著者 嶋 浩一郎
発行所 祥伝社新書
発行年月日 2013.06.10
価格(税別) 780円
● 企画するとはどういうことかをわかりやすく説いている本だと思って,ぼくは読んだ。もちろん,本屋を覗くことの効用も。
自分も本屋を時間つぶしの場としているので,何というか,自分にとって都合のいいタイトルだと思ったのが,この本を手にした理由。
● 以下に多すぎる転載。
いまはネットでさまざまな情報を手に入れられる時代ですから,どんな仕事においても必要とされるのは,何かを知っている人ではなく,何かを発想できる人なのです。(p3)
発想のためには,目的をもって調べた情報ももちろん有効ですが,日常生活の中で偶然出会う,「想定外」の「無駄」な情報が役に立ったりすることも多いです。日常生活の中で,そんな想定外で無駄な情報にたくさん出会える場,それが本屋です。(p3)
実際に私も本屋さんをやっていて気づいたのは,AKB48のセンターを誰が取るかでAKBのイメージががガラッと変わるように,数冊本を入れ替えただけで書棚のイメージはまったく変わることです。(p21)
堀部(篤史 恵文社一条店長)さんがいつもおっしゃっているのは,一人のマニアが書棚をつくると,敷居が高くなってしまい,お客さんから見たらバリアのある棚になってしまうということです。そこで,恵文社には棚担当が明確に決まっているわけではなくて,一つの棚を複数の人がいじっていくということをやっているそうです。(p26)
カルチャー本だけとか,おしゃれな雑貨に関する本だけを売るというような本屋は意外とつくりやすい。(p29)
本屋というのは,整理整頓や在庫管理の観点から見ると,新書は新書,文庫は文庫で,あるいは著者ごとなどというように管理しやすい形で並べたくなる。それは自分で本屋をやってみて痛感したことで,やはり,一冊一冊の本に対して,この本は在庫がどこにあるかということがわからないような棚の並べ方はすごく負担が大きいのです。(p29)
いい本屋さんの条件として大きなものは,「いいお客さん」の存在です。いい本屋さんにはいいお客さんがいて,いいお客さんに売るためにいい本がそろっている。そういうサイクルができあがっています。(p32)
書棚には人間の携わるすべてのものがあるといっても過言ではありません。(中略)本屋というのは,この広い世界全体がタンジブルになっている場所なのです。(p36)
リアルな本屋があるべきいちばんの理由は,「人間はすべての欲望を言語化できていない」ということが根本的なところにあります。(中略)私は言語化できる人の欲望は限られていると考えています。そして,その言語化できている割合は思いのほか低くて,一割にも満たないのではないかと感じます。(中略)人は自分の欲望にそんなに自覚的ではない。だからこそ,そこを言語化することが仕事になるのです。(中略)そうした欲望の言語化,もっといえば欲望の発見という機能が,リアル書店最大の強みであり,必要な理由なのです。(p42)
私がいう「いい本屋」というのは,簡単にいえば,買うつもりのなかった本を買わされてしまうようなところです。(p45)
よくつくられた書棚というのは,大量の情報をシャワーのように浴びられる情報発信装置なのです。書店の本棚は情報のフォーマットとして考えると,かなり効率のいいもので,かつ本屋の数だけバリエーションがあります。(p51)
本屋さんの役割で,もう一つ大きいのは,自分の興味が世の中全体の中で,どこにポジショニングしているかがわかるということです。(p52)
ネットには確証バイアスがあるので,ある意味,何の証拠でも見つかってしまうわけです。(p54)
もしかしたら社会の中では壮大な「無駄な研究」が大量になされているのかもしれません。そのうちのいくつかが,インターネットであったりGPS衛星であったり,iPS細胞であったり,世の中に役立つものになる。ただ,それはたくさんの無駄があるからこそだともいえるわけです。(中略)企画などの仕事の面においても,こういう無駄なことが背景にあるほど,深みがあったり,説得力があったりするものになる。(中略)それよりも単純に無駄があったほうが生活は豊かになって,その豊かさこそがおもしろいことを生み出すのではないかと思うのです。その意味で,無駄は無駄ではない。(p61)
検索結果というのは誰が見ても同じものが出てきます。それを各人の視点で加工して企画やアイデアに昇華していくわけですが,そこに自分独自の情報を組み込めると,人と違う発想を生み出しやすい。(p62)
本を神聖なものとして,一から十まで読んでその内容を汲み尽くさなければならないという思い込みは,悪しき風習です。あるいは,せっかくお金をだして買ったのだから,全部読んで吸収しなければ損であるという「モッタイナイ」精神。これも余計なものです。こうした「モッタイナイ」精神を持っていることが,逆にもったいない。(p71)
本も映画ももっと細切れ時間にちょこちょこと見るという見方があってもいい。携帯電話でツイッターやラインを見るように,本を読んでみるのです。(p72)
