著者 楠木 新
発行所 中公新書
発行年月日 2018.05.25
価格(税別) 820円
● 『定年後』の続編。家族と地域を大事にしろ。子供の頃にやりたかったことを探ってみろ。若い人たちの役に立つことがイキイキの秘訣。老後の生き方の王道が説かれている。
ぼくはへそ曲がりなので,年寄りは慎んでいろと思っている。原則,若い人の役に立てるなどと思うな。生きた時代が違うのだ。
● 年寄りの社会貢献願望は社会の迷惑。役に立てるとすれば,就活シートの書き方を教えるとか,道路の花壇を整備するとか,非常に具体的な場面に限られる。それ以外は,言いたいことがあってもグッと飲みこめ。それが慎んでいるということだ。
それよりも「孤独の価値」をかみしめろ。弧に強くなれ。
● 以下に多すぎるかもしれない転載。
地域のコミュニティもかつてのような人間関係を築く場にはなっていない。(pⅲ)
定年後の方々を取材していて感じるのは,心や体が喜んでいる状態や,「いい顔」で過ごす時間が大切であって,何かを成し遂げたり,宝物を見つけるという目標達成は必ずしも必要ではないということだ。(p5)
会社に在籍していた時には不平不満ばかり述べていたのに,退職すると「会社員時代はよかった」と懐古する人が少なくない。(中略)人は何かを失うまではその存在を自覚できないので,定年後に会社やその仲間の大切さに気づくのである。(p13)
定年まで働いた普通の会社員であれば,簡単に老後破産することはない。厚生年金に加えて,会社によっては企業年金や退職金もあるからだ。(p35)
在職中は年金などのお金のことを話す人が多いが,定年後にはあまり話さなくなる。(中略)お金をもらうよりも,人が話しに来てくれた方がよほど嬉しいと思っている人が多いからだろう。そういう意味では,お金に換えられないお役立ちが定年後は意味を持つと言ってもいいだろう。(p36)
私に相談に来る若い人の中には,定年後に向けて20代,30代から準備をした方がいいのではないかと聞いてくる人もいる。しかしそれでは早すぎる。(中略)若い時には目の前の仕事に没頭した経験がある人の方が,定年後の選択肢が増えるというのが実感だ。基礎力が養われるからだろう。(p49)
自分の関心のあることを発信するとか,自分の持ち味を活かすには,周囲に仲間や他人がいるから初めて成立することであって一人では何もできない(p54)
会社員は,仕事の量が増えると単純にエネルギーを消耗して疲れると考えがちである。ところが自分に合っていることなら一晩寝れば回復する。人間はモノではないし,機械でもなく,血の通った生き物なのである。(p55)
「不特定多数の人に発信すれば,おのずと自分なりの宿題がもらえる」と勧めても,ほぼ異口同音に彼らは「もっと研鑽を積んでから」を繰り返す。(中略)何度も話を聞いて分かってきたのは,彼らが,次のステップに踏み出した未来を成功か失敗かの二元論で考えているということだ。(中略)計画を立てて進もうと思ってもその通りにはいかない。(中略)それを成功と失敗の二元論に還元するのは,一言で言うと,市場感覚がないということである。(p60)
自分のことを評論家のように語ってはいけない。(中略)やはりバッターボックスに立たなければどうにもならない。(p62)
芸名で活動してみると,本名の自分に縛られていたのだと感じることがある。勝手に自分で枠組みというか制約を課していた。50代になっても会社員としての自分という器の中に自らのすべてを押し込めるのは無理があるというのが実感だ。(p66)
私が聴講していた経営学の大学教授は,海外文献を読んでいると原文の「management」を「うまくやること」を読むとしっくりくるという。(p69)
サッカーの三浦知良選手が新聞のコラムでラスベガスで出会った荷物を運ぶホテルのポーターを紹介していたことを思い出した。単調と思われるポーターの仕事だが,その彼は,クルクル踊りながらキャリーケースをはじき飛ばし,ムーンウォークで滑り寄っては,ピピピと笛を鳴らして車を誘導する。マイケル・ジャクソンさながらだったという。(p90)
養護学校の教師だった頃から考えていた,彼ら(障害者)の大きな価値をみんなに知らせたいという思いがいろいろな活動につながっている。小島(靖子)さんの話を聞いていると,定年後は仕事だ,地域活動だ,ボランティアだ,学びだと言っているのは単なるカテゴリーにすぎなくて,本当はその根本にあるものが大事だと気づかされる。(p107)
いろいろなボランティア活動を支援している社会福祉協議会のリーダーは,「男女が一緒に地域での活動を行うと,どんな会合も女性が席捲してしまって,男性は駆逐されて来なくなる」と語っていた。健康マージャン教室などの男性向きだと思えるものでもそうだという。(p109)
「自分に力がなくて舟をいくら漕いでも進まず,結局は元の位置に戻ってしまったり,たとえ後退することがあったとしても僕は漕ぎ続ける」と話す彼の迫力に圧倒された。学生運動などはやらず青臭い議論もせずに,いつも人に優しく寄り添う彼から出た言葉に驚愕した。(p114)
日本の急速な高齢化は世界有数なので,これらの課題を解決するソフトや知恵は輸出もできる。将来の日本の基幹産業になる可能性がある。(p133)
誰もが自分の人生では主役だが,他人の人生では脇役だということだ。しかし他人の人生に対しても自分が主役であるかのように振る舞う人がいないわけではない。夫婦で言えば,夫の中にそういう人がいる。それでは妻がよほどできた人でなければうまくいかない。(p139)
