくいっている夫婦は,情緒が合っている、(p118)
 定年をすぎると男は気弱で小さくなる。仕事とか会社とか地位とか,二回りも三回りも自分を大きく見せていた装置がなくなって,元の姿に戻ったということだろう。(p121)
 ならば今,何をすべきか。はしゃぎたい気持ちを抑えないことだ。(中略)いい歳してバカなことをやっていると思うなら,あなたの中の「少年」はすでに窒息してしまっている。(p123)
 買うのなら,可能な範囲で一番気に入ったモノを一個だけ買い,わが子のように大切にしたい。(p130)
 モノを修理して使う感覚を忘れてしまっていないか。(中略)何回も修理しているうちに,気のきいた趣味のひとつになるはずだ。(p132)
 贅を語れる人は,粗も語れなければならない。(中略)粗とはシンプルであるがゆに,その本質を堂々と表してしまっているものだ。(p134)
 若さの力は凄いもので,見ばえで言えば,特にオシャレをしなくても,溌剌さ,初々しさは伝わってくる。後半生になるとそうはいかない。だからこそ後半生でのオシャレが必要になる。(p137)
 外面が決まっていれば,きっといい人生を送ってきたんだと無条件に納得する。(p138)
 背広を着ている男を周囲の人が見て,「この人はサラリーマンだな」と思うなら,それは仕事着にすぎない。そうではなく,何をやっているか分からないが背広が似合うと思われたい。そういう男でありたいのだ。(p139)
 ひとり遊びができることが,自立している証拠だ。(p156)
 意外なものに出会って面白いと思えるのは,そろばんが得意とか字がきれいに書けるのと同じレベルの能力だと思う。(p166)
 たとえバス停で五〇分待たされても焦ることはない。(中略)五〇分間,停留所の周辺をウロウロできるほど自由なのだと思いたい。(p168)
 なぜ彼女たち(四〇代,五〇代の女性たち)は元気がいいのか。まず,周囲との年齢差を気にしない。一〇代向けの店にもどんどん入って,彼らと同じものを頼んで嬉々としている。(中略)もうひとつ彼女たちの元気の元には,人の気持ちをあまり忖度しないというのもあるだろう。(中略)自らの行動範囲を限定しない女性たちのなりふり構わなさは,十分に男たちのテキストになる。(p169)
 どんな趣味も,テーマを絞り込んだほうが面白い。(p180)
 一生懸命時間を作って,ヨシこれで明日はゴルフだ,そうおもうからわくわくする。(中略)いつでもできるなら何も今日やらなくてもと思うはずだ。(p183)
 プロを目指すのでないかぎり,早く始めたかどうかは関係ないはずだ。(p184)
 土に触るのは気持ちがいい。「気持ち悪い」という女性もいるが,生命力が弱くなっているんじゃないか。(p186)
 人生は死ぬまで未完なのだ。明日,何が起こるかすら分からない。(中略)人生を完成させることができるのは死だけだ。死をどう考え,どう対応するか。もともと,「生き様」なんて言葉はなかった。あったのは「死に様」という言葉だけだ。それほど死に方,人生のピリオドの打ち方は重要なのだ。(中略)散らかしっぱなし,迷惑のかけっぱなしでも,腹の据わった死に様ならば,周囲は納得してくれる。タレ流しのような人生でも,去るときの清々しさが,すべてを帳消しにしてくれる。(p202)
 最終的には「死んでみせる」ことを自らの存在理由にする。(p210)
 心を支配するものが欲望やモノだけだったら,心は何の仕事もしていないことになる。心の仕事とは,心自体を楽しませることだ。(p211)