2019年12月28日土曜日

2019.12.28 林 望 『家めしの王道 家庭料理はシンプルが美味しい』

書名 家めしの王道 家庭料理はシンプルが美味しい
著者 林 望
発行所 角川SSC新書
発行年月日 2014.05.24
価格(税別) 920円

● リンボウ先生のレパートリー(料理)のレシピ集なのだが,もちろんそれにとどまっているはずがない。上質な読み物。
 ちなみに,“煎り付ける”という言葉が頻出する。

● 以下にいくつか転載。
 女たちは,家事をオンナに押し付けるのはけしからぬ,などと口には言いながら,その実,男たちが厨房に入るのを,あたかも特権侵害でもあるかのように忌避してきた,というのが一面の現実ではなかったか。(p16)
 料理はあくまでも日常です。なにも特別なことをしようというのではない。私はエプロンなんかつけないし,もちろんバンダナなど頭に巻いたこともない。(中略)なんの気負いも特別の身ごしらえもなく,淡々とやるのでなくてはいけない。そのっころがけこそが,すなわち「家めしの王道」にほかならぬ。(p19)
 特殊の高級包丁を買うのでなくて,ただしい包丁の研ぎ方をマスターして,普通の包丁を大事に遣い続ける,その心がけが肝心だ。それには研究と練習,そして実践と手順を踏んでいかなくてはならぬ。(p22)
 考えずに作った料理は,どうも薄っぺらい味になる。なんだって,そうではないか。生活百般,すべて考え考え遂行する,それでなくて,どんなわざだって上達はおぼつかないのだ。(p22)
 私の料理の骨法の一つに,「味をつけすぎない」ということがある。(p28)
 料理というものは,手をかけたからとて必ずしも美味しくできるというものではなく,むしろ,いかにしてその素材自体の旨味を引き出してやるか,というところに極意があるように思う。(p35)
 なにごともアイディア,固定観念に囚われずに発明する心,それが美味しい一皿を作る。(p42)
 野菜というものは,とかく干すと味がよくなるものなのだ。(中略)なにしろ,野菜というものは大半が水である。(p43)
 味があるようでない,ないようである,そういう素材の取り扱いこそ,わが日本民族得意中の得意なるものだ,というふうに思われる。(p117)
 この冷めるときに味が染み込んでいくので,すぐに食べたいのは山々ながら,それは我慢せよ。(p121)
 人参の葉は,クセが強くて,そのまま食べるとばかに繊維がこわいし,また匂いもかなり強いので,サラダなどで食べても美味しいとは思えない。(中略)ただ一つの例外が天ぷらで,人参の葉の天ぷらは,すべての野菜天ぷらのなかでも白眉と言って良いくらいの美味しさである。(p155)
 その美味しさのなかには,最初に前歯で噛んだときの,サクッとした「音」も含まれる。衣のなかに塩を加えて味をつけてしまうのは,ひとえにこの「サクッ,パリッ」を楽しみたいがためで,これを天つゆにつけてしまっては,楽しみの九〇%が失われてしまうというものだ。(p156)
 鍋の中身は,好き好きでなんでもいい。ただ色々な色味のものをバランスよく配合するということが肝心である。(中略)カラフルに作るということが,結局栄養のバランスもよくする所以であることに留意したい。(p174)
 味覚というのは不思議なもので,「慣れ」という要素が,非常に大きい。(中略)かくして甘味も塩気も,ごく控えめな生活に慣れていると,塩や砂糖など打ちつけな味の背後にとかく隠れてしまいがちな「そのものの自然な風味」にとても敏感になる。(p190)
 美味しいものをじっくりと味わいつつ,食べ過ぎぬように自己抑制を働かせるというふうに行きたいものである。(p193)
 料理屋の飯は,煎じ詰めれば「非日常の食事」であって,毎日食べ続けるというものではない。(p220)
 食べる,ということは,生きるということと等価だと言ってもいいかもしれない。食べる,ということは胃袋で食べるのでなくて,脳みそで食べるのだ。(p222)

2019年12月15日日曜日

2019.12.15 阿川弘之 『食味風々録』

書名 食味風々録
著者 阿川弘之
発行所 新潮社
発行年月日 2001.01.20
価格(税別) 1,700円

● 格調高い日本語を読みたければ,まずはこれを読んでみろ,と。旧仮名遣いだからではない。話材が格調高いのでもない。なぜだかわからぬが,ともかく格調高い日本語を読みたいなら,本書は格好のもの。
 とはいっても,貧乏育ちではこの文章をものすることはできなかったかもしれない。

● 以下にいくつか転載。
 あの気どつたお作法の少なくとも半分は,私の場合,嘘である。齢とつて臭覚が怪しくなつてゐるのに,葡萄酒の香気の佳し悪しをきちんと言へるわけが無い。(p9)
 稀代の食ひしん坊の邱永漢さんが,ふつくら炊き上げた日本の米の白いめし,あれはあれだけで立派な料理,他にちよつと類例の無い美味だと,昔何かにかいてゐた。(p11)
 美味に関心の深い作家と,比較的無関心な作家とは,文章を見れば分る。(p23)
 ビール会社の中堅社員が,ある時,その人の立場として言ひにくい話を聞かせてくれた。「私たちでも,ブラインドで飲まされたら,アサヒだかサッポロだか,当てられやしないんです。(中略)気をつけるべき点は,銘柄や工場名ではなくて,どのくらゐ新鮮か,出荷した日附の方ですよ」(p39)
 梅原さんのフランス行は九十歳になつても続いてゐたが,鰻好きの画伯,向ふではどうしてをられたのだらう。(p58)
 いつか辻静雄さんと,大西洋航路の船で出す料理の話になって,「旨いわkがない」と言はれたことがある。「ル・アーヴルなりサザンプトンなりで一旦乗船してしまへば,あとはニューヨークへ着くまで四日間か五日間,何百人もの客が一日三度ずつ,必ずその食堂へ食ひに来てくれるんですから,レストラン稼業としたら実に楽な商売で,ほんたうに手の込んだ旨いものなんか出すはずないんですよ」(p61)
 アメリカ人が快適と感ずることの一つに,「ヨーロッパ人にかしづかれて日常の用を足す」といふのがあって,これは加州大学の社会深層心理学の講義で実証済みだそうだ。(p65)
 京都の古い料亭の女将が,中華料理店の若いマネージャーを戒めた言葉がある。「鈴木さん,よう覚えときなはれや。屏風と食べ物屋は拡げたら倒れるえ」(p87)
 控へた方がいいワイン講釈の一つに,古酒礼讃がある。(p105)
 日本の陸軍は,武士道重視,痩我慢讃美の精神主義で,兵食士官食とも粗食をよしとする傾向があつた。(p111)
 泥水が兵士の飲料水で草がレイションだといふのは,補給が駄目になっている証拠だろ。補給が一切とまつているのに,日本人は未だ戦ふのか。そんなひどい状況を,批判しないで何故感謝するのか。(p112)
 魯山人はトゥール・ダルジャン名物鴨の丸焼きを,味つけせずに持つて来いと命じ,持参のわさび醤油で食つてみせて,支配人とシェフに大変興味を示されたといふ。(p133)
 鯛でも蛸でも,ほんたうに佳いものなら,色はむしろ白っぽいはずである。(p150)
 作家の作品のどこかに備はってゐなくてはならぬ美しいものは,「忙しい世の常とはちがふ,放心とか,遊びとか,いくらかのムダのやうに考へられる所」から生れて来るといふ趣旨の述懐も(瀧井孝作に)ある。(p160)
 急潮渦巻く瀬戸内の鯛も同じだが,激流できたへられた天然の鮎は,確かに面つきがきつい。(p162)
 追憶の中の美しい人たちが,真実若く美しかったのはほんの束の間,その後約六十年の歳月は,実に驚くべき早さで流れ去つた。(p257)
 「美味にありつく最も確実な方法は,そのために万金を惜しまないことである」単刀直入,世間への遠慮一切抜き,人に反感を持たれさうな発言だが,反感を持つても持たなくても,これは真実である。(p271)
 食べたくない時に食べたくない物を供されたら,言を左右にして食べないこと。これは頑固に守らないと,あとの食事が不味くなり,食事に費やす金が無駄金になる。(p272)

2019年12月8日日曜日

2019.12.08 伊藤まさこ 『台所のニホヘト』

書名 台所のニホヘト
著者 伊藤まさこ
発行所 新潮社
発行年月日 2013.01.30
価格(税別) 1,500円

● 勤労女子,特に子育て中の勤労女子は,間違ってもこの水準を狙ってはいけない。ストレスまみれになるだろう。それ以上に失うものが多すぎる結果になるだろう。
 冷凍食品を使うことに罪悪感のカケラも抱いてはならない。抱いてないだろうけど。

● 以下にいくつか転載。
 何年か前だったら,肉とパンとチーズと赤ワインが何日続こうとも全然へっちゃらだったのに,ここ二,三年の間に私の中野欧米人気質がすっかりなりをひそめてしまいました。(p51)
 どんなに熱くてもがまんして握った方が断然おいしい。けっして,冷めたごはんを握らぬように。(p54)
 電子レンジを持っていないので,クッキングシートに包んで凍らせたごはんは蒸籠で蒸して解凍します。(p55)
 どのカレーも最世に玉ねぎをじっくり炒めますが,ここをおざなりにしてしまうと,でき上がりが雑で味気ないものになってしまうので要注意。あとはスパイスと仲良くなること,できあがったら鍋底を水につけるなどしていったん冷ますこと。冷めるときにぐぐっと味がしみこんでおいしくなりますからね。(p57)
 私の鍋はネギと鴨,白菜と豚バラ,芹ときりたんぽなど,入れる具は二種類くらいととても少なめ。その方が鍋の中の素材とがっちり向き合えるような気がするからです。(p89)

2019.12.08 山本一力 『旅の作法,人生の極意』

書名 旅の作法,人生の極意
著者 山本一力
発行所 PHP
発行年月日 2019.10.04
価格(税別) 1,500円

● アメリカが好きで,車(レンタカー)で回る旅。アメリカを車で走るってのは,ぼくからすると,神。
 文章で読んで面白いのは,人との邂逅,人と人が織りなす綾,ですかねぇ。そういうものをどれだけ引っ張って来れるかですか,旅を書くのならね。

● 以下にいくつか転載。
 その地を踏みしめてこそ,実感できることは山ほどある。旅に費やす時間をカネを惜しむのは,生きることを惜しむに等しい。(p15)
 朝食はバフェ(ビュッフェ)のみというホテルが多くなってきたのは,なんとも惜しい。哀しい。苦手ゆえ,そんなときは宿を出て町の喫茶店に向かう。(p75)
 添乗員の本分は,元気に出発したお客様を,元気なままで出発地まで連れて帰ることだ。(p103)
 カミさんと私の旅が豊かだったのは,旅先で常にレンタカーが利用できたからだ。(p251)
 その個人差こそが,じつは人生の醍醐味だと確信する。だれもが同じことにしか感動も感銘も受けないとしたら・・・・・・。(p253)

2019年12月2日月曜日

2019.12.02 川上典李子・中本徳豊 『SHISEIDO PARLOUR』

書名 SHISEIDO PARLOUR
著者 川上典李子
   中本徳豊
発行所 求龍堂
発行年月日 2002.11.06
価格(税別) 1,800円

● 本書は2002年の発行。2001年のリニューアルを受けてのものかと思われる。
 銀座に資生堂パーラーなるレストランがあるというのを知ったのは,池波正太郎さんのエッセイでだったか,山口瞳さんのそれだったか。今に至るまで足を踏み入れたことはない。ぼくのような下賤な者が行っていいところではない。

● でも,伊勢海老とアワビのカレーを肴にして赤ワインを飲んでみたい。妙齢のお嬢さんとそういうことをしてみたい。ワインを飲みきる頃にはカレーはすっかり冷めてしまっているだろう。
 こういう頓馬な客でも,資生堂パーラーは受け容れてくれるんだろうか。

● 以下にいくつか転載。
 資生堂パーラーにはマニュアルはない。マニュアルをつくるということは枠を定めてしまうこと。それぞれの「役者」が,自分の個性でふるまう舞台には,枠があってはならなからだ。(p47)
 絶妙のタイミングは状況を察知した人間が作りださなければならないから,と,ウエイターやウエイトレスは「背中にも目を持ちなさい」と言われている。(p62)
 いい加減にして手を抜くんじゃあない。(p63)
 色彩の美しさは味のバランス。(p73)

2019年12月1日日曜日

2019.12.01 和田秀樹 『引きずらないコツ』

書名 引きずらないコツ
著者 和田秀樹
発行所 青春新書プレイブックス
発行年月日 2016.06.01
価格(税別) 920円

● 本書で説かれているのはたった1つ。硬直的になるな,ということだ。
 必ずオルタナティヴがある。方法論を変えてみよ。これしかないと思うときこそ,それを試みてみよ。そういうことが説かれている。

2019年11月30日土曜日

2019.11.30 帯津良一 『いつでも死ねる』

書名 いつでも死ねる
著者 帯津良一
発行所 徳間書店
発行年月日 2017.07.25
価格(税別) 1,000円

● 諦めてはいけないけれども,諦めないことにシャカリキになってもいけない。著者が言いたいことはそういうことのように思われる。
 もうひとつは,ときめきを失うなということ。ときめくことができる対象を失うな。男性にとっては女性がそれにあたるんだけども,女性にとっては?

● 以下に転載。
 粋に生きるというのは自分自身の生命エネルギーを高めることです。粋な人は,いつも生き生きとしています。(p5)
 常識にとらわれていては粋には生きられません。(p5)
 そういう医者の態度の根っ子にあるのは,エリート意識です。エリート意識というのは,人間を堕落させる大きな要因になっていると,私は感じています。(p32)
 この方法で,「私も治った」という人が続出すればすごいことになります。まさしく,がんの特効治療です。そころが,そんなことにはなりませんでした。最初にやった女性のように劇的な回復を見せた人はひとりもいなかったのです。(p56)
 五年生存率が三〇%だと言われて落ち込んでいる患者さんがいました。(中略)しかし,落ち込んだままだと,免疫力が低下して,間違いなく治らないほうの七〇%に入ってしまいます。ここは大きな分かれ道でもあります。(p62)
 では,あきらめなければいまくいくのかというと,そうでもないところが人間のこころとからだの複雑さです。(中略)あきらめない気持ちは大切ですが,その気持だけではいい結果を引き寄せることはできません。(p65)
 今日を最後の日と考えて生きようというのは,最初は患者さんのために始めたことです。しかし,長く続けてみると,これこそ,自らの生命エネルギーを高める最高の養生ではないかと,最近は思えてきました。(p96)
 いざというときのために貯めたお金は,ほどんどの場合,使われないまま残ってしまうものだそうです。いざということが起こっても,まだ先にもっと大きな“いざ”がくるかもしれないと思うと,貯金をおろせなくなってしまうのです。(p98)
 定年まで働き,退職金をもらって,経済的に問題のない中でのんびり暮らすというのは,私の性分には合っていません。不安定で浮いたり沈んだりがあるからこそ,その後の楽しみが二倍,三倍になって戻ってくるのです。(p103)
 体力が低下したり,からだが老化することを嫌がって,アンチエイジングに夢中になっている人もいますが,私に言わせれば,せっかく実がおいしく熟しているのに,それを青い未完熟なものに戻そうとしているようなものです。(p106)
 老化や病気や死を怖れ,おどおどしながら一〇年長生きするよりも,老化も病気もまるごと飲み込んで勢いよくあの世に飛び込んでいく。そんな覚悟をもって生きたほうが,充実した人生を送れるのではないでしょうか。(p108)
 死は怖いということを受け入れ,その気持ちをごまかさずに,落ち込むときには落ち込み,本を読んだり,人の話を聞いて,何とかそこから這い上がろうとうする。そういう過程の中で,ぱっと何かが吹っ切れることがあります。(p114)
 ときめきが多ければ多いほど,人は元気でいられます。(p119)
 人の魅力というのは,男でも女でも,内に志を秘めているかどうかです。(中略)大事なのは,遠くに思いを馳せることです。特に,死後の世界というのは,ある年齢にならないと意識ができません。死後の世界があるかどうかはどうでもいいのです。私が言いたいのは,それくらいの遠い先を見ながら,今を精いっぱい生きるくらいのスケールが大事だということです。それが,志につながります。(p125)
 どっちみち,人は必ず死にます。ですから,死ぬとか死なないということにとらわれないで,死ぬまでに何をするかに意識が移ったとき,そこにときめきが生じるのです。(p144)
 彼の代名詞でもある『養生訓』を書き上げたのは,八〇歳を過ぎてからです。彼もきっと,書くことにときめきを覚えていたのだろうと思います。(p144)
 都会という俗なる世界で,さまざまな欲望に振り回されそうになりながら,ぎりぎりのところでブレーキをかけ,これではいけないと,また聖なる志に向けてがんばるのは,最高の修行です。田舎で花鳥風月を愛でるのは死んだあとでいいと,私は思っています。(p153)
 いい映画は,例外なくラストシーンがすばらしい。それが私の持論です。ラストシーンをいかに光り輝かせるか。順風満帆,平穏無事に生きる主人公では面白くも何ともありません。(p155)
 法外な治療費がかかったり,危険が伴うようだったらやめたほうがいいし,「この治療法で絶対治る!」と断言するような治療家なら考えたほうがいいとアドバイスします。そして,それでも迷うようなら治療家の人相を見て判断しなさいと言っています。(p161)
 私が見る限り,すてきに年を重ねている人は,食べたいだけ食べ,飲みたいだけ飲んでいます。(p167)
 野垂れ死にを怖がらず,死ぬまで動き回りましょう。人間,何歳になっても,いくらでも可能性があります。やりたいことがあれば,年齢に関係なく行動すればいいのです。理想を追って,倒れるまで進み続ける。そんな中で,やっと自分がこの世に生を受けた意味がわかってくるのです。(p171)
 私は死が終着点ではないと考えています。(中略)帯津良一という私は死んでも,私のいのちは永遠に生き続けます。いのちという視点で見れば,日々を一生懸命に生きることがいのちを育て,それは私自身の成長につながります。(p185)
 相手を思い遣る気持ちが強ければ,セロトニンのような脳内物質の分泌が高まり,あるいは昆虫でいわれる,相手を魅きつけるフェロモンのような物質も出てくるのではないでしょうか。だから人は,恋うる気持ちはいつも大切なのです。(p191)

