著者 茂木健一郎・羽生善治
発行所 徳間書店
発行年月日 2015.12.31
価格(税別) 1,000円
● 「物忘れしない脳の作り方」というのが副題。その副題も含めて,本書の名は体を表していない。
茂木的脳科学概論という趣の本。茂木さんと羽生さんの共同講演会をそのまま本にしたものらしい。読みやすい。
● 以下に転載。
私の専門の脳科学の世界では,いろいろな人が研究してみたところ,脳は1秒でも長く生きたいものだということがわかっています。(p12)
どうして,日野原先生が100歳を過ぎてもお元気かというと,脳を若々しく保つ方法を実践しているからです。それは好奇心を持つということです。(p13)
最近の研究では,運動を定期的にしている人は,認知症になりにくいことがわかりました。つまり,運動したほうが肉体だけでなく,脳も若々しくいられるということです。(p14)
脳はその人がチャレンジできるギリギリのものに挑戦している時が,楽しいのです。もともと「生きる」ということは,そういうことだと思います。楽して生きるというのは,実は生き物にとってそんなに嬉しいことではないのです。(p16)
ドーパミンをいかに前頭葉に与えるか,というのが脳の老化を予防するために,いちばん大事なことなのです。(中略)どういう時にドーパミンが出るかというと,「サプライズ」の時に出ることがわかっています。(p23)
近頃,1年の経つのが速いと感じている人は,はっきり申し上げて,ドーパミンが出ていません。どういうことかというと,脳は初めてのこと,サプライズのことを経験している時には,その時間を長く感じるという実験結果があります。つまり,それだけ起きていることを細かく見ているからです。(p26)
特に男性で,人差し指と薬指を比べて薬指が長い人は,リスクテイク,つまり,危険を承知で行動することができる人,いろいろなことに挑戦できる人だということが,科学的な研究でわかっています。これはウソだろ。ほとんどの人は薬指が長いのじゃないか。こう言って励ましてくれてるんでしょうね。
子どもの心を忘れてはいけないのです。誰もが自信のない根拠があったのですから。(中略)子どもの脳が素晴らしいのです。大人の脳は不完全な子どもの脳で,大人は不完全な子どもだとされています。(p38)
ドーパミンを出す上でのいちばんの敵は「らしさ」です。(中略)「私らしさ」というのはドーパミンからいうと敵なのです。(p40)
これからの世の中を生きていくうえで,いちばん大切な能力は学力ではないと思います。社会の中で仕事ができる人とは,毛づくろいができる人です。(中略)人との絆を深めるためにいちばんいいのは,雑談です。どうでもいいような,雑談が大事なのです。(p61)
人間は苦労して追い詰められるとUFOに乗ります。銀色の宇宙人が飛び回ります。脳は感情がものすごくつらくなると,幻を生み出すことでバランスをとろうとすることが,科学的にわかっているのです。(p74)そういう人が自分の身近にいた。それほどに追い詰められていたとは思いが及ばなかった。それが幻視であることを悟らせようとしてしまった。
その人の傍に寄り添うことをしなかった。自分を鞭打ちたくなるほどの痛恨の思いでだ。
苦労した人ほど明るくなれるというのは本当です。(p75)
だいたい自分の欠点とかダメなところを隠している人というのは,他人の欠点とかダメなところを攻撃します。それで自分を守ろうとするのです。(p88)
挑戦を邪魔するものがあるのです。それは劣等感です。(中略)人は往々にして自分の欠点とか短所を劣等感にしてしまい,それが深いところに隠れたりしています。脳科学的に言うと,個性というのは長所と短所が一体となったものなので,それを受け入れるしかないのです。(p96)
最近,脳科学では脳の個性と適性が研究されています。そして,「勉強ができる」というのは,企業の経営者としては欠点なのかもしれないという説が出てきています。(p103)
人々は結婚だとか,子どもだとか,お金だとか,なにか幸せの条件があるかと思ってしまいがちです。ところが調べてみると,そんなものはないのだということがわかります。人それぞれの幸福があるのです。もっと言えば,皆さんは今のままで完全に幸福なのです。それに気づくかどうかが大事なのです。(p113)
棋士の場合もパソコンに入っているデータベースで,1試合を1分間くらいで見ることができるようになっています。(中略)実はこのようにして簡単に見たものは,簡単に忘れてしまうのです。(羽生 p128)
そういう緊張とか,プレッシャーがかかっている状態というのは,けこういいところまで来ているということが多い(中略)プレッシャーのかかる状態に挑戦していくとか,緊張している状態に身を置くことによって,初めてその人が持っている能力とか才能とかセンスとかが,開花するということもある(羽生 p142)
私自身が感じるのは,少し疲れている時のほうが,感覚的には冴えてくるというところがあります。(羽生 p149)
大山十五世名人との対局が,強く印象に残っています。(中略)非常に印象的だったのが,大山名人はほとんど考えていないということでした。(中略)本当に考えていないのです。(中略)そういう大山先生の最後の状態というのは,もう運もなにも関係なかったという感じがするのです。(羽生 p164)
忘却力っていうか,忘れるって(ストレスマネジメントとして)けっこう大事ですよね。(羽生 p175)
私,方向音痴なんですけど,迷ってその場所に辿り着くの,好きなんですよね。(羽生 p181)
人間の伸びしろって,まだ誰も行けていない領域があるという実感をそれくらい速く持つかっていうのが,大事なカギのような気がしていて。(p189)
将棋の世界の制度って,現状維持を目指そうとすると,必ず落ちてしまうようになっているんですよ。(羽生 p199)
だいたい天才って,親は普通の人なの。(p202)
“三手の読み”というのはまず自分がこう指して,それに対して相手がこう来る,そして次に自分はこう指すという,読みの基本のプロセスでもあります。とても単純な事に聞こえますが,これがとても大切で,誤ってしまうと何百手,何千手読めたとしても無意味になってしまうのです。鍵となるのは二手目の相手が何を指してくるかという点です。(中略)この時にずれやすのが相手の立場に立って自分の価値観で判断してしまうことなのです。(羽生 p214)
どこかに正解があると思っている人生は,堅苦しい。ましてや,正解が一つだと思っていたら,息苦しい。そのような狭い世界にいては,脳が,いきいきと伸びる,その余地が失われてしまう。(p219)
羽生善治さんは,もちろん,特別な人である。しかし,それを言うならば,あなたも特別な人である。羽生さんだけが特別で,他の人は特別ではないと考えることは,結局,正解が一つしかないと考えているのに等しい。(p219)
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