いまのようなネット時代には必要なものだけを見つけ出すことがイケてることになっています。なるべく「ハズレ」の情報はひかないようにしよう,目的の情報まで最短経路でたどり着こうとしてしまう。すると,本は情報を得る手段としては非常に効率の悪いものになってしまいます。けれども,私はそうした効率一辺倒はやめたほうがよいと思います。なにがおもしろいか,なにが新しいか,なにが役に立つ情報かは,最終的には自分の眼や勘が頼りです。それを磨くには,結局のところ「どれだけ失敗したか」,すなわり「ウンコ」的なものに触れたかが必要なのです。(p73)
以前,雑誌「ブルータス」編集長の西田善太さんが「人のおすすめに頼るということは好奇心を放棄すること」だといっていました。まさにそのとおりで,「好奇心を放棄してどうするんだ? そこがいちばんおいしいところだろう」といいたい。(p76)
基本的に本は,最初に大切なことや結論が書いてあります。「はじめに」とか第1章を読めば,著者のいいたいことは大体わかります。ですから,そこだけ読んで終了でもいいのです。(p78)
併読の何がよいかというと,異なる本に書いてあることが思いがけないところで結びついたりするのです。あるいは同じひとつのものを,違う視点からみることができるようになります。(中略)無理をしてでも同時に読んでいると,一冊だけ読んでいるよりも,意外で,豊かな発見があるでしょう。(p79)
本は「読む」だけでなく,道具として「使う」ことができます。むしろ,使い倒すことができるかどうかが読むことよりも大切かもしれません。私は本のページに付箋を貼ったり,折り曲げたりは当たり前で,メモをすることもありますし,ページそのものをちぎってしまうこともしばしばです。(中略)多くの人は本が道具として持っているポテンシャルを使い切っていないのではないかと思うのです。(p82)
本を読みながら,もう少し具体的に情報を収集するうえでのテクニックとなると,(中略)基本的には「付箋を貼る」と「ノートに書き写す」の二つだけです。(中略)付箋を貼った情報は全部を生かしたいと思うかもしれませんが,そこはぐっと抑えて,一ヵ月ほどは寝かせましょう。(中略)その中からやはり面白い情報は,ノートに書き写します。この際に,それらの情報を分類したり,順番を考えたりする必要はありません。そのままひたすら書き写す。(中略)いわば情報を「放牧」しておくのです。(p85)
星たちがその引力で互いに影響を及ぼしあっているように,本棚の中の本は,となりに置いてあるものによって意味が変わってきます。だから,本棚の並び方が変われば,それはまったく違う世界になります。(p97)
企画や新しいアイデアに必要な要素を一言でいえば「想定外」と「欲望」です。そして,そのようないいアイデアを生むことができる人の特徴は「自分の世界を広げること」ができるということです。(中略)その情報自体は多くの人が知っていることであっても,それらを思いがけない組み合わせにすることのできる人です。ある日突然まったく違うもの,誰もが同じフォルダに入るとは思っていないことを結びつける能力,それが企画力です。(p102)
書店員さんたちの「自分ならこっちを選んで,売る」という欲望を見つけて,その欲望に対応する文学賞(本屋大賞)をつくったから成功した。それが「企画」の力です。単純に本屋大賞を模倣しただけの,他の「○○大賞」がヒットしないのは,それらが欲望に対応してつくられていないからです。(p115)
道草はなぜあんなにも楽しいのでしょうか。それは,結局のところ寄るところが目的地ではないからです。途中で予期しなかったものを見つけたり,拾ったりする。そのプロセス自体を純粋に楽しめるのです。(p121)
目的や答えに向かって一直線に行かず,迂回することによって思考は確実に深まります。(p121)
あちこち寄り道をしながら,無駄な情報を集めるのに,読書はもっとも適した方法のひとつです。それは,「読書とは旅である」からです。(中略)旅は人を成長させます。それは予期せぬ経験をくぐり抜けることによるものです。それと同じように,読書は違う時代,違う国,違う人物に一時なることができる,いわば究極の「旅」なのです。(p122)
知ろうと思ったことだけを知っていては自分の世界は広がりません。「知らないもの」は,知ろうとさえ思わないからです。(p126)
ソクラテスの「無知の知」が教えているように,まだまだ知らないことがあると思っている人ほど成長します。自分の世界を広げつづけること,それこそがアイデアの源泉となります。(p133)
手っ取り早くあなたが知らない世界に抜け出るためには,強制的に連れ去ってもらう方法があります。(中略)結局,必要なのは「ゆだねる」ことです。(中略)ゆだねて,新しい世界に連れて行ってもらう。(p134)
自分が都合のいいときに都合のいいフォーマットと情報が欲しいだけであって,紙もデジタルもどちらでもいいという思考です。(中略)本屋さんが好きであっても,電子書籍という黒船がやってくるとか,紙の本,ひいては出版業界は生き残っていけないとか,そういうことをいっている人たちとはちょっと考え方が合わない(p139)
マニュアルがないのに全国の店のPOPのトーン&マナーが共通している。その秘密は,紙とペンが一緒だからなんだよね。(p183)
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