2019.11.30 出口治明 『0から学ぶ「日本史講義」古代篇』

書名 0から学ぶ「日本史講義」古代篇
著者 出口治明
発行所 文藝春秋
発行年月日 2018.02.25
価格(税別) 1,400円

● 先に中世篇を読んでからの古代篇。著者は日本史では中世が最も面白いと言うけれども,ぼくは中世篇より古代篇の方が面白かった。
 “日本”を整えたのは持統天皇と藤原不比等であること。整えさせた理由は唐との関係にあること。「腹落ち」した。大化の改新,壬申の乱,という言葉でぼくらは習ったけれども,それがなぜ起きたのか理解しかねるところがあった。その疑問も氷解した。
 さらに白村江の戦。当時の日本列島に住む人は500万人。でもって3万とも4万とも言われる艦隊(?)を派遣して木っ端微塵にされる。何という愚策。なぜそんなことをする必要があったのか。それはまだ腹落ちまではしていないんだけども,なるほどそういうことだったのね,というところまでは了解した。
 というわけで,面白かった。古代史,中世史より面白いんじゃないですか。

● 以下に転載。
 人間が歴史を学ぶ意味は,人間はどうしようもない愚かな動物で,同じ失敗を繰り返しているからです。積み重ねられた歴史を学んで初めて,僕らは立派な時代をつくることができる。歴史に対するこのスタンスは,本書でも変わりません。(p8)
 今の鳥類は実は恐竜の子孫です。恐竜は鳥類に進化して現代に生き残っているのです。(p18)
 十億年後には太陽が膨張し始めて地表の温度が上がり,地球上の水がすべて蒸発することで,生命は死滅します。生みから始まった生命は,水がなくなれば消滅せざるをえません。(p19)
 仏教には,様々なものが付随してきます。教えを目に見えるかたちにして,文字の読めないような人にも説明(見える化)するために,仏像やお寺,お経,法具,お香など一連の装置が必要なのです。(p60)
 実のところ,解明的なポジションの方が,経済が成長します。廃仏では今のままですから,仕事も増えないし,成長のチャンスもありません。(p61)
 中国でも日本でも有能な女帝と切れ者官僚がペアで政治を動かしていたのが,この時代だったのです。持統天皇は,史書に「深沈で大度」と人間としてのスケールの大きさや深謀遠慮振りを最大級の讃辞をもって語られています。まさに「日本」という国を生み落とした国母にふさわしい形容です。(p99)
 日本はかなり背伸びをしましたので,『日本書』しかり,藤原京や平城京,平安京しかりで,大事業を始めたものの,いずれも完成しませんでした。最後までやり遂げる能力も財力もなかったのです。(p110)
 『日本書紀』は天皇の歴史を神武天皇から始めているわけですが,はじめのほうは記述も簡単で,天皇名もかなりシンプルです。これは歴史書の常で,「古いものほど新しい」のです。(p110)
 唐の長安をモデルにした平城京では,日本人より外国人の方が多かったという話もあります。当時の日本には,インド人,中国人,ペルシャ人,イラン系のソグド人,ベトナム人,崑崙人(東南アジアの黒人),それから朝鮮半島からの多勢の移民など,外国人がたくさん入ってきていました。(p131)
 日本では,中国のような能力主義が十分には発達しませんでした。もともと古代の豪族たちの連合政権であったために,生まれがいいほど出世するシステムが組み込まれていたのです。(p149)
 平安京の造営は,桓武天皇の出自が低く,自分の権威を欲したことが動機のひとつでもありました。(p152)
 嵯峨天皇が平城太上天皇の変にビビったときに,タイミングよく空海が現れて「絶対に勝ちます。祈祷してあげまっせ」とすり寄ってきたことで,瞬く間に朝廷に取り入ります。(p160)
 数千倍ともいわれるとんでもない倍率の試験をくぐり抜けて,皇帝に直接採用された優秀な人たちですから,皇帝とは強い紐帯で結ばれ,めちゃ仕事をするわけです。(p199)
 科挙が全国規模で実施できたということは,活版印刷と製紙技術が全国に普及し,どこででも参考書が手に入ることが大前提になります。その頃の日本には紙を大量につくる技術も活版印刷の技術もありませんでした。(p200)
 昔は,平安中期というと「唐と国交が途絶え,日本的な感覚に基づく国風文化が栄えた時代」だと教えられていました。現代の歴史研究によると,この理解にはかなり問題がありそうです。(中略)この時代には,遣唐使など国の施設を派遣しなくとも,情報を集められるだけの民間交流が盛んになっていたのです。それを担ったのは海をまたいで活躍する商人(海商)たちでした。(p210)
 天皇のおキサキ方には,多くの女官が仕えていました。貴族が挨拶に伺えば,キサキのまわりには若い女官が並んでいるわけですから,貴族は女官たちに目配せをしたり,恋文を渡したりして,恋人関係になります。こういった関係から,貴族の情報が後宮に集まるのです。(中略)狭い内裏で女官群を抱えているキサキのちからが強くなるのも当然です。情報の力は,けっこう強いのです。(p217)
 貴族たちの日記は,現代の私たちが記すようなプライベートな日々の感想を記すことが目的ではありません。当時の政府がつくって官人たちに配布していたカレンダー(具注暦)の余白に儀式や年中行事,そして政務の活動記録などを覚書のように記していました。(p226)
 当時,大陸からは日本に多くの人々が流れてきていました。唐につくか,自立して戦うか。朝鮮半島の三国が,ほぼ同時に内部で争っているのを見て,日本の支配層も二つに割れました。その結果が,乙巳の変(大化の改新)だったと思うのです。(p235)
 いかに持統,不比等のグランドデザインがしっかりしていたかということです。(中略)逆に,国をもう一度作り直すほどの外からのショックが日本にはこなかった,ともいえるのですね。これはめちゃハッピーなことでもありました。どうして外国に攻め込まれることがなかったのか。それは,日本が後世の銀のような世界商品を持たない遠い島国だったからなんですね。(中略)お米や肴がとれるので生活はできるけれど,外国からはこれといって欲しいものがないので,積極的にこの地と交易しようという意欲を持たれることがなかった。(p241)
 「大国と小国では見えている世界が違う」ということです。周辺地域全体の歴史の中ではものすごく小さいポーションでも,小国にとっては大きいポーションになることがよくあるのです。(p242)
 古代の日本は同じく当時の後進国であったヨーロッパなどに比べても,内乱も少なくその規模も小さかったのですが,これは内乱をするほどの国力がなかったからだ,ともいえます。(p244)

2019年11月22日金曜日

2019.11.22 成毛 眞 『決断 会社辞めるか辞めないか』

書名 決断 会社辞めるか辞めないか
著者 成毛 眞
発行所 中公新書ラクレ
発行年月日 2019.06.10
価格(税別) 800円

● 終章は必読のこと。
 あくまで大事なのは,人間とは,いつまでも,どのような状況でも,成長できるという視座だ。それを持つことができるかどうかで,その人生が大きく変わってしまう。(p229)
 この一文をこれまでの情けない来し方と照らし合わせて,心を入れ替えるよすがにするべきである。

● 以下に転載。
 ここまで地銀が長らえてきたのは「巣ごもり」を続けてきたからだ。(中略)リスクをとらず,コストを抑えていたからに過ぎない。つまり「何もしない」という消極的なスタンスで生き残ってきたのだ。(p25)
 おそらくこれからの日本は,移民問題に国の根幹を大きく揺るがされている欧州先進国が通った道を,そのまま辿る可能性が高い(p26)
 先を考えて50歳前後で辞める決断をした人って,信用力が増すと思うんです。何も考えずに60歳を迎えて退社した人と比べると,間違いなくチャレンジ精神は健在だし,逆に仕事仲間としては信用できるんだよね。(p40)
 でも一昔前,できる人ほど家に帰らない,という状況が実際にあった。今考えると異常だけど。(p59)
 じつは,『月刊現代』が廃刊になった直接の原因は,雑誌ではなく,書籍が売れなくなったからなんです。雑誌自体は赤字でも,そのコンテンツを書籍化することで回収できた。それで成り立っていたビジネスモデルだったのに,書籍まで売れなくなってしまった。(瀬尾傑 p63)
 聞いた情報はあくまで材料の一つ,という発想がないわけだ。与えられた材料が本当かどうかを確認するのが,編集者の役割で取材なのに。それを知らないから,付加価値も付けられない。(p71)
 本業とは別に,ライフワークを持つことが重要だと,常々僕は言っています。これが意外にキャリアでの「決断」に影響しているし。瀬尾さんの場合,間違いなく酒だよね。(p72)
 とりあえず手を出す,という姿勢はこれからのビジネスマンにとって必要ですよね。(p83)
 新聞はスポンサーをとても大事にします。お前らの食い扶持はどこからでているか,と。決して読者ではない,スポンサー企業があっての日経新聞だと。(大西康之 p101)
 企業側の広報の姿勢も近年,大きく変わっているんです。昔は内部から浄化するため,わざとネガティブ情報を出す,くらいに気概のある広報室長がいましたから。(大西康之 p103)
 報道はエリートたちの目線なんだよね。たとえば彼らは,リアルな低所得者層の世界なんか,人生で一度も接したことがない。じつはそんなエリートは,首都東京でも一割ほどしか存在していないわけで,それこそ,千代田区と港区と中央区という中心3区だけに暮らしている。(中略)日経新聞のつらさでもあるよね。読者のアッパー層なら,書いている人もアッパー層。取材対象者も,広告主も全部アッパー層ですから。(p114)
 あくまで会社のなかで,のし上がっていきたいだけの人にとってはSNSは不要なんですよね。逆に,外部と遮断されていることこそステータス,というか。(中略)SNSより,狭いたばこ部屋でボソボソと行う情報交換の方が大事。それが新聞社ですから。(大西康之 p116)
 「無駄な贅沢しなければ食っていける」という真理に気付くことができるかどうか。これって人生において,かなり大きい。ほとんどのサラリーマンはそこに気付かない。だから「会社辞めたら,人生即終わり」だと感じて,追い詰められる。(p117)
 メディア論の授業で教えているのは,「じつはメディアは結構,理系の仕事だぞ」ということですね。メディアって,記事とかコンテンツのことと思いがちだけど,じつはそもそもの部分が,ハードウェアとプラットフォームから成り立っている。(柳瀬博一 p125)
 中でも過去30年を遡り,上場企業が赤字へ転落したタイミングと転落した会社の経営者の就任時期の相関グラフを作らされた作業は鮮烈に覚えています。(中略)それこそ一週間,朝から晩まで日経新聞本社の書庫にこもりっきり。ちなみにそれで得た結論として,(中略)相関関係がまったくないということがわかりました。つまり80年代より前の日本企業にはコーポレートガバナンスがなかったわけです。(中略)特集を担当した末村さんからは「大学の修論くらいだったらこれで取れるよ」と褒められましたが。(柳瀬博一 p133)
 それまでの編集現場で,お金のことを考える習慣はありませんでした。「記者が自社の商売のことを考えると筆が鈍る。だから考えるな」という文化が,とりわけ新聞記者にはあったのだと思います。(柳瀬博一 p138)
 高校を卒業するくらいまでは典型的な中二病。「俺は洋楽しか聴かないぜ」みたいな。でもそのノリでいたら,大学生になった頃,つまらない自分になっていることに気付いてしまった。洋楽を聴いても,評論家気取りだから自ら演奏はしない。でも邦楽好きな人たちはみんなで歌って演奏をしている。(柳瀬博一 p153)
 見ず知らずの有名作家の著作を全部読んだあと,手紙を出すようなタイプの編集者ではなかった。そういうエネルギーがまったくなかったし。(柳瀬博一 p162)
 自分自身のことを,決して「面白い人間」「すごい編集者」と思っていない,ということもあります。面白いことはいつも外から飛んでくる。そして僕は,飛んできた珠をとりあえず全部打つ。お声をかけてもらったら「やります」の一択。(中略)仕事を選ぶ権利を持つ人は,そのジャンルでの「天才」であることが前提。でもほとんどの人は僕も含めて「凡人」。だから「仕事を自由に選べる」というのは,そもそもどこかで勘違いした考えだと僕は思っています。(柳瀬博一 p163)
 あらゆる仕事は面白いと思えば,大抵は面白いし,つまらないと考えたら,大抵つまらない。(柳瀬博一 p164)
 10年の間,そのジャンルの人たちとしっかり付き合うことが,次の10年にも活きますしね。そのまま20年やってしまうと,付き合いも知見も広がらない。むやみに足元を深堀りしていくだけ,というか。今の時代,それは合わない。10年掘れば,十分に深い。(p171)
 そもそものところ,金融とは完全に情報産業だからね。今でこそ,みんなそういった認識になってきたけれども。(p186)
 (都民響の練習は)最高のストレス発散の場で,疲れも全部吹き飛びますから。リフレッシュ効果もあるし,オン・オフの切り替えにもなる。今ではどれほど忙しくとも,練習しない方が気持ち悪い。仕事で使っている頭の部分と,音楽で使っている頭の部分がまったく違うからでしょう。(山田俊浩 p194)
 オーケストラの雰囲気には,会社組織と通じるものがあると思います。(中略)ある程度,やるべき形が決まっているのですが,そのなかでは存分に自由。まさに会社です。(山田俊浩 p194)
 経験上,僕からいえるのは「感情的には動かない方がいい」ということだと思います。不本意な部署異動とか想定外のキャリアチェンジとか,いざそういったものを目の前にすると,その瞬間は,それが人生の「大事件」のように感じてしまう。でも後々振り返ると,まったくそんなことはない。しかも,周囲もそれほど大したことと考えていない,というのも事実なんですよね。(山田俊浩 p196)
 とにかく深刻なのは,消費者との接触ポイントが激減していることです。駅売りはほぼなくなり,本屋も減った。(中略)本当におかしな話ですが,もし各社から「明日から必要なコストを真っ当に負担してください」と言われたら,途端に立ち行かなくなる,というのが多くの出版社の実態です。だから,紙から電子へ,という出版業界の流れは,読者以外の部分で,じつは多くの方が喜んでくれていることでもあると思います。何とも皮肉ですが。(山田俊浩 p202)
 今までは大人がどんな雑誌を電車で読んでいても,それほど恥ずかしいものではなかったかもしれません。でもこれからは,「その人が何を読んでいるか」ということが,同時に「その人がどういう人か」という輪郭を掴むツールになりうる。だからこそ雑誌側も,そのブランディングを真剣に考えることが,より重要になってくるのではないかと。(山田俊浩 p204)
 目の前のコンテンツを磨き上げられているか,今一度,見直さなければならない時期にきたのかもしれません。(中略)伝わればそれでいい,などとどこかで思った瞬間,それならばもう,インターネットでいいよね,ということになってしまいますから。(山田俊浩 p205)
 市場の縮小により,新聞社も報道の論理より,経営の論理が上回るようになりつつある。つまり,読者の利益より,スポンサーにもなりうる取材先の企業の利益をあからさまに優先するような事態が生まれているのだ。(p212)
 あなたが身を置く業界や立場によっては「逃げ切れる」のかもしれない。しかし,そもそも「逃げ切れる」という発想が旧態依然としたものであることに,ここで気付いてほしい。(p228)
 雑誌やネットでは「AI時代に必要なスキルはこれだ」などと特集されている。ここで断言するが,そんな時代に通用するわかりやすいスキルなど,この世に存在しない。(p229)

