著者 出口治明
発行所 日本能率協会マネジメントセンター
発行年月日 2010.12.30
価格(税別) 1,500円
● 本書のPART2で,これだけは読んでおけという著者お勧めの本が紹介(書評仕立て)されている。コロナ給付金は全額を本代に充てようと思ってる。粛々と進行中なのだが,残額でこのお勧め本を買ってみようかと思う。
● 以下の本が推薦されている。今から10年前であることを頭に留めておく必要はあると思うが,ほとんどすべての本が今でも古さをまったく感じさせないままに通用すると思う。
ユルスナール(多田智満子訳)『ハドリアヌスの回想』(白水社)
長谷川町子『いじわるばあさん』(朝日新聞社)
半藤一利『昭和史』(平凡社)
野口悠紀雄『一九四〇年体制』(東洋経済新報社)
ジョン・タワー『敗北を抱きしめて』(岩波書店)
子熊英二『民主と愛国』(新曜社)
若桑みどり『クアトロ・ラガッツィ』(集英社文庫)
池尾和人『現代の金融入門』(ちくま新書)
木田元『反哲学入門』(新潮社)
滝田洋一『通貨を読む』(日本経済新聞社)
藻谷浩介『デフレの正体』(角川書店)
池谷裕二『単純な脳,複雑な「私」』(朝日出版社)
吉田直紀『宇宙一三七億年解読』(東京大学出版会)
小坂井敏晶『責任という虚構』(東京大学出版会)
ローレンツ『ソロモンの指輪』(早川書房)
● 以下に多すぎる転載。
世界中でこれだけ多くの日本人がカツヤクしているのに,国内の状況はいまだに鎖国中ではないかと思うほどです。その大きな理由は,他人の意見をうのみにしやすいこと,自分の頭で考えないことではないかと私は考えています。日本ほど「社会常識」が幅を利かしている国も少ないでしょう。多くの数字や事実から論理的に積み上げた考えではなく,「みんなの常識的にはこうだ」という発想です。(p8)
社会常識も業界常識も,所詮は誰かが言いだしたことで,現実をありのままに写しているとはかぎりません。(中略)それは一種の気分のようなものです。(p29)
ちなみに,私は品格のない人とは「品格」という言葉を平気で使う人だと思っています。(p32)
私がもっとも無意味に思うのは,個人的な好みや嗜好がいつの間にか判断基準になっている場合です。好みは人それぞれですから,いくら議論しても平行線になります。(p32)
もしトップが個人的な好みを押しつけたら,スタッフはそのうちに自分の頭で考えることをやめてしまうでしょう。常にトップの顔色をうかがっていれば高い評価が得られます。そのほうが,市場の反応を検討するより楽チンです。こうして仕事は歪んでいきます。(p33)
判断力はインプットの量で決まるのです。反対にこれがなければ,「社会常識」に流されます。(p37)
当時,海外のトップか日本のトップか,どちらかになれと言われたら,私は迷わず日本のトップのほうを選んだと思います。報酬はたとえ十分の一でもはるかに楽だと思うからです。(p52)
まったく泳げない人でも,海に放り込めば必死になっていつかは泳ぎを覚えるでしょう。しかしそのやり方は,日本の悪しき精神論です。(中略)「習うより慣れろ」も間違いではありませんが,時間に余裕のある場合にかぎられます。日本が得意の精神論は結局のところ,必要なコストをかけない方法で,効率が悪くトータルで見れば無駄が多いのです。(p66)
私が知っているヨーロッパの人びとは,仕事の打ち合わせは効率的にやって,そのあとはランチや会話を楽しもう,という態度が徹底していました。ちなみに,海外ではわが国のようにディナーで宴席がセットされることはほとんどありません。夜の食事は家族や恋人などプライベートが優先されるという文化がごく自然なものとして受け入れられているのです。とてもうらやましい気がしました。(p79)
彼ら(イタリア人)はおよそ「こうあるべきだ」といった幻想をはなから抱かないところがあります。底抜けに明るくていい加減なのに,ありえない夢は追わない。みんな現実をしっかり見据えているという気がします。ハッとさせられるような独特のリアリズムがあります。(中略)ルールや法律の捉え方,自己責任の考え方が日本とはどこか違います。社会ルールはあっても,最終的に自分の身は自分で守るという意識が強いのです。(p82)
(日本人は)「一所懸命」という言葉に象徴されるように,同じ場所で頑張り続けるのが尊いとついつい思ってしまうのです。反対に周囲から逸脱した人,過去に失敗した人には落伍者のレッテルを貼りたがります。つまり,逸脱や失敗が人間を大きく成長させることに気づいていないのです。(p88)
「最近の学生は,勉強する意欲が足りない」と意識の問題に還元するのはさらに大きな誤りで,それは根性がない,死ぬ気でやれといった不毛な精神論と同じレベルです。人間は本来怠け者で,すぐに楽をしたいと考える動物です。一般には自分で勉強に意義を見出し,努力していくほど賢くはないのです。(中略)給料が高く安定した企業に就職したくてみんなが大学へ進むのなら,その対象となっている一流企業が「勉強していない学生は採用しません」と明言すれば,ほとんどの大学生は必死に勉強するはずです。これがインセンティブであり,しくみです。(p93)
よく日本では「経済一流,政治二流」と言われてきましたが,私は日本の経済が一流だと思ったことは一度もありません。政治家もひどいかも知れませんが,経済界はもっとひどい。私は一貫して,日本で一番駄目なのは経済界のリーダーだと言い続けてきました。(p97)
