著者 百田尚樹
発行所 幻冬舎
発行年月日 2018.11.10
価格(税別) 1,800円
● 60万部を売ったベストセラー。ウィキペディアからコピペしてるとか,色々騒がれた。ウィキペディアなんてコピペされるためにあるようなものだろうけどね。
今はブログやSNSに文字が溢れかえっている。ネット以前に確立している著作権の運用をそのまま維持しようというのは,詮ないことというか,そもそものところで無理があるのではないか。
● 新たな史料の発見や新解釈はない(と思う)。索引がないのだから学術書ではない。史料の発見などなくていいのだ。
では本書は何かと問われれば,読み物だとしか答えようがない。日本史が素材なのだから,黙っていてもメリハリの利いたストーリーになる。高校の教科書だって面白いのだから。
● 西郷隆盛や幣原喜重郎への低評価には親近感を覚えた。朝日新聞批判も痛快。国民を長く騙し続けることはできない。“朝日新聞=捏造王”だと多くの人が知るところとなったのではないか。
ま,朝日新聞など,団塊の世代が死に絶えれば自然になくなるだろう。それまでもたないかもしれないが。朝日に代表されるジャーナリズムっていうのは,エリートになるだけの能力を欠いた人間が,別の登山口からエリート山に登ろうとして失敗した図,に見える。
● しかし,史実の評価や解釈については,複数のパースペクティブを持っていた方がいい。たとえば,出口治明『0から学ぶ「日本史」講義』(文藝春秋)を併せ読むといいと思う(単行本は「中世篇」まで刊行)。
● 以下に転載。
日本の歴史を語る際に避けて通れないのが,朝鮮半島との関係である。日本は二世紀から三世紀にかけて,たびたび朝鮮半島に兵を送っていることが,朝鮮の記録に残っている。(中略)四世紀半ばにも,日本はかなり積極的に朝鮮半島に兵を送っている。この派兵については『日本書紀』などにも記述がある。(中略)当時,海を越えて遠征するのは容易なことではない。戦争のリスク以前に渡航に大きなリスクがある。兵の食料の問題もある。にもかかわらず,日本(大和朝廷とは限らない)は,幾度も朝鮮半島に兵を送っている。つまり日本の国力が相当大きかったと考えられ,当時の日本にとって朝鮮半島の一部が非常に重要な地域であったとも考えられる。(p22)これに関しては,当時の日本は輸出するものがなかったので,人を輸出していたのではないかとする見解がある。つまり,これは国として派兵していたのではなくて,傭兵として朝鮮半島に輸出していたのではないかとする見解だ。
女性天皇が皇室のY染色体を持っていない男性と結婚した場合,皇室のY染色体はそこで途切れる。(p34)これは時々耳にすることだけどね。Y染色体というのが何なのか,何をしているのか,そもそも何でこんなものがあるのか,よくわかっていない。男性の染色体はX・Yというとき,XとYが半々とイメージしやすいが,そうではなくて,大半がX染色体で,Y染色体はちょびっとらしい。Y染色体が遺伝形質の器になっているかどうかにはかなり疑問がある。
先住民は虐殺され,生き残った者は過酷な奴隷労働を強いられ,一時は民族滅亡の危機に陥った。この虐殺と奴隷労働の凄まじさを物語るデータを一つ挙げると,インカの人びとは,百年の間に千六百万の人口をさずか百万まで減らされている。(p154)虐殺や過酷な奴隷労働もそのとおりだろうけれども,これだけ劇的に原住民の人口が減った第一原因は,スペイン人が持ち込んだ病原菌にある。著者がそれを知らないわけがないと思うんだよねぇ。どっちにしても,原住民には災厄だったわけだが。
日本人は昔から言葉に霊が宿ると考えていた。(中略)言葉には霊力があって,祝福を述べれば幸福が舞い降り,呪詛を述べれば不幸が襲いかかるという信仰である。とくに後者について,「あってはならないこと」や「起こってほしくないこと」は,口にしたり議論したりしてはならないという無意識の心理に縛られているのである。そうしたことを口にするのは「縁起が悪い!」と忌み嫌われるのは日常生活においてだけでなく,政治の世界においても,同様なのである。(中略)このように,「起こってほしくないこと」は「起こらない」と考えようとする「言霊主義」は,我が国においては二十一世紀の現代にも根強く残っている。(p226)
日本はせっかく奪った油田から,多くの石油を国内に輸送することができなかったのだ。(中略)インドネシアからの石油団度の物資を運ぶ輸送船が,アメリカの潜水艦によって次々と沈められるという事態となる。それでも,海軍は輸送船の護衛など一顧だにせず,聯合艦隊の誇る優秀な駆逐艦が護衛に付くことは一切なかった。(中略)戦争が輸送や生産も含めた総力戦であるという概念が完全に欠如していたのだ。(p389)
海軍と陸軍の対立もひどいものがあった。一例を挙げると,銃や弾丸の規格と仕様が違っていた。世界の軍隊でこんな例はない。似た話では,インドネシアの石油施設を多く取ったのは陸軍だったが,実は陸軍は海軍ほど石油を使わない。それなのに現地で余った石油を海軍には回さなかった。(中略)そもそも石油を確保するために始めた戦争であったにもかかわらず,完全にその目的を見失っていた。(p396)
日本の独立は,ソ連にとっては非常に都合の悪いものだった。(中略)そこでスターリンは日本のコミンテルンに「講和条約を阻止せよ」という司令を下したといわれている。これを受けて野党第一党の日本社会党と日本共産党は,講話条約に真っ向から反対した。(中略)当時,日本の講話に反対していたのは,ソ連とその衛星国家チェコスロバキアとポーランドの三国のみであった。日本と戦ったアメリカやイギリスやフランスなど世界の四十八ヵ国という圧倒的多数の国との講話を「単独講話」と言い換えるのは悪質なイメージ操作である。(p450)
多くの先進国では新聞社がテレビ局を持つこと(クロスオーナーシップという)は原則禁止されているが,当時,メディア問題に鈍感であった日本政府は禁止しなかった。それにより後に多くの弊害が生じたが,それらは改善されることなく現在に至っている。(p461)
冷戦終結後,「ベ平連」にはソ連のKGBから資金提供があったことが判明する。つまり「平和運動」という隠れ蓑を着たソ連の活動団体だったのだ。(p478)
中韓の教科書は近隣諸国に配慮するどころか,全編,反日思想に凝り固まったもので,歴史的事実を無視した記述が多く,歴史というよりもフィクションに近いものである。(p482)
バブル崩壊で失われた日本の資産は,土地・株だけで約一千四百兆円といわれている。(p489)
二十世紀で最も人を殺したのは,戦争ではなく共産主義国家による人民粛清だった。(p491)