2019年11月8日金曜日

2019.11.08 西原理恵子 『西原理恵子の太腕繁盛記』

書名 西原理恵子の太腕繁盛記
著者 西原理恵子
発行所 新潮社
発行年月日 2009.09.25
価格(税別) 1,100円

● 副題は「FXでガチンコ勝負!編」。宝くじを買うことを愚民税を払うというらしいが,FXは? テラ銭は宝くじとは比較にならない程に少ないのだが。
 1千万円の損を出したところで連載は終了。損得だけでモノを考える人はやっちゃいけないってことだね。いや,俺はそんなつまらない人間じゃない,と言いたい人も,まぁ手を出さない方が平和建設の第一歩になるでしょうよ。

● 以下にいくつか転載。
 FXも基本はバクチ。ユダヤ人やアラブ・マネー,中国人が暴れる,世界規模の賭場だから。投資とか資産運用とかいう言葉で,そのことをマイルドにしてごまかしたら危険だと思う。あくまで遊びのお金と割り切ってやらないと,本当に大変なことになるよね。(p20)
 不思議なのは,十万円でも百万円でも,損すると同じように悔しいこと。金額に関係なく,ドキドキする。(p38)
 基本的に青山社長って,どんなときでもポジティブ思考だよね。社長やっている人って,みんなそうかもしれない。良い意味でも悪い意味でも楽観主義。私を含めて物を書く人は,大体いつもいじけてるけど。(p39)
 賭場で一番嫌われるのが,行儀が悪いことだから。負けを人のせいにするとか。私生活がいくら行儀が悪くても関係ないけど,賭場にいるときだけは,しっかりしてなきゃダメ。(p40)
 やっぱりバクチは勝ち逃げしないと。パチンコでもどんな賭場でも,引き際が大事だから。結局,みんな勝ち逃げできない。まだいける,まだ勝てるって,気づいたら素寒貧。これがバクチの鉄則です。(p52)
 目標のないまま長くやっていると,いつかは必ず負ける。(p52)
 中国本土からバクチをしにきた人って,張り方がおかしいんですよ。一回で数十万円張るんだけど,身なりは貧相で,どう見てもそんな張り方できるような裕福な人には思えないの。たぶん,一年ぐらいあくせく働いたお金を躊躇なく張ってるんだよ。それが消えたら飛び降りちゃう。中国人は勢いだけで,確率を考えているようにも思えない。(p61)
 私も盛大に一千万円で遊んだから,楽しかったですよ。高い金出してブランド物を買う方が,もったいないと思う。(p72)
 取引の一秒後に損切りできる人が勝てる人です。「あ,ダメだ」と思ったらすぐ決済できないと。(中略)ドライで冷徹なハートの持ち主だけが勝てるんです。(森永卓郎 p76)
 毎日どれだけ無駄遣いができるか--そこに人の教養が表れると思います。(中略)お金を遣う教養がないから,ワンパターンになる。金の亡者たちの話題は,節税とインサイダー取引と合コン,この三つしかない。(森永卓郎 p82)

2019年11月4日月曜日

2019.11.04 山口由美 『昭和の品格 クラシックホテルの秘密』

書名 昭和の品格 クラシックホテルの秘密
著者 山口由美
発行所 新潮社
発行年月日 2019.03.30
価格(税別) 1,550円

● 先日泊まった東京ステーションホテルも紹介されている。自分はこのホテルのどこも見ていなかったかもしれない。今度はちゃんと味わってこよう。
 前作の『クラシックホテルの歩き方』には日光の金谷が主役格で登場する。その金谷にまだ泊まっていない。悔いを残さぬよう一度は泊まってみないと。

● 以下に転載。
 若いクラシックホテルファンは,ウェディングがきっかけであることが多い。(p7)
 クラシックホテルだって,未来永劫存続する保証はどこにもない。だが,歴史を重ね,都市や地域を象徴する存在になったクラシックホテルは,何らかの事情で経営が終わっても,また別の会社が経営を継承することが多い。(p8)
 クラシックホテルは,どの国であっても特別なものだけれど,日本の場合は,ホテルのスタイルを海外から学んだからこそ,ホテルが一般的ではなかった時代,プライドと誇りを持って,旅館ではなく,ホテルであることにこだわり続けた。その矜持が建築やデザインにあり,料理にあり,サービスにある。そして,時代を超えて,それらが継承されることにつながった。欧米のクラシックホテルと比べて,日本のクラシックホテルが,より保守的に昔ながらのスタイルを守っている理由でもある。(p8)
 日本のクラシックホテルの特徴として,内観は西洋ふうなのに,外観が日本の寺社建築を思わせる点があげられる。だが,こうした建物が建てられたのは,ほどんどが昭和初期で,たとえば富士屋ホテルや日光金谷ホテルでも,明治期に建てられたものは,白い洋館ふうの建物が多い。(p44)
 昔のままの味を忠実に伝承しているのは,実は少数派らしい。それでも日本のクラシックホテルは,海外のクラシックホテルほど大胆に料理を革新していない。(p41)
 夏になると大挙して押し寄せたのが,上海に住む外国人だった。上海航路が賑わった当時,雲仙から一番近い大都会は,鉄道を乗り継ぐ東京ではなく上海だったのだ。(p54)
 行き交う人々を見ていると,物語が立ち上がってくるような感じがあった。幾多の作家が,東京ステーションホテルに泊まり,作品を生み出した理由がわかった気がした。ここは物語が始まる場所なのだ。(p81)
 クラシックホテルの朝食というと,テーブルサービスの洋食が定番で,ブッフェを毛嫌いする人もいるけれど,東京ステーションホテルの朝食を一度体験すれば,そんな偏見は吹き飛んでしまう。(中略)この朝食だけでも,東京ステーションホテルに泊まる価値は充分にあると思う。(p81)
 東京ステーションホテルは,復元工事にあたり,六年半休業した。そのため今のスタッフは,ほとんどが再開業にあたり入社してきた人たちだ。(p81)
 都市のランドマークとなるクラシックホテルは,最高のロケーションに建っていることが多い。そこにタワーが建つことで,最高の眺望が手に入る。(p83)
 重要なのは,外国人の目線を意識したことだ。日本そのものというよりは,彼らから見た,彼らが期待する日本を表現したのである。日本だけでなく,東洋全般の意匠が見られる点も興味深い。(中略)日本のクラシックホテルは,東洋が西洋をお迎えする装置だったのである。(p113)
 全体の雰囲気もさることながら,とにかくディテールが面白い。(中略)ディテールの面白さは,知識や見識があると,なおさら面白くなる。(中略)こうした魅力を「ラグジュアリーでありアカデミック」と称したのは,東京ステーションホテル総支配人の藤崎斉さん。(p114)
 最近のラグジュアリーホテルは,客室面積の広さなど,とにかくスペックで価値がはかられる。歴史あるクラシックホテルは,その基準で判断すると,最新の外資系ホテルに負けてしまうところが多い。でも,ホテルをめぐるストーリーならば,決して負けない。(p117)
 日本のクラシックホテルの取材時,ホテルスタッフにこんなことを言われたのだ。「客室の面積は,あまり広くないかもしれないけれど,天井は高いんです。平方メートルではなく,立方メートルで量ってもらったら負けませんよ」(p118)
 広さが料金に反映する客室よりも,こうしたパブリックスペースが広いのは,経営の視点から見れば,効率的ではないかもしれない。でも,そうした一見「無駄」にみえるゆとりこそが,クラシックホテルならではの贅沢なのだ。(p119)
 朝食のオムレツは,どこでも間違いなく美味しい。しかも見た目も完璧である。そして,オムレツの美味しさ,美しさは,海外と比べて日本のクラシックホテルに断然軍配があがる。(p121)

2019年11月2日土曜日

2019.11.02 落合陽一 『超AI時代の生存戦略』

書名 超AI時代の生存戦略
著者 落合陽一
発行所 徳間書店
発行年月日 2017.03.25
価格(税別) 1,300円

● 一読して理解できたかと問われると,何とも心もとない。「時代の速度より遅い進捗は,いくらやってもゼロになる」とは目次(見出し)の一節。
 本文を全部読むより,目次だけを見て,自身の想像と連想に任せてみるのも,本書の読み方としてはアリかもしれない。

● 以下に転載。
 スマートフォンの普及による結果,人はインターネット上に第二の言論・視聴覚空間を作り,住所を持ち,SNSを生み,社会を形作った。言うなれば人はデジタル空間にもう一度生まれた。(p13)
 「AIはAIとしての仕事を,人間は人間らしいクリエイティブな仕事をすればいい」という論調が僕は嫌いだ。この論調は思考停止に過ぎず,クリエイティブという言葉であやふやに誤魔化すことで,行動の指針をぼやかす。(p25)
 ワークライフバランスは一生をいくつかのサブセットに分けて考えることが可能であるということを許容した言葉であり,常時接続性の高い現代には親和性が低い。(中略)好きなことで価値を生み出すスタイルに転換することのほうが重要だ。それは余暇をエンタメで潰すという意味でなく,ライフにおいても戦略を定め,差別化した人生価値を用いて利潤を集めていくということである。(p30)
 全世界の他のすべての人と比べて「自分らしい」というのと,あるコミュニティの中で「自分らしい」というのを比べると,後者のほうはすぐに実現可能だから,人はコミュニティに逃げ込みやすい。(p39)
 今,全世界70億人の中で自分らしくないといけない。技術は発展するし,個性は無数に存在する。そうなると,日のんではオリジナリティが高いと考えられている文化人や著名人ですら自分らしさを保つことは難しいだろう。(p40)
 ローカルとグローバルというのは,人生をそこに置く上ではその優劣を比べるものではないものだ,と考えることが重要だ。そこに差はなく,「どちらもよい」が正解である。(p41)
 これからやらないといけないことは,全員が全員,違う方向に向かってやっていくことを当たり前に思うということだ。つまり,誰も他人の道について気にかけていない,そして自分も気にしていないというマインドセットだ。今,この世界で他人と違うのは当たり前で,他人と違うことをしているから価値がある。(p45)
 競争心を持ち,勝つことを繰り返すのがレッドオーシャンだったら,ブルーオーシャンは黙々と,淡々とやることだ。(p46)
 すべての生活スタイルにおいて私たちの人間性を許容し,人間とはこうあるべきという「べき論」で語らないことが,超AI時代においては重要なことだと思う。(p51)
 趣味性を持っておかないと,「他人と違って何かをしたい」という原動力は出てきにくい。(p57)
 成果を完成物や可視化して見えるように意識したり工夫をしたりすると,仕事も生活全般もゲーム的にやりやすくなる。(p71)
 遊びにおいては,「とりあえずやってみる」ということも大事だ。(中略)何かを行動を起こす前段階としての「自分らしさ」は必要ないということだ。つまり,「他人の猿マネでもいいからやってみる」ということ。(中略)とにかく何かアクションを起こして,そこからより詳しく問題を探すほうがとっかかりがつかみやすい。(p73)
 今は難しいとされていることも,やがてすべての人々が意識せずに簡単にできるようになってしまうと予測できる。(p80)
 ひと昔前は,会社の寿命は長かった。なぜなら,技術革新が遅いスピードで進化していたからだ。イノベーションはそう簡単には起こらないし,情報の伝達形式もマスメディアが担っていたから遅かった。(p88)
 会議などで用意される「捨て資料」の文化が世の中からなくなれば,社会はずいぶんとよくなると思う。(p95)
 非合理なことと合理性のあることを比べれば,合理性のあることは機械のほうが断然得意である。けれど,合理性はなぜ生まれてくるかというと,ある問題のフレーム,もしくはゴールを設定したときに,そこまでどうやってたどり着くか,という計算できる世界があるから合理性が生まれるわけだ。(p102)
 日本は異常にクイズ番組が多いけれど,なぜクイズ番組をやってきたかというと,受験勉強がほとんど「パターン暗記」だからだ。思考力を問うと言っておきながら,思考ツールとして覚えた解法のパターンを何個まで繋げられるかというレベルの話である。(p126)
 暗記するためにノートにひたすら書いたり,何回も唱え続けたりすることはないけれど,ざっくりとフックがかかっている状態,おぼろげにリンクが付いているような状態が,これからの時代に理想的な知識の持ち方だと思う。(p127)
 スペシャリストであることは,これからの時代では大前提で,スペシャリストになるから受験勉強にも価値があるわけだ。(p132)
 重要なのは,その業界でトップレベルかということだ。資格を取るようなレッドオーシャンの分野では,トップを目指さないと意味がなくなってくる。(p134)
 そのニッチの1位を取るほうが,「一部上場企業に勤めている人」や,「弁護士資格を持っている人」と比べて生き残りやすいかもしれない。(p136)
 「無為自然な感じに生きる」というのが最もストレスを感じない。それでは,「無為自然」とは何かといえば,それは「自分が主体的だと思わない」ということだろう。(p140)
 もしあなたが仕事で溜まったストレスを違うことで発散していたとしたら,その生き方は間違っているということになる。理想的なのは,仕事で溜まったストレスが仕事の中で報われて,仕事の中でストレスから解放されるということだ。(p141)
 「体が資本だ」とはよく言われることだが,体を動かさないと脳の働きは悪くなるし,これは人間とコンピュータを比べたときのかなり大きな特徴である。(p144)
 油に絡まって,しょっぱくて,炭水化物が含まれていたら,それはうまいに決まっている。(p149)
 世の中は,化粧品をはじめコンプレックスビジネスばかりである。そういうものに流されないためにも,「何が自分のコンプレックスなのかを知っておく」ということはキーワードになってくる。そして,「隠さない」ということだ。(p152)
 20世紀は平均値社会だったので,平均値が高い個体であることがすごく重要だったのだが,私たちの平均的なことは(中略)すべてコンピュータがやるようになってくるので,むしろ,ピーク値が高い人のほうが重要になる。(p153)
 好きなものだけを集めていけば,おのずとその人らしさは表れていく。(p156)
 エリート階層の話をすると,たとえば医者だったら,東大医学部を出ている人たちの集まりだけでその業界の話が決まってしまうことがあるかもしれない。(中略)世の中,極めて少ない人数で決まっていることがすごく多(い)(p160)
 たとえば今でも,大物芸能人は都内に住まずに,わざわざ館山や鎌倉のほうに住んでいたりする。(中略)テレビ局の車が迎えに来たり個人で運転手付きだったりするので,本人にとって移動の苦痛がほとんどないからだろう。そして,おそらくこの概念は,自動運転がはじまると,より一般的になっていくと思われる。(p161)
 時代は過ぎるだけであり,長期的には適応のみが残る。(p187)

2019年10月27日日曜日

2019.10.27 出口治明 『早く正しく決める技術』

書名 早く正しく決める技術
著者 出口治明
発行所 日本実業出版社
発行年月日 2014.05.01
価格(税別) 1,400円

● 数字,ファクト,ロジックを踏まえて,自分の頭で考えること。それ以外の余計なこと(EX:あの上司の好みからすると・・・・・・)を考えない。業界の常識も余計なことのひとつ。
 その3つで決められないときは直感を信じること。決めないで先延ばしするのが最もよくない。ということが説かれている。