キッシンジャー博士が次のように言われたのです。 「世界にはいろんな人がいる。すべての人が生まれた土地と先祖のことを誇りに思っている。そういった人たちを理解するためには彼らの土地と先祖のことを知る必要がある。(中略)そこで私は若い人たちに言いたい。暇があれば歴史(彼らの先祖のこと)と地理(彼らの生まれた土地のこと)を勉強しなさい。それからできるだけ自分の足で世界を歩いてみなさい」(p100)
私がカルチャーショックをあまり受けないのは,ほとんど先入観がないからだと思います。(中略)目の前にある現実に向かって「あり得ない」「間違っている」と思っても所詮は無意味です。(p105)
旅行に限れば,語学はそれほど必要ではありません。日本国内の旅行を考えてみれば,それはすぐにわかります。(中略)東京駅の窓口で「私は京都に行きたいと思っています。往復切符を一枚売ってください」と日本語でしゃべる人はほどんどいないでしょう。「京都往復一枚」で十分なのです。(p106)
正確に言えば世界語(リンガフランカ)は英語ではなく「プアーイングリッシュ」(下手な英語)だと思います。(p108)
本はできるだけ多く読みたいと思いますが,急いで読むということはしません。(中略)通常の単行本なら一冊読むのに二~三時間といったところです。六十歳を過ぎても本を読むスピードは衰えていません。(p141)
私にとって読書は(中略)「昔の賢人との対話」です。もっと言えば「著者との対決」であり,真剣勝負だと思っています。仕事でも遊びでも,一所懸命にやらないと身につきませんし,第一面白くありません。やるからには徹底してやる。中途半端にやっても意味がないという気持ちがあります。All or nothing です。(p144)
自分でビジネス書を書いているのに,こんなことを言うのはまことに僭越ですが,私はいわゆるビジネス書の類はほとんど読みません。(p146)
本気でビジネスを成功させたいなら,人間を理解することに尽きる,と私は考えています。マーケティング手法や財務分析を勉強するのは,人間を知ったあとの話です。(中略)その意味では,歴史書や自叙伝,小説などを読むほうがはるかにビジネスに役立つと思うのです。(p147)
私が社会主義が嫌いな一番の理由ですが,計画経済や産業政策といった類のものは,すべて人間は将来をある程度見通すことができるという暗黙の前提に立っているからです。人間はそこまで賢い動物だとまるで錯覚しています。それは傲慢であり無知だと言ってよいと思います。(p154)
私は相手の年齢というものを意識したことがありません。ですから(中略)世代感覚も皆無です。(中略)私のなかにあるカテゴリー分けは,会っていて楽しい人か,そうでない人か,の二種類だけです。(p159)
ビジネスもプライベートも「楽しくて面白い」が一番の基準です。自分が元気になること,明るくなること,楽しくなること,面白いことをひたすらやればいいのです。もし何も楽しいことが見つからないときは,寝ていればいいのだと思います。(p162)
日本の経営者は現場主義という言葉が好きです。多くの経営者は「自分は現場主義で経営している」と称しています。(中略)しかしトップの頭にある経験的なファクトは,二十年も三十年も前のものがベースになっているのではないでしょうか。数十年前の実体験という土台に,最新の情報が載っている状態です。(中略)現場の社員は,経営者の妄想と,日々変化する市場状況とのあいだで板挟みになってしまいます。(p167)
映像は現地で体感することの数%にすぎません。(p169)
日本でリーダー論と言えば,人間力がどうだ,教養がどうだ,はたまた強くなくてはいけないとか,禅問答のようなことを言って煙に巻きます。そうではなく,人間は将来のことがわからないから,みんなを引っ張っていく必要がある,とシンプルに考えればいいのです。(中略)リーダーは人を引っ張っていくのが仕事だから,まず自分にやりたいことがないといけません。あそこへ行きたい,こんなことがしたい,何が食べたいという明確なビジョンがないとリーダーではありません。これが最優先です。(p172)
ローマ市内には古代遺跡や美術館もたくさんありますが,何よりもキリスト教の総本山,バチカン市国があります。ラクシーの乗客が騙されたとわかっても,韓国客がいなくなることはありません。(中略)つまり,需要と供給の関係が著しくアンバランスなのです。(中略)有名観光地はこんなものだと割り切ってしまえば,嫌な思い出も財産になります。旅に慣れるとは,そういうことです。(p178)
異質な文化に数多く触れると,カルチャーショックはあまり受けなくなります。(p190)
歴史はある意味結果論ですから,特にリーダーについては実績がすべてだと思います。どんな人物だったかを見極めるよりも,実際は何をしたかのほうがはるかに大切です。とくに近現代史はその点を冷静に見る必要があります。(p213)
池尾(和人)さんの明晰さは,金融の限界をはっきりと捉えているところにも見てとれます。金融にかぎらず,この世におよそ万能なものはありませんから,人間はごまかしごまかしやっていくしかないのです。限界がわからなければ,人は何でもできると錯覚してしまいます。(p222)
私がもっとも興味深かったのは,DNAが脳の構造を決定しているのではないということです。DNAはあくまで基礎配線にすぎなくて,脳はゆらぎの連続によってつくられていると説明されています。つまり,偶然によってつくられている。これは,人間とは何かを解く重要な鍵だと思えてなりません。(p226)

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