2017年7月23日日曜日

2017.07.23 pha 『持たない幸福論』

書名 持たない幸福論
著者 pha
発行所 幻冬舎
発行年月日 2015.05.25
価格(税別) 1,200円

● 副題は「働きたくない,家族を作らない,お金に縛られない」。
 この本の特徴は,見切りの小気味良さに尽きる。仕事とは,人生とは,人間とは,社会とは,こんなものだという見切り。

● 理屈をいくらつないでも見切りに至る道は整わないわけだから,断層をエイヤッと飛び越える跳躍がある。決断と言い換えても同じこと。要は,その小気味良さ。
 すべてを見切った哲人の趣がある。

● phaさんと堀江貴文さんって,真逆の生き方を行っているようだけれど,背骨のあり方はとても似ているような気がする。
 この二人,会えばウマが合うんじゃないだろうか。

● 以下にいくつか転載。
 周りにいる人たちとの生活だけでそれほど違和感を覚えないのならわざわざ本を読む必要はないけれど,自分の考えていることを分かってくれる人が周りにいないようなとき,遠くにいる顔も知らない誰かが書いた文字列が自分を支えてくれることがある。(p18)
 眠りたいときに十分に眠れない生活は,なんか生き物としてちょっと間違っている気がする。(p24)
 みんな何もせずぼーっとしているのが苦手だから,何か意味のありそうなことを見つけてやって時間を潰しているだけ,ということが世の中には多い気がするのだ。(p27)
 人は体力が余っているとなんか体がウズウズしてそれを発散したくなって,何かをやらなきゃいけないような気になってしまう。結局なんでもいいから動き回って体力を消耗させて,ちょっと何かをやった気分になれればそれで満足するものだ。年をとるとだんだん体力がなくなってくるから,そんなに行動しなくてもすぐに疲れて「もういいや」って気分になる。僕は人より体力がないので,そういうのに気づくのが人より早かったというだけなんだと思う。(p29)
 人間が人生で成し遂げられることなんて,頑張っても頑張らなくてもあまり大差はない。(p32)
 「本当にやらなければいけないこと」というのは存在しなくて,ただの幻想にすぎない。人間は何かをやっていないと気が狂う生き物だから,そういうのがあると思いたいだけだ。(p35)
 物はできるだけ持たないようにしている。持っている物が多ければ多いほど,いろいろと身動きがしづらくなったり思考が狭められたりして,人生の面白さが減るような気がするからだ。(p36)
 「人間に自由意思はあるのか?」「全ての問題は決定されているのか?」というトピックが昔から激しく議論されてきたという事実から分かることが一つだけある。それは,「人間は自分に自由意思がないということに耐えられない」ということだ。(p46)
 「宇宙から見ればどうでもいい」という言葉を僕はよく思い出すようにしている。(p68)
 全てに意味がないということは,全てに意味があるのと同じことだ。意味のない全ての中から自分の好きなものに意味を持たせればいい。世界の全てはそういう主観でしかない。(p69)
 結婚とか家族とかいう仕組みは,若干今の時代に合っていないというか,少し効力が切れてきているんじゃないかということも思う。(中略)「結婚」や「家族」というパッケージはすごく多機能で包括的だ。(中略)そんなに多くの機能を「結婚」と「家族」という一つの仕組みだけで全部満たしていこうとするのは無理があるのだと思う。(p74)
 「介護保険なんかを導入すると日本の家族はお互い支え合う心を持たなくなって崩壊する」という批判も当時はあったらしい。だけど二〇〇〇年に介護保険制度が施行されたことによって家族が崩壊したかというとそんなことはなくて,むしろ「それが家族の崩壊を救った」と上野(千鶴子)さんは言っている。(p102)
 会社の仕事よりも日常生活のほうが面白い(中略)日常生活の中でやりたいことや面白いことはたくさんあるし,どっちかというとお金よりも時間のほうがやりたいことを全部やるにはたりない,だから仕事とかしている暇はない,というのが僕の実感だ。(p110)
 お金をかけずに生活を楽しむコツというのは一度身に付ければ一生残る資産だ。(中略)個人的には読書と料理が特にお勧めです。(p119)
 他人と自分を比べるということはあまり意味がないと思うのだ。僕は,自分と自分以外の人間とは,イヌとかネコとかヤギみたいに違う生き物だと思っている。(p120)
 お金をかけないことのメリットは,お金に追われないということだ。お金をたくさんかけるとどうしても資本主義のスピードに巻き込まれてしまって,お金や時間に追われてしまうようになる。(p132)
 ドワンゴという会社を創業した川上量生さんが「経営者は善人だと務まらないから,起業すると性格が悪くなる。だから起業は勧めない」とよく言っている。(p136)
 合わない人同士が近くにいてもお互いにイライラするだけで不毛だから,無理に近くにいる必要はない。最近はインターネットの世界でも,「いかに人と繋がるか」よりも「いかに苦手な人と繋がらないか」という機能が重視されつつある。(p156)
 人を集めるのに特別なスキルは必要ないし,お金をかけなくてもできる。人はみんな集まりたがっているものだから,何か集まるための口実を適当に設けてやればそれでいい。(p163)
● 読書と料理をわがものにしていれば,お金をかけないで楽しく時間を過ごせると言ってるわけだが,本書に紹介されているのは,以下のとおり。たしかに,本格的な読書家という趣あり。

 本田由紀『社会を結びなおす』(岩波ブックレット)
 カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』(ハヤカワepi文庫)
 見田宗介『宮沢賢治』(岩波現代文庫)
 岩明均『寄生獣』(講談社)
 グレッグ・イーガン『しあわせの理由』(ハヤカワ文庫)

 信田さよ子『母が重くてたまらない』(春秋社)
 上野千鶴子・信田さよ子『結婚帝国』(河出文庫)
 上野千鶴子・古市憲寿『上野先生,勝手に死なれちゃ困ります』(光文社新書)
 近藤麻理恵『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版)
 養老孟司『養老孟司の旅する脳』(小学館)

 宮本常一『生きていく民俗』(河出文庫)
 ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』(草思社文庫)
 湯浅誠『反貧困』(岩波新書)

0 件のコメント:

コメントを投稿