● 以下に転載。
 そもそも人間の意識は,その育った社会の常識を映す鏡に過ぎません。(中略)すなわち,民族の特徴などというものは,およそこの世に存在しないのです。人間は,ホモ・サピエンスという同じ種なのですから。(p13)
 「迷ったら,どちらのほうがベネフィット(便益)(がたかいかを考える」のは仕事の鉄則です。事業にとってマイナスのものを選ぶ理由は何ひとつありません。(p24)
 決断ができないと思っている人は,意思決定と,提案を通すこととの区別がついていません。(p31)
 新しいことをやって,誰からも足を引っ張られない話なんて世界中どこでも聞いたことがありません。池に石を投げ込めば,必ず波紋が生じるのです。「新しいことをやる」ことは,「既存勢力に嫌がられる」ことと同義です。(p35)
 イチかバチか賭けてみるか,という発想はビジネスでは絶対にダメです。これは「とってはいけないリスク」です。(p37)
 算数に直すこのができるものは,他の言語で表現することもできるはずです。(中略)一方,日本語でなんとなくわかったような気分になっても,よく考えられていない意見であれば,他の言語に訳すことができず,相手には通じません。(p63)
 データにあたる場合,基本的に他人の意見は無視すべきです。数字,ファクトだけを見るのです。(p69)
 数字は,それ自体ではあまり意味を持ちません。他の数字と比べることでファクトが浮かび上がり,自分のアタマで考えることができるようになります。(p71)
 たとえば「お客様の声」は,統計処理をしてはじめてファクトになります。トップが,「こんなお客様の声を直接聞いた」からということで,なんらかの意思決定をし,社員に指示を出すということはありがちですが,経営にとっては,おそらくあまりいいことではないと思います。(p76)
 どちらのロジックでより正しい解にたどりつくかは,「どちらがより多く変数を持っているか」で決まります。(中略)意見の相違のほとんどは,x(変数)の数の相違です。(p78)
 幹に問題があるのか枝葉に問題があるのかをごっちゃにしないことが大切です。幹となるロジックをしっかり組んでいれば,枝葉を修正すればいいはずですが,いつのまにか枝葉を幹のように捉えてしまい,(中略)全部やり直しをしなければいけないように感じたりしてしまうのです。(p100)
 岩盤まで掘り下げて考えたことなら自信が持てますから,意思決定は簡単です。しかし,ほとんどの人は,「一般的な社会常識と思われていること」や「過去の実績」「周囲の人の意見」といったところをベースに考えはじめてしまします。(p105)
 社会常識・社会通念は地面(地表)であって,そこからスタートするのは「ラクをしている」ということです。岩盤は地表のはるか下にあります。(p166)
 その道のプロや世慣れている人ほどスタート地点が腰高になる傾向があります。掘り下げて考えることを省略し,前提を疑わなくなるのです。一方,素人は何もわからないのでとことん調べます。掘り下げて考えるのです。(p106)
 「各部門がもっと頑張れば,昨年より10%は売上が上がるはずだ」といった「根拠なき精神論」で計画を立てているから,PDCAサイクルが回らないのです。(p112)
 物事を決めるためには,ダラダラと考えていればいいわけではありません。まずは締切りを設けることです。その日までちゃんと考えれば,たいていは結論が出ます。(p127)
 捨てるときには,捨てるべきものを探すことからはじめるのではなく,捨てる総量をまず最初に決めるべきです。(p130)
 どの職場や人間関係も世界にふたつとないものなので,一律のルールなど実はどこにも存在しません。すべてはケース・バイ・ケースです。それが,マネジメントの本質なのです。(p134)
 「忙しいのに,よく続けられますね」と言われますが,執筆する時間のルールを決めてしまえば,意外と簡単に続けられます。「時間がなくてできない」と言う人は,ルールを決めておらず,たとえば,「時間が空いたらやろう」と考えているからできないのです。(p135)
 本当に重要なことだと思ったら,言い続けなければいけません。こちらが一所懸命言っても,人は意外と聞いていないもの。(中略)もうひとつ,仕組み化が大切です。言い続けるだけでは人は動きません。「数字・ファクト・ロジック」で考える習慣をつけさせたかったら,考えざるをえない環境を作るのです。(p136)
 決めるのがリーダーだと言う人もいますが,僕はそう思いません。リーダーは方向性を示す人であって,なんでもかんでも決めるのがリーダーではありません。(p141)
 上司に「どうしましょうか?」と聞くのは,考えていない証拠です。考えす,したがって決断できないというのは,仕事をしていないということです。そういう部下がいたら,上司は決して,その部下の代わりに決めたりしてはいけません。(p143)
 ライフネット生命のマニフェストを作るときは,パートナーの岩瀬と徹底的に議論を重ね,それをプロのコピーライターの方に文章化してもらいました。自分たちで書くとどうしても感情的・主観的になってしまうと考えたからです。(p150)
 最初から完璧を目指せるほど,人間は賢くありません。時間をかけて考えればいいアイデアが出てくるわけでもありません。岩盤まで掘り下げて考えることは必要ですが,いつまでも考えていてはダメなのです。(p154)
 失敗したくなからと他社や過去の成功事例などにとらわれないようにしてください。そもそも,人のマネをしてベンチャーが勝てるはずがありません。人と違うことを考えて,実行して,失敗もするけれど,それでようやく大企業に勝てるものが見つかる可能性が生じてくるのです。(p155)
 トライアル&エラーで大切なのは,「小さく生んで,大きく育てる」ということです。(p160)
 「愚痴を言う。人を羨む。人に褒めてほしいと思う。人生を無駄に過ごしたかったらこの3つをどうぞ」という言葉を先日ツイッター上で見かけました。(p173)
 失敗するのが怖い人には,「失敗すれば多数派」という言葉を贈りたいと思います。(中略)ただし,行動しなければ絶対に成功はありません。(p174)
 フランスでは,「カップルが喧嘩をしたら星を食べに行け」と言われているそうです。ミシュランの星付きのレストランに行って食事をすれば,仲直りできるという意味です。(p179)
 ちょっとしたブレイクを入れるだけで,いつもの自分を取り戻すことができます。冷静さを失いそうになったときは,時間の助けを借りることが最もいい処方箋です。(p180)

 僕はいつも古典を読むことをすすめています。昔から現代まで多くの人に読み継がれている古典は,超一流の人が書いたものです。何事であれどうせ誰かに教えてもらうのなら,超一流の人に教えてもらったほうがいいに決まっています。(p184)
 賢くないだけでなく,人間はとても不器用な動物です。簡単なことも,人に教えてもらって,訓練してはじめてできるようになります。(中略)「考える」ということも,人から教わる必要があります。このとき,誰にでも教わればいいというわけではなく,教えるプロにおしえてもらったほうが,早く上達します。(中略)身近にそういった人がいればいいですが,いなければ本を読みましょう。(p188)

 生きがいとは何なのか。僕は「世界経済計画のサブシステム」と呼んでいます。この世界をどのようなものとして理解し,どこを変えたいと思い,自分はその中でどの部分を担うのか,ということです。(p202)

2019年10月26日土曜日

2019.10.26 出口治明 『座右の書 『貞観政要』』

書名 座右の書 『貞観政要』
著者 出口治明
発行所 KADOKAWA
発行年月日 2017.01.13
価格(税別) 1,500円

● “人間通”という言葉があった。唐の太宗はまさしくその人間通であったのだろう。本書の著者の出口治明さんも。
 リーダーだから,人の上に立つから,ということとは関係なく,上手に生きるという実利を得たいなら,本書を読んでおいて絶対に損はないと存ずる。

● 以下に転載。
 ぼくは,前職の時代から,現在に至るまで,リーダーのもっとも重要な役目は,「スタッフにとって,元気で,明るく,楽しい職場をつくること」だと考えています。(中略)元気で明るく楽しいワクワクする職場こそが,イノベーションを生み出す前提条件です。組織として生産性を上げていこうと思ったら,「元気に,明るく,楽しく」以外に解はない。それが結論です。(p6)
 どうして古典に難しさを感じるのでしょうか。それの理由は,時代背景が違うからです。僕は,古典を読む前に,その古典が書かれた時代の背景を知ることがとても大切だと思っています。(p27)
 僕は,昔の歴史を大きく動かす要因が2つあると思っています。ひとつは気候の変動,もうひとつが,それに伴う人の移動です。(p27)
 李世民は,歴史は残るという前提の中で,理想のリーダーを演じようと考えました。「演じる」というと,表面的に聞こえますが,そんなことはありません。リーダーを演じるとは,自分のポジションに対して深く自覚することです。(中略)自分の立ち位置を確認し,それに見合った振る舞いを演じ続けていれば,それはやがて,その人の本性になると思います。(p65)
 僕は,組織の強さは,資産運用と同じでポートフォリオ(人材の組み合わせ,配置)によって決まると考えています。つまり,誰に何を担当させるかを決めた段階で,その組織のパフォーマンスはほとんど決まるのです。(p85)
 僕は,「どんな組織も,上に立つ人の器以上のことはできない」と考えています。(中略)では,上に立つ人が器を大きくすれば組織は強くなるのかといえば,そうではありません。そもそも,人の器のおよその容量は決まっていて,簡単に大きくすることはできないからです。(中略)しかし,器が大きくならなくても,自分の器の容量を増やす方法はあります。それは,器の中身を捨てることです。(中略)自分の好みや価値観など,こだわっている部分をすべて消してしまうのです。(p88)
 上司は,部下の権限を代行できない。これが,権限を付与するときの基本的な考え方です。ひとたび権限を委譲したら,その権限は部下の固有のものであり,上司といえども,口を挟んではいけません。(p95)
 人間は「見たいものしか見ない」,あるいは「見たいように都合よく現実の世界を変換してしまう」という習性を持つ動物です。(中略)見たくないものを見ないのは,人間に備わった自衛の手段かもしれません。なぜなら,見たくないものを見なければ,それはなかったことと同じなので,心の平静を保つことができるからです。(p104)
 自分の職務(職能)に関係があるものとないものの範囲を正しく理解して,関係がないことは聞かない。見ない。そして,口に出さない。それが,部下を伸び伸びと働かせ,かつリーダーが心身の健康を保つ最善策です。(p106)
 リーダーの大事な仕事のひとつは,「事情がわからない中で右か左かの判断を迫られること」です。そのときのためにも,情報はたくさんあったほうがいい。だからリーダーは,相手を選ばずに人の話に耳を傾けるべきです。(p113)
 直言してくれる人間がいないと,忙しい上司は絶対にゴマすりには勝てない(p128)
 部下は,上司の表情を観察しています。上司が不機嫌な表情をしていると,部下は寄ってこないので,情報が入ってこなくなります。情報が入ってこなければ,正しい意思決定を行うことはできません。(p133)
 上司になって最初にやらなければいけないことは,たっぷり食べて,たっぷり寝ることです。(p134)
 叱る回数よりも,ほめる回数が多いほうが,間違いなく,部下は成長します。部下にとって,上司の存在が労働条件そのものであり,すべての労働条件でもあるわけですから,上司はいつも機嫌がいいほうが,組織は間違いなくうまくいくと思います。(p135)
 リーダーと特定の部下が,ヒソヒソ話を好んでいるかぎり,正しい判断を下すことはできません。(p144)
 天子は,その人格がドロドロと濁っていてはいけない。かといって,輝くほと澄んでいてもいけない。(中略)清潔すぎると,人を受け入れられなくなる。(p170)
 「人間はちょぼちょぼであり,どんな人間にも欠点がある」ということがわからない人が上に立つと,思いやりを欠き,まわりは息苦しくなってしまうばかりです。(p172)
 ほんの少し工夫をすれば,感情が振れたときに,心をフラットな状態に戻すことができます。もっとも効果的な方法は,「寝る」ことと「寝かせる」ことだと思います。寝るとは,睡眠を取ること。寝かせるとは,時間をおくことです。(p175)
 大惨事に見舞われたときなどの緊急事態では,一般にリーダーは「不眠不休で対処する」のが正しいと思われていますが,僕の考えは,まったく違います。大惨事のときこそ,むしろぐっすり寝て,しっかり食べて,体調を整えるべきです。(p176)
 何事であれ,アウトプットをするときは,メモを取ってキーワードを残すより,文章にしたほうがいいと思います。キーワードだけだと,時間が経つにつれて忘れてしまいます。文章に書き起こし,一つの文脈として覚えたほうが,記憶に残りやすいのです。日記よりブログなどが優れているのは,誰かに読まれることを想定するので,より文脈が整理されるからです。(p187)
 人と交わらずに,自分ひとりで考えたところで,正しい判断はできません。(p188)
 忙しく働かせると,部下の不平不満を助長すると思われがちですが,むしろその逆です。やることがなく暇な職員ほど,不満を口にします。(p188)
 いくら隠しても,上司の感情は,部下に筒抜けになっています。つまり,好き嫌いを隠すことに意味はない,ということです。(p199)
 僕は基本的には,どんな部下でも信頼したほうが得だと考えています。(中略)信用すれば信じてもらえるし,疑えば誰も信用してくれない,ということです。部下を信用しない上司は,部下からも信用されません。(中略)部下が自分のことを信頼してくれているから,自分も部下を信頼するのではありません。順番が逆です。(p199)
 議論の場では,たとえ相手が先輩でも気を遣ってはいけない。八方美人になってその場を丸く収めようとはしない,ということがとても大切です。(p204)
 農業のことは農民に任せ,商業のことは商人に任せ,軍のことは軍人に任せる。本当に大事なことだけを自分で決めて,それ以外のことは専門家に任せ,託し,委ねたほうが得策であると考えたのです。太宗は,「あなたたちに任せたので,いちいち自分の裁可を仰ぐな」と考えていました。(p211)
 みなすべて,人材をその時代の中から採用したのである。今の世にかぎって,才能のある人物がいないということがあろうか。(p213)
 僕は,前職時代に,一度も人事に固有名詞で要求を行ったことはありませんでした。なぜなら,固有名詞で部下を選ぶことは,組織を私物化することであり,フェアではないと思っていたからです。(p215)
 法律があまりにも複雑で不明瞭だと,役人が都合のいいように解釈してしまいます。(中略)国の法律も会社のマニフェストも,シンプルで,わかりやすく,簡単で,煩雑でないようにすべきです。(p222)

2019年10月20日日曜日

2019.10.20 出口治明 『0から学ぶ「日本史講義」中世篇』

書名 0から学ぶ「日本史講義」中世篇
著者 出口治明
発行所 文藝春秋
発行年月日 2019.06.15
価格(税別) 1,400円

● 「週刊文春」の連載をまとめたもの。これだけのものを連載してるんだから,週刊誌を侮ってはいけないんですよね。「週刊現代」には伊集院さんのエッセイが連載されているし,その昔は田辺聖子さんも「週刊文春」に長く“カモカのおっちゃん”を連載していたし,かつての「週刊新潮」には山口瞳さんの「男性自身」があった。
 この本で啓蒙されるところはまず,平清盛。鎌倉幕府は清盛が作ったグランドデザインをなぞったようなものという。宋銭を大量に輸入して日本経済をテイクオフさせた功績も。
 足利幕府では義教,義政の再評価。ぼくらが教科書で習ったのとはだいぶ違っているようだ。