周りの会社員よりも彼らの方が圧倒的に「いい顔」をしていたことに気がついた。収入や財産は少なくて,将来の生活も安定していなかったにもかかわらずだ。人の表情が輝いたり,魅力的になるのは,収入や相対的な地位とは必ずしも相関しないのだろう。(p160)
リアルに若い人や子どもたちとやり取りできる機会を持つことは大事だと感じている。(中略)若い人に何かを与えている,若い人に対して何か役立つ役割を持っている,子どもにスポーツや技能を教えていることは大事だと言えそうだ(p171)
やはり本当にものが伝わる時には人を介さないといけないのだろう。(p177)
自分が真剣に相手に重ね合わせようとすれば,その姿勢は相手にも伝わる。反応もビビッドに返ってくる。一方でうつろに叩けば,うつろにしか返ってこない。ここも大切なポイントである。(p182)
会社員として毎日出社して働くことができる人は,スティーブ・ジョブズになるのは無理だ。身もふたもないことを言えば,天性の才能がなく,飛び抜けた個性もないからこそ入社して働き続けることができるのである。(p184)
自分の能力を高めることを目指す場合には,超一流の人のレベルに触れることが大切だ。(中略)その分野の超一流の人のパフォーマンスがどのようなものなのかを理解して,今の自分がどのくらいのレベルにあって超一流の人たちとどのくらい隔たりがあるのか,そしてその隔たりを埋めるために何をしたらよいのかを具体的にイメージする(p184)
味わい深い経験は,2つ以上のスペクトルの組み合わせから生まれるという。(中略)これらの相違するレベルの情報を数多く集めることによって,表面的,二元的な見方ではなく本質を見極めることができるようになる。(中略)ある情報誌の編集者は,「このシュークリームを情報誌で取り上げてほしい」と申し出たライターに,「異なる100店以上のシュークリームを食べてきましたか?」と聞くという。(中略)量を多くこなして質に転換する活動であると言ってもよいだろう。(p189)
会社員は組織の枠組みの中に自分を埋め込みがちなので,組織内の年次,役職,経験年数などによって自分自身の位置づけを確認している。定年後においても,外部からの評価や位置づけの中で自分を確認していることが少なくないだろう。(p195)
私の乏しい経験から考えれば,相手に対して関心と好奇心を抱くことではないかと考えている。この2つを持っていれば必ず相手は応えてくれるというのが実感だ。(p200)
優秀で力量もあるのに,インプットが中心で発信系になっていないビジネスパーソンが多い。極端に言えば,自分の本心を隠すために「話している」と思える人もいる。(p201)
私を含めて組織で働く人は,自分が変わるということを安易に捉える傾向がある。「他人を変えることはできないが,自分を変えることはできる」といったたぐいのことがよく言われる。しかし考えてみると自分を変えることは至難の業である。(中略)変えることができるのは自分自身ではなくて自分と他者(家族,友人,同僚,顧客など)との関係,および自分と組織との関係なのだ。(p221)
ゼロから新たな人間関係を築いたり,今までとは違うスキルを身につけるためには,相当の時間をかけないとどうにもならないということだ。(中略)人の歩む道はいつもそれ以前とつながっていて,いきなりジャンプすることはできないのである。そんな人も,さなぎの期間を経なければ蝶にはなれない。(p222)
彼らが発することが比較的多いのは,「好きな仕事をする」ではなくて,「せっかく生まれてきたのに」というニュアンスの言葉なのである。(p223)
趣味には2種類あって,仕事を辞めるとやらなくなるものと,仕事とは関係なくても続けられるものに分けられる。(中略)前者は気分転換やストレス解消が主なので,仕事のプレッシャーがなくなると意味を持たなくなる。(p237)
会社員は,収入は定額だというライフスタイルが身についているからか,自分自身に対する新規投資や先行投資にもそれほど積極的ではない。逆に,仕事によるストレスを解消するためにお金を使うことが少なくない。(p239)
丸抱えの出張時と,自分でお金を出す旅行では,車窓の景色も異なって見える。身銭を切ったものでないと,自分の身にならない。タダで学ぶことはでいない。(p239)
芸人さんの話を聞いていると,私がいかに発信する姿勢が弱いかを反省させられたり,ギャンブラーに取材した時に,彼らが偶然や自分のツキに対処しようとしている姿を知ると,会社員がいかに今日と同じ明日がやってくることを当然に考えているかに気づくことができる。やはり個人事業主とも付き合うべきである。(p242)
専門性が高く筆力もあるのに,なかなか本の企画が通らない会社員がいた。ビジネス誌の編集長に尋ねると,読者に興味を持ってもらうといった視点が足らないので掲載できない原稿が多いという反応だった。(中略)組織で働くビジネスパーソンは,努力を積み上げて自らの能力を上げれば自動的に相手が関心を持ってくれると思いがちである。(中略)相手がどのように受け止めてくれるかが先である。(p243)
自分を変えようとするよりも,ありのままの自分をどこに持っていけばよいのかを検討する方がうまくいく。(中略)自分の力量を向上させることに注力する人は多い。もちろんそれも大事ではあるが,自分が役立つ場所を探すという行動にも大いに意味があるのだ。(p245)











