著者 松浦弥太郎・伊藤まさこ
発行所 PHP
発行年月日 2014.09.05
価格(税別) 1,700円
● 松浦さんにはまだ「暮しの手帖」編集長というイメージが付いている(ように思う)。“今日もていねいに”という。
たとえば上野駅構内のANGERSは,「上質な暮らし,美しいデザイン」をテーマに,ステーショナリーや書籍などを並べている「雑貨屋」であるらしい(文具店だと思っていた)。その書籍の中に松浦さんの本や暮しの手帖社の本が,かなりの比率を占める形で並んでいる。
● 上質という言葉が似合う人だ。それを自ら発信してもいる。その松浦さんに対して,上質の女性代表が伊藤さん。これにも異を唱える人はあまりいないだろう。
● その二人が交互に具体的なブツを披露し合うのが本書の内容。以下にいくつか転載。
エルメスのハンカチは,アイロンをかけると気持ちよくシワが伸び,惚れ惚れするくらいに仕上がる。同時に心までぴしっと整えられる。この感覚が自分の日々をどんなに支えてくれているのだろうかと思う。(松浦 p20)
男を見分けたければ,指先と手がいつもきれいに手入れされているか,そして,どんな肌着を身につけているかを知れば一目瞭然だろう。いい男は,いちばん目に付くところと,いちばん見えないところの気遣いがきちんとしている。(松浦 p44)
その彼女の食事の風景に目が釘付けになった。スープとパン,グラスには多分,水。食後はひとかけらのチーズ・・・・・・そんな約しい光景だったのだが,きちんとテーブルクロスを敷き,美しく盛りつけ、まるで一流レストランにいるかのような身のこなしで食事をしていたのだ。「ひとりのときこそ,きちんとする」その姿は,気高くて美しかった。(伊藤 p47)
傘をさすのは嫌いだが,日傘をさすのは好きである。(伊藤 p55)
ものというのは人でもある。たとえば,そこにあれば,こちらを向いて,いつもにこにこと微笑んでくれる友だちのような存在とでもいおうか。(松浦 p100)
気に入るものが見つかるまでは,とりあえずこれでいいと間に合わせの買い物は決してしない。間に合わせで買ったものは,あくまでも間に合わせなので愛着も湧かないし,いつか気に入ったものが見つかったときはいらなくなるからお金の無駄遣いになる。(松浦 p120)
一枚の写真をあたかも小さな掌編を読むように見つめてみる。そうすると,いろいろなものやいろいろなことが見えてくる。そしてまた,自分の心の底にあるような記憶までもが浮かび上がってくる。(松浦 p160)
安いものばかり食べていると安い男になるぞ,と若い頃,大人におどかされた。含蓄のある言葉である。(松浦 p168)
「人は自分が見たいものしか見ない」という言葉を,風呂に浸かり,ぼんやりしながら独り言つ。(松浦 p208)
今の若い人は,経済状況が悪いなかで育ってきたから,お金を使うのを怖がるみたいだけど,お金は使わないと増えないものなんですよ。(松浦 p222)● こういうのを読むと,当然にして自分を反省することになる。食べられればいいや,着られればいいや,住めればいいや,っていう感じで長年生きてきて,この歳になってしまった。
若い頃は(20代の頃だけど)ここまでは墜ちていなかったと思う。30歳からは楽な方がいいという方向に簡単に流れてしまった。
お洒落はやせ我慢だということは,頭ではわかっている。が,その我慢をしてみようとは思わない。それがすっかり定着してしまった。
● 休日には,半分ホームレスのような恰好で街をふらついている。今の時期なら,サンダル,短パン,Tシャツだ。しかも,いたって安いやつだ。見る人が見ればすぐにわかるのだろう。ぼくには区別がつかないが。
相方が差配するので,まだ救われている部分があるかもしれない。自分ひとりになったら,ほんとに生活というものにかまわなくなりそうだ。
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