● 以下に転載。
 こういうしっかりした,絶対的な体制をつくってしまったら,頼通の兄弟たちはもう争う余地がなくなるのです。お父さんが兄貴に位を譲って後見しているわけですからね。そうすると,これまで親族同士でバトルロワイヤルを行ない勝者が地位を得てきたという,藤原氏の野生のエネルギーが消えてしまう。(p18)
 中世を通じて朝廷の行政機構は整理・縮小が進みましたが,それは大国,中国を真似た律令制をわが国の身の丈に合わせていくプロセスでもありました。(p24)
 お金は大量に供給されないと,お金の意味がみんなにはわからない。そこへ,平清盛の英断によって宋銭が大量に輸入,供給され始めます。(p33)
 地方の在地の人間が武士となり,その後に京都に上ってきたのではなく,京都の有力な権門が用心棒を雇ったのが武士の始まりだ,というわけです。(中略)都の支配階級の古い体制を突き崩していこうとするダイナミックな民衆の尖兵というよりは,武士は権力者側の一員であり,軍事貴族と呼ばれるのにふさわしい存在だったようです。(p36)
 その繁栄を支えた財力は,砂金と十三湊を拠点とする大陸との北方交易によるものでした。平泉は人口で京都に次ぐ大都市だったといわれており(p45)
 後ろ盾の鳥羽院を失った信西が自分の権力を維持するために,この際,邪魔者を全部潰してしまおうと挑発したのが保元の乱だと理解したほうがいいと思います。(p56)
 熊野は障害者を排除せず,むしろ障害を取り除く効能が期待されたところでした。また女性にも門を開き,女院から一般の女性まで貴賤を問わず参詣していました。(p67)
 清盛の強みは何かといえば,まず経済力が圧倒的だったことです。(中略)その富を築くうえで何よりも重要だったのが,日宋貿易を押さえていたことでしょう。貿易はすごく儲かります。(p75)
 鎌倉幕府の骨格といわれるものは,全部清盛が作っているんですね。それが,日本最初の武家政権は平氏政権であるといわれる所以です。(p82)
 源頼朝の配下を見ると,実はほとんどが板東八平氏。あの平将門の乱で出てきた平氏の末裔の有力氏族です。つまり源氏ではないのですね。(p84)
 頼朝は,甲斐源氏を倒し,従兄弟の木曾義仲を殺し,叔父の行家や弟の義経,範頼を殺して権力を握ったわけで,単なる「源平の争い」ではない。(p101)
 白拍子が異性の恰好をして踊るというのは,面白かったでしょうね。異性による女装や男装はアメノウズメから始まって,白拍子で一つのピークを迎え,今の歌舞伎の女形とか宝塚の男装に脈々と生きていると思うのです。(p106)
 注目すべきはこの十三人の中に源氏は一人も入っていないということです。板東平氏や藤原秀郷流,京都から下向した官人の集合体ですから,鎌倉幕府の実態は第二平氏政権といってもいいですね。(p109)
 鎌倉幕府は安定しているどころか,十三人衆など,頼朝時代からの重臣を北条氏が次々と葬っていく歴史ですよね。(p110)
 荘園公領制がもたなくなって貨幣経済が行き渡ったのに,幕府はあくまで土地本位制にしがみついていたのでミスマッチが生じて統治がうまくいかなくなったというのが,北条氏が滅んだ一番の原因じゃないかと思います。(p133)
 鎌倉時代の主流が旧仏教であったことを物語るもっとも分かりやすい例は,モンゴル戦争の時に異国降伏祈禱を行った主体が旧仏教であったことや東大寺の再建でしょう。(p161)
 朱子学は,北の遊牧民に追われて江南に移った,劣等意識を背負ったエリートがつくり上げた悲憤慷慨の理論体系です。軍事的,外交的に負けているからこそ,自分たちの民族的,文化的な優越性と正統性を唱える漢民族のナショナリズムが生まれてきたのです。(p179)
 朱子学んはモンゴルのグローバル政策に乗り遅れた人々のうっぷん晴らしという一面がありました。(p180)
 尊氏は迷いの多い人でした。(p197)
 連歌会とは,集まって歌を詠んではその歌の出来具合に金銭を賭ける遊びです。お茶の寄合いというのも,いまの茶道とはまったく別の,闘茶,茶勝負が中心です。お茶を持ち寄って,どこのお茶か味見をして当てることにお金を賭ける遊びです。(p200)
 義満の特徴は自分の権力の大きさを「見える化」したことです。(p217)
 先生(二条良基)が超一流なら,義満もまたメチャ優秀な生徒でした。貴族社会は儀式の世界であり礼儀作法の世界です。鎌倉幕府が自分たちは軍事警察権に特化して,政治については朝廷でどうぞといっていたのは,煩雑な儀式を覚えて朝廷を取り仕切るのが面倒だったからでしたよね。でも,義満はその煩雑なことを軽々とやってしまうのです。だから公家の世界にも君臨できたんですね。(p220)
 明使引見の席の配置や服装,詔書の開き方などの記録が残っていますが,それを見ると義満は全くペコペコせずに中国の使節を迎えている。まるで朝貢してきた異国の使節を謁見するような感じでした。(中略)国内政治では「中国皇帝を後ろ盾とする権威」として「日本国王」の称号を使った形跡がまるでないのです。ここからも「義満は皇位簒奪を意図していた」という説は否定されるわけですね。(p226)
 猿楽は当時の庶民にとって親しみのある大人気の大衆芸能でした。それを世阿弥たちは貴人や教養人にも受容されるよう,積極的に洗練させていったのです。(p231)
 足利義満ですら富士の遊覧までしか行けなかったのは,その先は俺の管轄やないという意識があったわけです。足利幕府は,日本を東西に分けて統治する政権構造でした。じゃあなぜこれほど大きな権限を鎌倉公方に与えたのかといえば,南朝とのごたごたのせいです。(中略)守護の権限が肥大化していったのと同じ現象ですね。(p242)
 六代将軍足利義教は,業績からいえば僕は義満や信長に並ぶ存在じゃないかと思っています。義教のニックネームは「悪御所」でした。悪には善悪のワルという意味だけではなく,強い,魅力的であるという意味もあります。(p247)
 鎌倉公方足利持氏は,「くじ引きで選ばれた将軍だ」と侮っていたのですが,選ばれた義教自身は「神様が俺を選んでくれた」と思っていました。(p247)
 義政は政治を疎かにして文化事業ばかりやっていたといわれていましたが,実はそうではありません。(中略)たとえば勘合貿易にも積極的でした。(p254)
 ズバリ言えば,山名宗全がこの先これほどの大戦争になるとは思わずに,畠山義蹴に加勢したことが応仁の乱の一番の原因です。ただ,ひとり宗全だけではなく,この戦いに参戦してきた武将たちは皆大乱の結末を考えていなかったのです。そういう意味では,これは第一次世界大戦に似ています。(p257)
 室町時代は,南北朝の戦いにはじまり,観応の擾乱,享徳の乱,応仁・文明の乱など戦争ばかりしていたように見えなくもありません。しかし実はこの時代に,今日の日本文化のほとんどが生まれたのです。(p260)
 両者(北山と東山)を比べると東山文化のほうが圧倒的に豊かだといわれています。政治権力と文化のピークには何故かタイムラグが生じるのです。(p261)
 茶の湯や連歌の会は,「会所」と呼ばれる,集会所で行われました。「会所」に入ったら社会で差別されている人々も一切身分の差はないという約束事ができていました。(p263)
 この一揆の構成員になる条件は,「家」の主人であることでした。主人持ちの小作人ではなく,自分の田畑を耕す小農民や,小領主など,社会各層で生まれた「家」の代表者たちによって様々な一揆が結成されたのです。(p270)
 実際には王直という後期倭寇の統領で平戸や五島列島を拠点にしていた中国人が「鉄砲は内乱中の日本でめちゃ需要があるで」と日本に持ち込んできたのでした。そこで劇的に演出するために,自分の船にポルトガル人を乗せてやってきた。(p290)
 奈良時代にかけて幼くか弱い天皇を元明や元正といった優秀な女性上皇が後見する体制が続きました。かつては奈良時代の女性天皇は「男性天皇の間の繋ぎ」という視点で説かれていましたが,実際には上皇として長い期間,強い権力を握り続けていたのです。この「天皇より強い上皇」というポジションを放棄したのが,嵯峨天皇でした。そのきっかけになったのが,八一〇年の「平城太上天皇の変(薬子の変)」です。(中略)嵯峨天皇は自身が譲位するときには,太上天皇の大権を自ら放棄しました。ここから「上皇は政治に関わらない」という先例が生まれ,代わりに外戚が力を振るうようになったのです。(p300)
 朱印船でタイへ渡った山田長政は,日本では別に有名な家の出でもないけれど,タイに行って陸軍の次官ぐらいの地位を得ましたね。普通の人でもそれだけの活力があったのだから,この時代にどんどん海外に進出していれば,今の東南アジアの華僑のように,和僑の世界ができていたとも考えられますね。(p324)

2019.10.20 長谷川慶太郎 『2020 長谷川慶太郎の大局を読む』

書名 2020 長谷川慶太郎の大局を読む
著者 長谷川慶太郎
発行所 李白社
発行年月日 2019.10.31
価格(税別) 1,600円

● 長谷川さんの遺著。小気味のいい解説に接することが,これ以後できなくなる。謹んで拝読いたす。

● 現時点でのトピックだと,河野防衛大臣が習近平総書記を国賓で招くことに反対を表明している件。日本がそういう話をした後でも,中国海軍や空軍による領海,領空侵犯的な行為が絶えない。
 この状態で習近平首席を国賓で招くのはいかがなものかと,安倍首相に諫言するとかしないとか。それに対する賛意もTwitterなどにけっこう見られる。骨のある大臣だ,と。
 しかし,そのことだけに固着して他を見ないと,国益を損なうかもしれない。防衛省の部分最適と日本国の全体最適は一致しない。安倍首相が正しい。
 という言い方はもちろんしていないのだが,そう読める箇所もある。簡単に沸騰せず,全体を視野にいれながら部分を掘り下げて,なるほどと思わせる見通しを示す。
 これを読むことができなくなったということなのだ。

● 全体として,アメリカのトランプ大統領に辛口の評価。欧州(取りあげているのはドイツとイギリス)はどうでもいいという感じ。
 かつてのように,中国は近い将来に内戦状態になって大中国はなくなるという予想は撤回したようだ。習近平を評価しているように思えるが,かといって米中貿易戦争において中国に勝ち目はないと見ている。
 アメリカ抜きのTPPを取りまとめて発足させた安倍首相の大局観と手腕を高く評価する。日本外交史に残る成果だと。
 このとき,アメリカが抜けたTPPに何の意味があるのだと突っかかっていた民主党(当時)の役立たずがいたけれども,そういう議員はそもそも長谷川さんの視野には入っていないようだ。
 小池東京都知事が誕生したばかりの頃,小池知事を評価していた,っていうか,石原元知事への反発が小池知事への評価につながっていたのかもしれないが。今,ご存命なら何て言うだろうかね。

● 以下に多すぎる転載。
 実体経済が振るわないなかでの金余りによって世界の株価の乱高下が頻繁に起こるに違いない。(中略)株価の乱高下が起こるとボラティリティ(銘柄の価格変動率)も大きくなる。個人の投資の面から見れば,株式投資で利益を稼ぐチャンスが拡大するということだ。しかし株式投資は投機ではない。(p3)
 中国からの輸入品の関税を払っているのは実際にはアメリカ国民である。(中略)トランプ大統領もそのことを知らないはずがない。だから関税の引き上げは,アメリカのダメージを上回る成果につながるとトランプ大統領は信じているのだ。(p17)
 主要な先端技術を制した国は世界の覇権を握ってしまうので今のうちに中国を叩いておきたい,という考え方がトランプ政権だけでなくアメリカの政界全体の総意となった。(p19)
 5Gで現在,世界最先端を突き進んでいるのはアメリカ企業ではなく中国企業のファーウェイ(華為技術)なのである。(p23)
 ファーウェイは海外での落ち込みを中国国内で補うという方針で進んでいるのだが,ファーウェイ製品は性能が高い割には価格が安い,つまりコストパフォーマンスが高いので海外でも依然として人気がある。(中略)資本主義市場経済の国の企業であれば,市場が求める以上,ファーウェイのスマホを取り扱わざるをえなくなるはずだ。(p45)
 ファーウェイは売上高の10~15%を研究開発費に振り向けている。(中略)だからこそ,コスパの高い製品を開発できるのだ。(中略)表向きにはアメリカ政府のファーウェイ排除に従っているような国においても実際にはいろいろな抜け道を考えてファーウェイ製品を使うはずだ。高い技術力を維持していく限り,ファーウェイはアメリカ政府の妨害が続いたとしても生き残っていけるだろう。(p47)
 中国が大幅な譲歩をしない限り,トランプ政権は現在の方針と施策を最後まで貫いていくだろう。また逆に貫くという姿勢をはっきり示さないと中国からの明確な譲歩も引き出せないと考えている。もちろん追加関税によってアメリカも返り血を浴びるが,アメリカは国力の大きさでその返り血の悪影響も吸収できるはずだ。(p48)
 中国がすぐにアメリカに明確に譲ってしまったら,中国国民はかつての南京条約と同じだと激しく反発するのが目に見えている。(中略)アメリカにあっさりと譲ったら,中国ではこの屈辱の歴史が蘇って習近平政権の基盤も揺らいでしまうという懸念がある。(中略)といって,中国が明確な譲歩をせずにこのまま米中貿易戦争を続けていくことができるかといえば,これも無理だろう。国力では軍事的にも経済的にもアメリカには絶対に勝てない。また,米中貿易戦争が持続すると,中国経済はどんどん落ち込んでいって中国国内がもたなくなる。具体的には失業が急増するということだが,もし失業者が1億人を超えたら中国国民は耐えられなくなるだろう。(p49)
 トランプ大統領は貿易交渉では多国間ではなく二国間交渉を好んでいるが,(中略)トランプ政権の二国間交渉というのは,相対で行う不動産取引のようなものだ。トランプ大統領は不動産業のビジネスマンだった。不動産業では,交渉相手の違う個別の案件同士には関連がない。(中略)しかし外交は違う。交渉相手が違ってもそれぞれの外交案件が密接に関連していることが少なくない。というより,すべての外交案件は多かれ少なかれ関連し合っていると考えておくべきだろう。このような認識がトランプ大統領にあるのかは疑わしい。(p66)
 トランプ大統領はすでに2020年の大統領選のモードに入っていて,支持者にアピールできる成果をできるだけ早く挙げたい。そういう姿勢であればあるほど外交の場では足元を見透かされる。(中略)日本はトランプ政権との貿易交渉で実利を得る基本合意を手にすることができた。まさにトランプ大統領の足元を見透かしたからだ。(p67)
 トランプ大統領は気まぐれだし人権問題にもさほど関心がないので,星条旗を持つ香港市民がトランプ大統領に香港の民主化への支援を期待しても空振りに終わる可能性は高い。(p77)
 トランプ政権の保護貿易体質はやはり今の時代にそぐわない。世界最大の経済大国であり,世界最大の消費市場を持つアメリカめがけて世界中から製品が押し寄せてくる。だが,どの国に対しても貿易赤字は許さないとなると,結局,貿易ができなくなる。それで最も不利益を受けるのはアメリカ国民だ。(p85)
 電力の大量消費時代になった現代では電力料金の安さはさらに重要になってきた。製造業の工場なら特にそうである。というのも最新の工場ではIT化,AI(人工知能)化,ロボット化が急速に進んでいるからだ(p91)
 軍事費を増やして組織改革を実施したからといって人民解放軍が軍隊として本当に強くなったのかどうかはわからない。というのも,今の人民解放軍は実戦経験がほとんどないからだ。(中略)実戦経験のない軍隊が弱いというのは軍事専門家の常識である。(p101)
 軍隊というものはその国の地形的な特色の影響を受けるものだ。中国は広い国土を持つから軍隊も広域に展開することになる。であれば軍隊の隅々まで統制を利かせるのも難しい。(p102)
 中国の歴史を振り返ると,西暦960年にできた宋朝以降,中国の軍隊が外国の正規軍と真正面から戦って勝利したことは1度もない。(中略)歴史は侮れない。予算を増やし組織改革を行い近代兵器を取り揃えたとしても,人民解放軍などそれほど恐れる必要はないのである。(p103)
 基軸通貨の機能維持が世界経済には欠かせないという認識のない人物がアメリカ大統領であってはならない。ところが,トランプ大統領は基軸通貨の機能を維持するという重大な責任を自覚しているかどうか疑わしい。というのもトランプ大統領はアメリカの貿易赤字を敵視しているからだ。(中略)基軸通貨国である限り貿易赤字になる。つまり,アメリカは貿易赤字を通じてドルという基軸通貨を全世界に提供しているのだ。アメリカの貿易赤字がなくなると世界にドルが供給されなくなって世界経済はうまく動かなくなる。(p108)
 経済規模の小さな国や地域ではGDPに対する輸出比率はきわめて大きい。逆にいうと,経済規模の大きな国はアメリカ,中国,日本に限らず輸出比率は小さいのだ。こうした国では輸出が多少不振でも国内経済への打撃はそれほど大きくない。経済規模の大きな国の輸出が多少不振に陥っても国内経済への影響が小さいのなら,世界経済への影響も限定的だと考えられる。(p124)
 品質の高い製品を生産,販売するためには,素材・部品のところが非常に重要だ。素材・部品の品質が悪いと品質の高い製品もできない。その素材・部品の品質の高さを誇っているのがまさに日本なのである。(中略)それで韓国政府は慌てて,(中略)重要な素材・部品の20品目は1年以内に日本から調達しなくても済むようにする,という開発計画を表明したのだった。1年以内に開発できるような素材・部品なら韓国企業でとっくの昔に完成している。開発するのが非常に難しいから,これまで日本企業に依存してきたのである。韓国政府の開発計画は画餅に終わるだろう(p128)
 日本の技術力の高さはどこかの研究所や大学の研究開発で得られたのではない。中小の町工場の生産現場で小さな工夫を積み上げて少しずつ技術水準を上げていった結果だ。(中略)その主役は一握りの技術者や研究者ではなく現場の工場で働いている人々だ。このような人たちは長い現場経験と深い知識の両方を持っているので,短期間には養成できない人材でもある。だから海外の企業もなかなか追いつけない。(p130)
 トランプ大統領に対しては,気が変わったら何をするかわからないという声もある。(中略)しかしトランプ大統領が新しい日米貿易協定の基本合意をひっくり返すことはありえない。ひっくり返して困るのはもっぱらトランプ大統領のほうだからだ。(p138)
 中国はアメリカとの関係が悪化したときには露骨に日本に接近してくる。今回の日中首脳会談も例外ではない。(中略)日中の関係改善で最も印象的だったのは,習近平総書記が2020年春に国賓として訪日すると決まったことだ。(中略)2021年からのNEV規制でHVもNEVに入る可能性が出てきた。(中略)HVがNEVに入れば日本の自動車メーカーは中国市場で有利になる。NEV規制にHVが入る可能性が出てきたのは,やはり日中関係の改善が大きく作用したからである。米中貿易戦争によって中国は日本に秋波を送るようになってきたわけで,日本政府および日本企業としてはそれを大いに活用し自らの利益にしっかりと結びつけていけば良い。(p139)
 2017年1月に発足したアメリカのトランプ政権は直ちにTPP離脱を断行した。(中略)このとき,残った11ヵ国を取りまとめる努力を行ったのが日本にほかならない。2018年12月,日本の主導でアメリカ抜きのTPPを発効させた。まさに日本の外交史にとって特筆される大成果だ。(中略)日本はアメリカに代わって自由貿易の牽引役になったといえる。(p144)
 今や日本は元号を用いている世界で唯一の国になっている。では元号の意義は何か。やはり「歴史を一括りにしてそれを総括し特徴づける」という点で非常に有効な手段だということである。(p148)
 天皇の崩御に伴う大正から昭和への改元,同じく昭和から平成への改元が暗い幕開けだったのに対し,平成から令和への改元は祝賀ムードに溢れた。(中略)政府の見解では譲位による改元は例外的だとしているが,改元がこれほど明るく幕を開けるのなら,今後は譲位による改元のほうが定着するかもしれない。(p149)
 今後も天皇制は姿を変えてでも存続していかなければならない。それ以外には日本国民を統合することはできない。(p153)
 安倍首相はもうくたびれてしまっていて,自民党総裁の任期が終わるとともに首相も辞めざるをえないということなのだ。(中略)安倍首相が長期政権の延長を望んでいない以上,これから2021年9月までは憲法改正への意欲は衰えないとしても,ほとんどの政策については従来の方針の延長上で展開していくことになる。(p155)
 そもそも上場するのは株式市場から資金を調達するためなので,その企業が運転資金を大きく超える現預金を持っているならば株式市場はいらない。(中略)にもかかわらず1部にとどまるのは,企業としてのプレステージが高いとされる1部にいることそのものが目的化してしまっているからだ。そんな企業では肝心の株式市場の活用も後回しになる。(p168)
 特に大学の文系の授業内容はカルチャー教室で学ぶようなものとそう変わらないし,このネット時代であればほぼ独学できる。ということで,すでに新卒一括採用にこだわらないという意識が出てきている企業では,文系でもプログラミングくらいは教えてほしいと大学側に希望するようになっている。(p179)
 通年採用となると(中略)仕事が実力主義になっていくということだ。この実力主義には3つの特徴があって,まず実力があれば昇進し昇給していくので正規社員と非正規社員の差もなくなる。(中略)次に,実力主義になれば,その実力を評価してくれる企業に移りやすくなるから,大企業間であっても雇用の流動化が促進されていき,中途採用も増えていく。最後に,実力主義では賃金もそれぞれ違うので,一律に呻吟の引き上げを目指す春闘のような労働運動もなくなるのである。(p180)
 これまで日本では大企業の社長の多くが,口では実力重視といいながらも新卒一括採用と年功序列を強く支持してきた。そういう社長こそ年功序列のなかで社長にまで昇進したからである。実力主義だったら社長になれなかったかもしれない。また,実力主義だと経営者としての能力も問われることになる。(中略)大企業の社長もこれまでのようにぬるま湯に浸かってはいられない。(p181)
 トランプ大統領は目立つパフォーマンスが大好きである。(中略)だが,米朝の首脳は板門店で短時間会っただけで,実のある話は何もなかった。(中略)単なる政治ショーに終わったのである。(p196)
 北朝鮮のミサイル発射は完全な国連決議違反だから北朝鮮はますます国際的に孤立していく。また万が一,北朝鮮が核兵器を使いそうな気配になれば,アメリカの前に中国やロシアが動かざるをえず,北朝鮮に対して軍事的な制裁を行うことになるはずだ。いずれにせよ,アメリカ自身は軍事行動を起こすことなく,このまま兵糧攻めを続けて静観していれば良い。(p187)
 本来であれば,北朝鮮から拉致被害の慰謝料を受け取るべきだが,北朝鮮が日本に慰謝料を支払うはずがない。常識的には理不尽でも,拉致被害者を取り戻したいなら,ここは逆に日本が身代金を払わざるをえない。政治ではそういう理不尽なことがしばしば起こる。(p189)
 金正恩委員長も国交回復では韓国と同じ形での資金提供を日本に要求するに違いない。現在の日本の国家予算は約100兆円だから,資金提供は5%であれば約5兆円ということになる。(中略)この投資には日本企業にも大きなメリットがある。というのは北朝鮮は鉱物資源が豊富だからだ。(p190)
 日本政府は,韓国向けの輸出品の規制を強化したのではなく,これまで簡略化していた輸出手続きの優遇措置をやめただけなのだ。(中略)逆にいうと,輸入管理がしっかりしていれば日本政府は必ず許可する。(p194)
 韓国の反発が強いのは1つには,韓国経済もそれなりに大きく発展したにもかかわらず,半導体の素材・部品に象徴されるように韓国経済の生殺与奪の権を握っているのが日本であることに改めて気づかされたからだ。裏を返すと,韓国では経済人を除いて,一般国民はもちろん政治家でさえ,これまで韓国経済に対する日本の影響力の大きさに自覚的な人々は少なかった。(p197)
 日本がこれまで簡略化していた輸出手続きの優遇措置をやめただけなのに,それと引き換えに韓国は重要な軍事情報を得られなくなったわけだ。どう考えても韓国の損である。(p203)
 これまでの日本政府は韓国政府に甘かった。韓国政府が多少無理なことをいっても,結局,受け入れてイズム会うところが日本政府にはあった。それで味をしめて韓国政府は前言を翻すようなことをたびたび行ってきた。だが,さすがに日韓基本条約と日韓請求権協定を守らないのを日本政府は許すわけにはいかない。今後もこの姿勢を堅持していくべきである。(p204)
 イラン軍がイラン政府の統制下にあるのに対し,革命防衛隊はハメネイ師が統制している。しかしハメネイ師が安倍首相と会談する日に日本のタンカーを攻撃するというのでは,革命防衛隊はハメネイ師からしっかりとコントロールされていないことになる。この点でイランの政治体制には緩みがあるのだ。(p207)
 イランがホルムズ海峡を閉鎖できなことをほとんどの国は知っている。有志連合への賛同は各国にまったく広がらず,アメリカも軍事色の薄い「海洋安全保障イニシアチブ」に切り替えざるをえなくなった。(中略)賛同する国があったとしてもおそらくいつの間にか立ち消えになるだろう。(p209)
 多くの日本人はロシアと中国は同等の大国だというイメージを持っているかもしれない。だが,2018年のGDPで比べると,ロシアは中国の12%しかない。(中略)このまま一帯一路に関わっていくと,中国と対等のつもりだったのが,ロシアは中国の影響下に置かれるようになるだろう。(p214)

