著者 小山薫堂
発行所 プレジデント社
発行年月日 2009.11.16
価格(税別) 1,429円
● 小山さんが当代のグルメの一人であることには,どなたにも異論がないと思う。しかも,高見に昇って食を語るという感じではない。
本書にもセブンイレブンや吉野家の話が出てくるけれども,旨さや食の快楽を幅広く拾える人っていう印象。
● 調理人に対する目線にも優しさが満ちている。もっとも,優しさを籠められないようなところは取りあげないだろうけどね。
食もまた,自身との関わりを通して語るしかない。したがって,食を語ることは自分を語ることになる。その面でも,本書は面白い。つまり,小山さんは魅力的な人であると思える。
● 以下に転載。
味覚を磨いてうまいものに辿り着く人生も幸せですが,それ以上に,何を食べてもうまいと思える人生のほうがもっと幸せだと思います。(p3)
ソースはフランス料理の命と言ってもいいが,ソースが主役になることはない。しかし,日本のカレーライスの主役はソース。これほど素晴らしいソース料理はない。(ポール・ボキューズ p16)
メニューを開発している時点でたとえ「100点満点の味」ができたとしても,それを実際の営業でそのまま再現することがこんなに難しいとは思わなかった。(中略)毎日同じ味をつくり上げる・・・・・・この最も単純で,最も大切なことが難しい。(p17)
食事と人生にユーモアは欠かせない。(p19)
吉野家は一人でふらりと入ってかき込むように食べるのが正しく,楽しい。さらに最近は牛丼以外のメニューもどんどんおいしくなっている。うますぎてずるいと思うくらいだ。(p20)
青春の食欲に吉野家の牛丼は欠かせない。大人になり,人間として余裕ができたときに吉野家をどう楽しめるか,あるいはどう遊べるか。人生の幅は案外こんなところで広がるのかもしれない。(p21)
レストランはおいしいだけでは感動はない。人をもてなすこともできない。心から楽しくなれるような空気感が大切なのだ。(p33)
そこそこうまくて,毎日通っても疲れない,居心地のいいワイン居酒屋。うますぎて疲れるレストランが増えている今,こういう店は貴重だ。(p44)
いつの間にか僕たちは(セブンイレブンの)店内で宴会を始めていた。飲み物とつまみは無限にある。ビールを買って飲み,レジの横でおでんを買ってつまむ。最後にはカップラーメンを食べた。こうしておよそ2時間,店員さんの身の上話なども聞きつつ,僕たちは店内で最高に楽しい時間を過ごしたのである。(p50)
帰り際,客に「あぁ,おいしかった」と言わせる店は名店だと思う。「あぁ,楽しかった」と言わせる店は完璧なる名店だと思う。(p51)
食べ手も楽しく食べるために努力しなければいけないのである。(p69)
すっかり童心にかえった僕たちに徳岡さんが出してくれたのは,究極の卵かけご飯。吉兆が特別に取り寄せている卵,特別な醤油,削りたての鰹節,そして海苔をかけて食べる。世の中にこんなご馳走があったのかと驚くほど,それは贅沢で深かった。(p78)
生きるとは,別の命を犠牲にすることであり,食べるとは,命のバトンタッチなのである。(p119)
普通,旅館の食事はいかに見栄えをよくするか,足し算の論理が働く。しかし,井雪の朝食はまさに引き算の美。余計なものがない,不足がない,野心がない。簡潔にしてキレがある。(p164)
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