2019年10月12日土曜日

2019.10.12 増田明子 『無印良品 MUJI式』

書名 無印良品 MUJI式
著者 増田明子
発行所 日経BP社
発行年月日 2016.11.21
価格(税別) 1,500円

● 副題は「世界で愛されるマーケティング」。無印は国内でデザイン,生産し,それをローカライズしないで世界で売る。で,世界で売れる。それはなぜか。その答が本書にある。ただし,その答に納得するかどうかは別の話。
 日本発がそのまま世界で通用するのは,無印良品のほかには,神奈川の大和研究所が開発するLenovoのThinkPadしか知らない。

● 以下に転載。
 無印良品というのは,日本国内はもちろん,世界中のあらゆる情報を吸収することが商品開発の原点にある。たとえば,世界のどこかで昔から使われている道具や衣料品などには,ずっと使い続けられている理由がある。(p1)
 国や地域によって,人々の生活の文化には違いがある。しかし,生活習慣や文化という,人間が作り出したものの前にある,人間が生物として「快適だ」「心地よい」「不快だ」と感じる生理的な快・不快は,世界中どこでもだいたい共通する。(p15)
 MUJIは,日本で決定したデザインや香りなどの商品仕様をそのまま海外へ展開しており,海外市場での個別のローカルな嗜好にほとんど合わせていない。(p21)
 MUJIの商品が世界的な普遍性を持つ大きな理由はシンプルさにある。そのシンプルさとは,使い勝手の良い「一番普通」の形を目指したデザインである。(p23)
 一般のブランドは,他社とは異なる自分の特徴をデザインしていく。その中でMUJIは,「それ以外」というポジションにある。(p24)
 MUJIの商品開発の基本姿勢は,最大公約数的に多くの人が「良い」と思う商品を作っていくことだ。個々の人や,個々の文化に合わせすぎない。(p34)
 「これ『で』いい」という考え方は,別の言い方をすると,「個性の一歩手前」で止めるということだ。(p40)
 用の美という考え方は,日本だけでなく,世界中で見つけられるのだ。(p86)
 MUJIの商品は,誰がデザインしたかということを明らかにしていない。これは商品にブランド・ロゴを付けないのと同じ意味がある。(中略)MUJIは,ブランド名やデザイナー名ではんくて,商品そのものの本質である使い勝手で選んでもらうことを大切にしているからだ。(p102)
 なるべくデザインの個性を取り払ったシンプルな商品というのを,商品づくりのルールにしている。(p103)
 製造を委託して商品を調達するからこそ,品そろえの多様化が可能になっている。(p106)
 MUJIの開発時に学んだことは,ゼロからは何も生まれないということである。何か課題があったり,何か疑問に思うことがあったりすると,何かを考える。既にあるアイデアとアイデアを結びつけたらどうなるか,と考える。(中略)そして誰かに伝えることで,何か別の良い情報が伝わってくることもある。そのような人との出会いは大事である。(p163)
 関心がない場合は直感的に対象を知ろうとするが,関心がある場合には,システマティックに分析的に知ろうとするため,説明は文章のほうが適しているという。(p179)
 従来,中国の消費者は,金や赤など派手な色のついたものを好むといわれていたため,MUJIの商品は支持されないのではないかと懸念する声もあった。しかし中国人の生活スタイルも先進国のスタイルに似てきた。(p190)

2019年10月6日日曜日

2019.10.06 成毛 眞 『一秒で捨てろ!』

書名 一秒で捨てろ!
著者 成毛 眞
発行所 PHPビジネス新書
発行年月日 2019.10.02
価格(税別) 850円

● 小気味いいほど論旨明快。この内容は成毛さんにしか書けないもの。それを読んで自分も実行できるかというと,できるところもないではない。
 が,その部分はすでにやっている。やっていないことは,やらないままかな。でも,いいのだ。

● 以下に転載。
 この先,ビジネスの世界で生き残っていきたいならば,悪いことは言わない。古いものを捨てて,新しいものをどんどん使うべきだ。なぜか。それは,古いものを積極的に捨てる意識を持たないと,世の中の変化についていけなくなるからだ。(p17)
 私自身も,新しいものはガンガン買って使うようにしている。(中略)見たことのないような画期的なサービスや商品を目にしたら,よほどの金額でなければ,値段を気にせずに試してみる。(p22)
 iPhoneの最新型はいま現在のトレンドの集大成と言っても過言ではない。(中略)HDDレコーダーも,全録レコーダーをフル活用している。(中略)私はとにかくテレビをよく見るので,いまやこれがないと話にならない。(p23)
 さらに不思議なのは,日本がなぜ,そのデジタル途上国のマネをするのかということだ。誰がどう考えても「タッチ,ピッ」が便利に決まっている。いちいちQRコードを表示させるなど,バカの極みである。(p28)
 わかっているにもかかわらず,現実的には,新しいものを取り入れるのに消極的な人が多い。消極的になる理由は,「捨てない」からだ。(p29)
 「捨てる」ことが重要なのは,ものだけでなく,考え方や知識も同様だ。(中略)いまの時代に合った考え方や知識を身につけるには,これまで学んだ考え方や知識に上書きをするのではなく,いったんそれらを捨て去って,新たに学び直すことが必要という考え方だという。私は,中高年の学び直しに関しては否定的だが,この考え方には同意する。(p31)
 自分がどうやったら勝てるかを考えた場合,何かを加えることよりも,むしろ何かを捨てて,一つに集中したほうが良い場合もある。中途半端に得意としている仕事を思い切って捨ててしまい,ほかの人よりも秀でる可能性のある仕事だけに,自分の持てるリソースを集中投下するのである。(p33)
 先日,テレビで,来日した外国人がコンビニのカツ丼を食べて,「これが3ドルなのか」とショックを受けていたが,その外国人の感覚が世界標準なのだ。たかだか500円の弁当で,一流店と遜色ないクオリティに仕上げる技術にこだわるのはどうかしているのである。このような職人気質は日本人のDNAに組み込まれているのかもしれない。ならば,一個人も,それを活用すればいい。(p34)
 仕事のムダをなくし,生産性を高める最良の方法は何か。それは,「仕事を捨てること」。作業効率を改善するのではなく,作業全体を止めてしまうことだ。(p48)
 日本マイクロソフトの社長に就任してから,私は,会議をなくすことにした。部下たちに「君たちで勝手に会議するのは,構わない。だが,絶対に俺を呼ぶな」と伝えたのである。(中略)社長主催の会議を一つもしないので,アメリカ本社から「会議ぐらいやれ」と言われ,ビル・ゲイツから「お前,普段,何やってんだ?」と聞かれていたが,意に介さなかった。(p51)
 メールでコミュニケーションできないのは,思考が整理されていない証拠。つまり,伝えるべきことを的確に伝えるのがヘタなのだ。電話は仕事のできない人間がするものであり,そんなヤツらに,仕事のジャマをされたくない。(p54)
 いずれも「営業は足で稼げ」を愚直に実行しているわけだが,ネット証券がこれだけ全盛の時代に,こんな昭和時代のやり方を続けていたら稼げるわけがない。(p59)
 若い頃からマナーでがんじがらめになっていると,自分が管理職になったときに,部下をマナーでがんじがらめにするので,ろくなことはない。(p64)
 「フリーアドレス」はデメリットもあるので,導入には注意したほうがいい。少なくとも開発系の仕事の場合は,フリーアドレスは逆に捨てたほうがいい。開発者には自分の城を築かせないと,独創的なアイデアが出ないからだ。(中略)オフィスに余計なものを置かないのもダメで,くだらないオモチャやガジェットなど自分が好きなものを仕事場に持ち込ませて,クリエイティブ性を発揮させようとしている。(p66)
  かつて早稲田大学ビジネススクールの客員教授をして改めて感じたことだが,大半の人は,セミナーや研修,スクールなどの座学では成長しない。なぜかというと,そこで学んだことを実践するなら良いのだが,そんな人はほとんどいないからだ。「ためになることを聞いた」と言って,それだけで満足してしまうのが,関の山なのである。これほどムダなことはない。(p69)
 ビジネススクールで習うような分析方法やフレームワークなどを学んだことで,独創性を失ってしまうのは,よく聞く話である。(p70)
 私は,前任者のやり方は何もかも変えるようにしてきた。日本マイクロソフトでも,前社長のやり方をすべて変えてしまった。オフィスの場所まで変えてしまったくらいだ。(中略)後任の社長にも,「俺のやり方は全部捨てろ」と言っていた。それぐらい,私は思い切って変えることが重要だと考えている。(p72)
 人生を振り返り,私が最も捨ててきたのは何かといったら,おそらく「人」だ。(中略)転職するたびに,それまで付き合っている人間をバッサリと捨ててきた。転職した翌日から,まったく会わなくなるのだ。(p76)
 過去を語り合っても意味などない。私が語りたいのは明日だ。明日を語る知り合いや友達は,時代と自分の年齢に合わせてどんどん変わっていくものなのだろう。(p79)
 フェイスブックでは,友達の誕生日に「おめでとうございます」のメッセージを送ると,他人も読むことができるが,はっきり言って,自分はいかにつまらない人間かということを何千,何万人にさらす最高の方法だと思う。(p82)
 何らかのSNSで自己発信することはいまや必須だが,そのとき,最重視すべきなのが,プロフィール写真だ。私のように名前を忘れる人でも,プロフィール写真に特徴があると,ビジュアルとして記憶されるからだ。(中略)一度設定したら,プロフィール写真を変えないことも重要だ。(p91)
 会社は仕事をする場であり,ウエットな人間関係なんて関係ない。(中略)私は,飲みニケーションに限らず,会社関係の付き合いは,とことん排除していた。慶事ですら断っていたぐらいだ。部下の結婚式や披露宴に招かれることは何度もあったが,じつは一度も行ったことがない。(p92)
 ただ,そんな式嫌いの私でも,葬式だけは顔を出す。かつて仕事をしたことのある人や知り合いの経営者が亡くなったときは,必ず行くようにしている。(中略)「結婚式に行くバカ,葬式に行かぬバカ」という有名な言葉があり,経営者の多くはこの言葉を知っていて,実践している人も多い。(p97)
 私は,スターバックスやタリーズなど,ちょっとおしゃれなコーヒーショップにはほとんど行かない。その理由は,それらの店のコーヒーが嫌いだからではない。そこにいる,気取ったヤツを見たくないからだ。具体的に言えば,「MacBook Pro」を開いてスタイリッシュに仕事をしている(と思い込んでいる)ノマドワーカーが嫌いなのである。(中略)飲みに行くときも,客層が悪そうな店には行かない。(中略)要するに,“頭の悪い人”と同じ空間にいるのが嫌なのである。(p101)
 人間はバカとつるんでいるとバカが伝染るけれども,頭の良い人や気持ちの良い人と付き合っていると,良い影響を受ける。とくに,40代以上の人たちにすすめたいのは,自分より10歳も20歳も若い世代の人たちと交流することだ。(中略)何かを教えようとしないで,流行や視点など若い人から何でも吸収しようとする謙虚な姿勢をもつべきだ。(p106)
 最近,ビジネスをしていて,大きく様変わりしたと思うことがある。かつては同業者同士は変なライバル意識をもっていたのに,それがなくなってきていることだ。(p110)
 保険は,塵が積もってゴミとなる典型だ。(p129)
 蕎麦屋を推すのは,手間をかけるほど美味しいのが明確だからだ。寿司は新鮮なネタの仕入れルートを確保して,半年ほどの修行を積めばそれなりの味を提供できるが,蕎麦はそうはいかない。(p145)
 SNSを見ていると,毎日のようにミシュランの3つ星レストランのような場所に足を運んでいる人がいるが,愚の骨頂である。田舎者がルイ・ヴィトンのモノグラム・バッグを持つのと一緒で,所詮「ブランド信仰」だろう。(p146)
 穿いている下着が高級ブランドでもユニクロでも,ランチがホテルのレストランでも駅前の牛丼店でも,ほとんど自分自身は何も変わっていないことに気づくだろう。だったら,悩む時間は極力減らしたほうがいい。(p148)
 答えは,「良い本だろうが,つまらない本だろうが,どんどん捨てる」だ。分類などしている時間の余裕はないし,いまなら一度捨ててしまっても,読み返したくなったら,ネットですぐに購入できる。それに読み返すといっても,たいがいの本は読み返さないものだ。読んだ本は,遠慮なく捨てて良い。(p150)
 子供のオモチャは,湯水のように買い与え,飽きたらポイポイ捨てればいい,というのが私の持論だ。(中略)その理由は,子供には,とにかく多くの体験をさせてあげることが大切だからだ。(p163)
 中学・高校までに,好きなことや自分の才能を見つけることは,のちの人生を大きく左右する。その年頃に見つからないと,やることが受験勉強ぐらいしかなくなる。(p165)
 本来,インプットはアウトプットして,生産性を高めたり,イノベーションを起こしたりするために行うものである。しかし,インプットはそれ自体が目的になりがちだ。(p181)
 発信する内容は自由であり,ビジネスに限らず,趣味についてでも構わないが,絶対に避けたほうがいいテーマがある。大衆が取り上げそうなネタだ。(中略)私もフェイスブックでさまざまなことを発信しているが,令和ネタはいっさい発信しなかった。(中略)他人とは一味違う視点で発信できる気がしなかったからだ。一目置かれるようなことを発信しないと,意味がないのである。ありがちなのは,経済や政治関連の出来事の是非をあれこれ論じる人。これもやめたほうがいい。自分はいかに賢いかを誇示しようとしているのだろうが,残念ながら,周囲はそうは見てくれないからだ。(中略)そのように,大衆的なネタを避けてアウトプットをしていると,SNSのフォロワーから,「あの人の言うことは,ほかとは視点が違っていて面白い」と見られるようになる。たったこれだけで,SNS上では,凡人の領域から一歩抜けた存在になれるだろう。(p184)
 私も,フェイスブックで発信するときには,「人と違う見方」を意識するし,自分のアイデアが誰にどの程度受け入れられるかを日々試しながら,次作の企画のテストマーケティングをしている。したがって,フェイスブックへの投稿は,つねに真剣勝負だ。誰でも思いつきそうだが誰も考えてこなかったことや,誰でも知っているようで意外にホントのところは知られていないことをひねり出すように投稿するのは,これだけ本を出している私にとってもけっこう大変なのだ。(中略)たくさん投稿しようとすると,どうしても平凡なネタを投稿せざるをえなくなる。投稿するほど平凡な人に見えてしまうぐらいなら,思い切って頻度を減らすべきだ。(p186)
 コツはない。ともかく最初の1行を書き始めるのだ。全体の構成やら落とし所を考えない方がいい感じの文章になると思っている。(p189)
 ただし,私の場合,フェイスブックに投稿してからも,平均5回以上書き直している。本職の作家ならさらに推敲を重ねているだろう。文章は書いて,直しての繰り返し。訓練しかない。(p189)
 (インプット手段の)おすすめは,ズバリ「テレビ」だ。(中略)テレビは,素晴らしい番組が山ほどある,最強の情報源だ。それを知らないヤツこそ,完全に情弱だ。(p190)
 できるだけ効率良く見るにはコツがある。まず,リアルタイムではなく,録画で見ること。そうすれば,1.3倍速で見られるので相当な数の番組を短時間でチェックできる。(p197)
 見るべき番組は,自分の興味のある。興味のないものをいくら見ても頭に入ってこないが,興味のあるものは,子供が恐竜の名前を簡単に覚えてしまうように無限にインプットできる。苦もなく見続けられるので,ネタも見つけやすいというわけだ。(中略)逆に言うと,自分の興味のないことは,たとえ流行だろうがなんだろうが,情報をインプットする必要はない。私もそれを実践していて,ベストセラーは読まない。みんなが読んでいるものを読んでもネタにならないし,何よりつまらないからだ。(p199)
 私のように書評をルーティンワークにしている人は,電子書籍ではなく紙の本を読むべきだ。付箋を貼ったり,ポイントを書き込んでいくので,電子書籍だと作業効率が悪い。同じ作業をしても紙の本のほうがサッとできて,読書そのものに集中できる。(p201)
 友達だろうがなんだろうが,つまらないことを言う人は,どんどん「ミュート」することを強くすすめる。(中略)こうして,自分にとって欲しい情報だけを得られるタイムラインを編成するのが,SNSの魅力だ。気に入らない人をミュートしていくと,同じ思想・志向で偏りやすくなるが,気にする必要はない。SNSぐらい自由にやってもいいだろう。(p204)
 私がブログやメールマガジンでは発信せず,フェイスブックにしか投稿していないのは,SNSがメディア化しているからだ。最近は「note」を書く人が増えているようだが,いちいち好みの情報を探しに行くのは面倒くさく,今後,そこまで大きく広がることはないと思う。誰もが気軽に見られるメディアに無料で投稿し続けて,アナログの形でマネタイズ(私の場合は書籍化)する。これこそが,令和型のアウトプットだろう。(p206)
 アウトプットするときに,私がもう一つ意識していることがある。それは,できるだけほかの人が書いたものを見ないことだ。(中略)他の事例を参考にしすぎると,そちらに引っ張られてしまい,斬新な事業ができない。それよりは,思い込みで突っ走っていったほうが,面白い事業ができるし,その事業は発展する。何事も,駆け出しのうちは先人の真似をしたり,参考になる事例を勉強したりすることから始まる。しかし,オリジナリティを発揮したいなら,先人の教えや先行事例などを捨て去って,自分一人で考えることが大切なのである。(p209)

2019年9月29日日曜日

2019.09.29 坪田信貴 『才能の正体』

書名 才能の正体
著者 坪田信貴
発行所 幻冬舎
発行年月日 2018.10.10
価格(税別) 1,500円

● 才能の正体は何? となると,それは本書でも明らかにはなっていないと思った。
 が,才能の正体は何? なんて考えないで,努力を継続できることが才能であり,努力を継続するためには,陽気というか明るい気分が必要。というのが本書の要諦だと解してよろしいか。

● 以下に多すぎるかもしれない転載。
 どうやら人とうのは,“才能の有無”を,安易に断定したがるようです。(p4)
 自分に合っていない,ふさわしくない場所でいくら頑張っても,物事は身につきません。(p27)
 人間というのは「これなら自分にできそう」で,しかも「これはきっと人生の役に立つに違いない」と思えたら,行動に移すものなのです。(p44)
 僕は,遺伝が人の“成功”を左右することはない,と言えます。(p59)
 東大に入った人が,全員成功していますか? 全員憧れの生活をしていますか? そんなことないですよね。主教科のお勉強ができるだけで成功者になれるほど,社会はカンタンではないのです。(p62)
 こうした「○歳からの□□教育」みたいなものが“才能を殺している”と,僕は思うのです。こうした誤った教育観を信じてしまうせいで,「○歳だとおもう遅い」という考えになってしまうのです。(p69)
 これは面白いくらいに,すべての世代の人が,同じように思うことなのです。とにかく人は,ひたすら後悔しながら生きているものなのです。これはもはや「“いつでももう遅い”後悔教育観」と言っても過言ではないでしょう。(p70)
 子どもでも,70代の人でも,始めようと思えばいつだって始められます。「すごくやりたい」とおもえることがあるのなら,まずはやってみたらいい。やってみて興味がなかったら,やめればいい。やらない理由を探している時間はもったいない。(p72)
 そもそも「仕事を選ぶ」のではなく,「仕事を創る」ことが,これからの“人生百年時代”“AIやロボットの時代”に求められることです。もし,あなたが自分の能力の“尖り”を見つけつつあるのであれば,わざわざ抑え込んで,それを丸くすることに意味なんてありません。どんどん尖らせることです。(p76)
 アインシュタインは言っています。「誰もが天才だ。しかし,魚の能力を木登りで測ったら,魚は一生,自分はダメだと信じて生きることになるだろう」。(p79)
 「人のせい=他責」にしたとき,つまり「自分のせいじゃない」と言ってしまった瞬間に,才能の芽はたちまち枯れ果ててしまいます。(中略)才能は,本質的に自分の中にあるものです。(p81)
 私が言いたいのは,「生まれつきの能力は,誰もが持っている」ということです。(p95)
 僕がいつも言うのは,「頭のいい人を完コピしろ」ということです。(中略)完コピにあたって,大切なポイントがあります。完コピをするときは,その人の「考え方」だとか,言っていること」ではなく,「行動」を完コピすること,です。人間が唯一,他人を完コピできるのが「行動」です。(p98)
 完コピを徹底的にやると,必然的にオリジナリティが出てきます。僕に言わせれば,それが「個性」です。(p101)
 ちゃんと学校へ行って,授業を聞いて,ノートを取って,宿題もやって,大学まで行く人が,もちろんいるでしょう。(中略)でも,何の疑問も持たずにそうしてきた人たちが大人になっている姿をよく見てください。「才能」と言えるほどには尖りがない。(p121)
 親や教師,上司などが「こうしたらうまくいく」と言っていることを聞いても,うまくいくわけありません。なぜか? それは「その人固有の成功体験」だからです。(p127)
 「一般道場生」と「後継者」は学ぶ体型が違うのだそうです。(中略)一般道場生は,ひたすら「技の練習」をします。しかし後継者候補には,早々に「術を教える」のだそうです。(中略)柔道における「術」は,“相手が崩れた瞬間に技をかける”という「崩し」にあります。後継者候補の人たちは,達人たちからこれを教え込まれるわけです。(p129)
 壁にぶつかってしまうと,伸びが鈍化します。そういうときに必ず抱くのは「もうこれ以上は無理なんじゃないか」という気持ち。しかし,その壁を突き抜けないと,あなたの“尖り”にならず,才能として結実しません。(中略)もし,才能の「壁」にぶつかったらどうするか? もう“本当の基礎の基礎”からやり直すことです。これしかありません。(p140)
 大学受験までの学問というのは,しょせん答えがある“例題集”にすぎません。(中略)だから,本質的なことを言うと,大学受験に才能なんか関係ないのです。才能が必要になってくるのは,大学入学から先を生きていくとき。(p152)
 社会的に有名な成功者だって,みんな“成功する前”があったはずです。もし,君が言うように『成功体験がある→自信が持てる→頑張れる』ってことなら,“成功体験以前”にはどうやって頑張ったらいいのかな? (中略)結果をまだ出していない,これから出すんだ,というときに,信じないといけないのは自分です。(p157)
 人は,議論の対象に具体性がないときほど,批判的な意見を言いがちなのです。一方で,具体的なイメージを最初に提示すると,そこをゴールとして,そこまでの道筋を見つけ出そうと考え始めます。(中略)スタッフに与えるビジョンとしては,その意味の通り「目に見えている」ということが重要です。(p184)
 単なる「目的」を超えた「大義」を持つことで,人は動き方が変わります。その「大義」をその人の中に植えつけるためには,この「感情の幅」「感情が動くこと」がすごく重要なんです。(p186)
 人の脳は,接触回数を増やしさえすれば,記憶に定着しやすくなり,仲間だと思いやすくなるのです。(p193)
 先にタイトルを言っておくと,聞き手はクライマックスがどのあたりかの予測がつくので,「ここはまだ導入だな」とか「これは布石かな?」といった具合に,推測しながら話を聞ける。タイトルというのは,すごく重要なのです。(p204)
 世の中で最も“フィードバックしてくるもの”って,何だかわかりますか? それは,鏡です。(中略)どうして人は鏡を見るのでしょうか? よりきれいになるため,よりカッコよくなるためでしょう。(中略)これが何を意味しているか。人間は,フィードバックを受けると,より良くなろうとする生き物だ,ということです。(p216)
 プラスの意図もなく,マイナスの意図もなく,ただ事実のみを言うのです。(中略)フィードバックにあたって,自分の価値観を挟まないことです。自分の価値観を入れずにフィードバックを続けると,部下がもともと持っている「自分が正しいと信じている価値観」の通りの姿になっていきます。部下自身が抱いている理想の姿です。(p219)
 自分で自分を動かすためには,何でも自分で自分の実況中継をしてください。(中略)不思議に思うかもしれませんが,自分の実況中継ができるようになると,人はポジティブな方向へ思考が変わるようになります。(p230)
 実は私たちの脳は,自分が言っていることの「主語」について,あまり認識していないのです。(中略)そんなわけですから,人に対しては基本的にポジティブな言葉だけを口にした方がいい。そうすると自分も相手もストレスを感じなくなる。他人を傷つけないようにすると,自分のことも傷つけなくなるものです。(p234)
 教育・指導・改善を受けると,教育・指導・改善をしてきた相手に対して「悪感情」が芽生えるのです。(中略)だから部下が「あの上司,ムカつく」という感情を抱くのは,社会的に見たらデフォルトです。(p236)
 コミュニケーションというのは,「“自分が何を言ったか”ではなく,“相手にどう伝わったか”がすべて」です。(p245)
 これからの日本は,人口が減っていく時代です。たくさんの人をふるいにかけて,優秀な人材だけを残そうという考え方は時代遅れです。(p250)
 日本には引き分けの文化がない。実はイタリアなどは,「もう失点しないと決めたら,鍵をかける」と言われるぐらい,「点を取らず,同時に,絶対失点しない」という組織力を発揮します。(中略)美学にとらわれるあまりに予選で敗退するなんて,勝負の仕方を間違っています。(中略)今振り返ってみて,今回のさっかー日本代表が選択すべきは,「無責任な外野の,結果論での批判」を全員が無視することだったのではないかと思うのです。(p257)
 そのようなおばあさんに出会う「運」を,どうやったら,引き寄せられるのでしょうか。そして,そういうおばあさんに出会ったときに気に入られるには,どうしたら良いのでしょうか。それは,「出会ったすべての人に優しくすること」です。(p284)
 これは僕の個人的な意見ですが,一流の人ほど,どんなときでも「できる」と言います。著名な人でも,成功しているように見える人でも,「ダメだ」「無理だ」と言いがちな人は,二流,三流の人だと思います。(中略)超一流の人の言葉には,シンプルに能力を加速させる「何か」があります。実際に触れてみれば,わかります。(p293)
 本当の天才というのは,一般には理解されないものです。市井の大勢の人が,あの人は天才だ! とわかるような天才は,本当の天才ではないのでしょう。そういった意味で言うと,僕は,ピカソは天才ではないと思います。(p295)
 「失敗」を「失敗」と思わない能力・・・・・・。(中略)どんなときも,どんなものからでも「成功の種」を見つけることのできる人を,「才能のある人」と言っていいのかなと思います。(p301)
 つい人は,自分の「今」と「周囲」に視線が集まりがちです。しかし,人生には“その先”があり,世界はあなたが知っているよりずっと広い。成功を信じた人のところに,成功はやってきます。(p301)
 ルールが明確にあるものは,それに即していないと,成功するのが難しいのです。しかし,ビジネスや学問には,基本的にルールはありません。何をどうしたっていいのです。(中略)これには没頭できる,これなら絶対に他人に負けない,というものを大事にしてください。そういうことに取り組む能力を磨いて磨いて磨き抜いて,才能として発揮させてください。(p305)
 「才能」は気分が9割。少し乱暴な言い方かもしれませんが,僕はときどきこう言います。(中略)「才能はある」と信じること。「才能はすばらしいものだ」と信じること。そうすれば,世界の見え方が変わってきます。(中略)人生も気分が9割。あなたの未来を明るくするのも,暗くするのも,あなたの気分次第なんだと思うのです。(p306)
 「才能」「天才」「地アタマ」「運」,僕はこれを「4大思考停止ワード」と呼んでいます。というのも,多くの人はこれらを結構たやすく使うんですよね。(中略)僕はいつも思うんです。「その4つが本当にわかるのは神様だけでは?」と。(p309)

2019.09.29 カーラ・ラスキン 『オーケストラの105人』

書名 オーケストラの105人
文 カーラ・ラスキン
絵 マーク・サイモント
訳者 岩谷時子
発行所 ジー・シー
発行年月日 1985.09.01
価格(税別) 1,300円

● 新国立劇場情報センターで子供用の絵本をもう1冊。105人のうち,女性は20人に満たない。欧州の伝統あるオーケストラはね。ウィーン・フィルなんて異常に女性が少ないものな。

● 白人社会のレディファーストっていうのは,どうも胡散臭いと思っているんだよね。男が人間扱いしていない罪滅ぼしじゃないのかね。オアメゴカシともいうな。
 これを,財布の紐は奥さんが握っている日本にも適用しようというのは,少し無理があるかもなぁ。

2019.09.29 アリキ 『シェイクスピアとグレーブ座』

書名 シェイクスピアとグレーブ座
絵・文 アリキ
訳者 小田島雄志
発行所 すえもりブックス
発行年月日 2000.07.25
価格(税別) 2,200円

● 先週に続いて,今日も新国立劇場に来たので,情報センターで子供用の絵本を1冊。訳者はかの小田島雄志さん。

● あまりに有名な次の一節を転載。
 この世はすべてこれ一つの舞台。人間は男女を問わずすべてこれ役者にすぎない。それぞれ舞台に登場しては退場していく。そしてその間に一人一人がさまざまな役を演じる。(お気に召すまま)

2019年9月22日日曜日

2019.09.22 中嶋茂夫 『「ななつ星」「四季島」「瑞風」ぜんぶ乗ってきた!』

書名 「ななつ星」「四季島」「瑞風」ぜんぶ乗ってきた!
著者 中嶋茂夫
発行所 河出書房新社
発行年月日 2017.12.30
価格(税別) 1,500円

● 1泊2日で30万円とか40万円。カップルで乗ったら何やかやで100万円。いくらなんでもお金を捨てるようなものじゃないか,もっと賢い使い方があるだろう,と思っていた。
 そうではないのだと教えてくれるのが本書。クルーズトレインにはそれだけの内実がある。しかし,と言われてもということはある。 

● 以下にいくつか転載。
 カシオペアは6回だが、トワイライトエクスプレスには58回も乗車した。理由は,展望室スイート以外のもっと他のところにある。それは「料理」。(中略)「トワイライトエクスプレスに乗る」というのは,私にとって「トワイライトエクスプレスというレストランへ行く」と同義語だった。(p28)
 時代は,鉄道ファンが臨む寝台列車に「No!」を突きつける。(中略)「ななつ星が今後の寝台列車のスタンダードになる」と私は確信した。(p35)
 トワイライトエクスプレスにはガチガチのマニュアルがあるわけではない。クルー一人ひとりがゲストに楽しんでもらうためにはどうしたらいいかを自ら考えて実践しているのが大きな魅力である。(中略)アマン東京やザ・リッツ・カールトン東京など,「ラグジュアリーホテル」と呼ばれる一流ホテルのサービスと比較すると、クルーズトレインのサービスの質は未熟かもしれない。しかし,「クルーのゲストに楽しんでもらいたいという気持ち」を十分に感じることができるので,サービスの細かい中身は気にならない。(p37)
 クルーズトレインに乗車するには,お金よりも「抽選に当たる運」を持っているほうが重要である。(p41)
 乗車しているゲストはフレンドリーな方が多い。積極的に話しかけてくる,好奇心旺盛な人たちだ。そんな人同士がひとつの列車に集まれば,盛り上がらないわけがない。(中略)私はクルーズトレインに乗車したら,就寝時を除いて室内にはほとんどいない。乗車時間の大半をラウンジカーで過ごしている。なぜなら,他のゲストやクルーとの会話が楽しめるからだ。(p44)
 沿線のレストランや料亭での食事も魅力的だが,それは四季島に乗らなくても味わえる食事である。せっかく四季島に乗車したのだから,もっと車内で食事をしたいと思う。(p87)
 ななつ星はリピート客だけでも十分成りたつビジネスモデルになっており,乗車するゲストが増えれば増えるほどリピートするゲストも増える仕組みになっている。(p176)
 2017年9月27日から10月5日までの9日間,取材を兼ねてスイスの観光列車に乗る旅に出た。(中略)このツァーの料金は約80万円。ちょうどクルーズトレインの3泊4日コースの料金に相当する。日本に戻った後に考えてみた。もし手元に80万円の旅行費用があれば,私は「9日間スイスの旅」と「クルーズトレインの3泊4日の旅」のどちらを選ぶだろうかと。私なら迷わずクルーズトレインを選ぶだろうし,友人や知人にもそうすすめる。(p219)

2019.09.22 アンドレア・ホイヤー 『ぼくとオペラハウス』

書名 ぼくとオペラハウス
絵・文 アンドレア・ホイヤー
訳者 宮原峠子
発行所 カワイ出版
発行年月日 2001.02.01
価格(税別) 1,400円

● 新国立劇場の情報センターには子ども用の絵本も置いてある。ぼくが読めるのはその絵本くらいのものだ。いや,それすら怪しいかもだが。

● 写真の絵本は,オペラの制作過程を解説するもの。普通にオペラを鑑賞するだけなら,ここに書かれていることを知っていれば,まずもって充分ではないか。

2019年9月16日月曜日

2019.09.16 西原理恵子 『パーマネント野ばら』

書名 パーマネント野ばら
著者 西原理恵子
発行所 角川書店
発行年月日 2006.09.30
価格(税別) 952円

● ズシンと腹にくる短編集。これを描くのはそれ自体がかなりシンドいでしょ。女の生態(?)を惜しげもなく教えてもくれる。唯一の救いはなおこさんに彼氏がいて,幸せそうなことだ。 

● 台詞を2つだけ転載。
 あんな小さなころから私は今の私を心配してた。あのね,あんたのしんぱいね,ざんねんながらあたったよ。 でもどうにかやれるみたい。うん。おんなってどうにかなるみたい
 ええねん,わたしら若いときは世間さまの注文した女,ちゃんとやってきたんや。 これからはわたしもあんたも好きにさせてもらお

2019.09.16 西原理恵子 『いけちゃんとぼく』

書名 いけちゃんとぼく
著者 西原理恵子
発行所 角川書店
発行年月日 2006.08.31
価格(税別) 1,100円

● “いけちゃん”は“ぼく”と短い恋をした女性。その女性が“いけちゃん”になって子ども時代の“ぼく”に会いに来た。
 と,最後に“いけちゃん”が告白するんだけど,母親のようにも見える。“ぼく”が何もしても許す母性的なるものの象徴。

2019年9月14日土曜日

2019.09.14 『世界の美しい市場』

書名 世界の美しい市場
発行所 エクスナレッジ
発行年月日 2017.05.06
価格(税別) 1,600円

● この表紙の市場なんかショッピングモールのようだ。改築されて綺麗になってるわけでしょ。こちらが過去に固めてしまった市場のイメージは修正を要する。
 でも,あれだ,外国の市場で売手と渡りあうには,けっこうなエネルギーを要求されそうだ。

2019.09.14 『世界の露店』

書名 世界の露店
発行所 パイ インターナショナル
発行年月日 2016.02.21
価格(税別) 1,800円

● ちょっと,何というのか,ディズニーランドのポップコーン売りのワゴンのような,あんな感じの露店が多いような。
でも,インドはすごくて入れ歯を売る露店もあるのだな。

2019年9月13日金曜日

2019.09.13 坪田一男 『ごきげんな人は10年長生きできる』

書名 ごきげんな人は10年長生きできる
著者 坪田一男
発行所 文春新書
発行年月日 2012.07.20
価格(税別) 720円

● 副題は「ポジティブ心理学入門」。タイトルのとおりの内容だから,本文は読まなくてもいいと言えるかも。
 問題は,「長生き」にかつてほどの輝きがなくなっていることだろう。長生きすれば,見なくてもいいものまで見なくてはならぬ。人生100年時代? 冗談じゃねぇよ,と思う人が多数派ではないのか。

● 以下にいくつか転載。
 言葉の影響力は僕たちが想像する以上に大きい。(中略)寝る前に一日三つの「うれしかったこと」や「楽しかったこと」を書くだけで,二カ月後には幸福度がグンと上がるというトレーニング法もあるほどだ。(p35)
 医学的に言えば,人と関わることが少なければ,感染症にかかるリスクもほとんどないはずなのに,一日中ほとんど一人でいる人は,心筋梗塞などの心血管疾患だけでなく,風邪にかかる確率も二倍に高まる。一人は身体に悪いのだ。(p85)
 コップ半分の水を「もう半分しかない」と思うのも「まだ半分ある」と思うのも,実は習慣に過ぎない。「まだ半分」と考えるよう習慣づければ,ポジティブな感情料は少しずつでも確実に増えていく。そして,ポジティブな感情料の増加は,心の成長を意味していると言われる。(p96)
 ただ何となく遊ぶだけでは,幸福度はあまり上がらない。(中略)完全に夢中になって遊ぶことが大切なのである。(p102)
 「セルフコンセプト」は非常にゆらぎやすいものであり,基本的には何の根拠もない「思い込み」に過ぎない(中略)人生は,思い込み次第でどうとでも変わるのである。(中略)根拠なんてなくてもいい。(中略)「いわれなき万能感」を持ってしまおう。たったそれだけで,人生がよい方向へ向かって動き出す。(p116)
 道ばたに落ちていた空き缶を拾うだけでもいい。そこに落ちていた空き缶がなくなった分だけ,社会はほんの少し変化する。自分に社会を変化させる力があるのだと実感すると,自分に自信が生まれ,セルフコンセプト(自己概念)もよりよいものになっていくだろう。(p129)

2019年9月8日日曜日

2019.09.08 出口治明 『大局観』

書名 大局観
著者 出口治明
発行所 日経ビジネス人文庫
発行年月日 2015.08.03(単行本:2010.07)
価格(税別) 780円

● 最も印象に残った一文は「文化というのは,突き詰めていけば「言語そのもの」です」(p86)。これは出口治明さんが言う前に言語学者が言っているんだろうけども,出口さんが言うとなるほどと思わせる。
 日本文化とはつまり日本語のことであり,日本人とは日本語でものを考える人のことだ。出自や肌の色はどうでもよい。

● 時々,妄想するのだが,外国の優秀な女性に日本に来てもらって,出産してもらう。優秀な母を持つ子が日本語を母語として育つ。日本男子がやるべき焦眉の急は外国に行って優秀な若い女性をさらって来ることだ。それができるだけの魅力を日本男子は持っているか。今どきの若者は持ってそうな気がする。
 が,わが大和撫子が外国人の優秀な男性を捕まえる方が,数倍現実的か。
ぼくの田舎でも“日本女子+外人男子”のカップルを見る機会はけっこう増えたような気がする。良いことだと思う。

● 以下に転載。
 直感というのは,その計算のプロセスを自分でも意識できないほどのスピードで「脳をフル回転させて得たアウトプット」であり,言語化はできなくても,単に直情的に行動するのとはまったく違う性格のものなのです。そして,この直感は「ストックしてある知識は情報=インプット」の量が多ければ多いほど精度が上がります。(p4)
 私は,人生というものは九九%,いや九九.九%,思うようにならないものだと思っています。(中略)しかし,そんな人生のなかでも,わずかに残された〇.一%の可能性を信じて挑戦し続けなければ,未来永劫何かを成し遂げることはできません。(p5)
 思考軸にはこれが正しい,というものはありません。大切なのはそれが「あなただけのものである」ということです。(p9)
 もうそろそろエサがなくなりそうだとか,果実が豊富なのはあの方向だとか,そういうことがどうしてボスザルには判断できるのでしょう。それは,群れのサルがせっせとエサを集めているとき,ボスザルは高い木に登って四方八方を眺めているからです。(中略)これが大局観の本質です。(中略)とにかく対象から離れなければ,全体像は見えてきません。(p25)
 メンバーの中から落ちこぼれる人間が必ず出てきます。そのとき,弱いメンバーは要らないと切り捨てて先に進めば,組織の弱体化は免れません。(p31)
 どんな組織でも素直でやる気のある人と,平均LEVELの人と,反抗的だったり非協力的だったりする人の割合は,ほぼ二対六対二になるといわれています。(中略)リーダーの考えを受け入れ,やる気になっている上位二割を思いきり走らせたほうがいい。(中略)最初に上位二割にエネルギーを注入すると,リーダーはより少ない労力で,望ましい方向に組織を動かせるようになるのです。(p33)
 これまで「成功の法則」とされてきたことは,すべからく役に立たないものと思った方がいい。その上であらゆることをゼロベースで考え,新たな価値体系を構築していく能力が求められているのです。(中略)「何を自分の軸とするか」,このことに答えはありません。だからこそ,そこに人となりが現れます。(p45)
 「一部の人」を「長い間」だますことや,「大勢の人」を「一時的」にだますことはできても,「大勢の人」を「長い間」だまし続けることはできないのです。私が民主主義を信用している理由もそこにあります。(p52)
 そういうときの私の判断はかなり早い方だと思います。それは私が短気だからというだけではありません。深謀遠慮や沈思黙考には世間の人が思うほど効果がないことを,経験を通して知っているからです。(中略)「よく考えた方が間違えない」という理屈が当てはまるのは,最初から出題範囲や答えが決まっている学校のテストのような場合だけです。(中略)判断に時間をかけることで欲や希望的観測という余計な要素が入り込み,精度が堕ちる危険性も高まってきます。(p53)
 リーダーというのは「わからないことを決められる人」のことです。(p55)
 迷ったらコインを放り投げてその表裏で判断をしてもかまわないのです。そんな決め方であっても,何もしないでぐずぐずしているより,ものごとは間違いなくよい方向に進むはずです。(p58)
 自分で決めてやりはじめたことは,新鮮なうちに一気にやりきってしまうというのもスピードを上げるコツでしょう。課題にも「鮮度」があって,もっとも集中できるのは取り組み始めた新鮮なときです。(p59)
 思考の時間が短くてすむのは,深く考える訓練ができているからです。眠りが深い人は短時間睡眠でも頭がすっきりするのと同じで,思考も深めれば深めるほど時間をかける必要がなくなるのです。(p59)
 実際には「変化がない時代」などあり得ません。さらに現代は,起き続けた変化の結果をまとめて引き受けなければならないという,大変な時代です、(p66)
 人間というものは,皆さんが思っているほど賢くはありません。(中略)現時点での花形産業に就職すれば,高値づかみになる可能性はきわめて高い。それなのに,毎年学生が殺到するのは,その時点でピークを迎えているような企業ばかり。(p67)
 この話は,経済学部や経営学部だと,講義で話す先生がいると思う。その話を聞いていてもなお,只今現在の花形産業を目指す。そういうものなんだね。
 フランスでは,専業主婦よりも働く女性の出生率が高いというところにも注目すべきです。一般的に言えば,外で働く女性はアクティブですから,安心して子どもを産める環境さえあれば一人より二人,二人より三人と,たくさん子どもが欲しいと思うようになるのでしょう。(p83)
 人口が減り続ける国家や地域に反映はあり得ない。そして歴史上の豊かな国や都市では,移民が人口を下支えしてきた。これは紛れもない人間の歴史的な事実です。(p87)
 麻雀は自分の好きな手ばかりをつくっていたら絶対に勝てないゲームです。(中略)日本の問題を考えるときは,世界中の国々と麻雀卓を囲んでいると思えばわかりやすいもかもしれません。(p87)
 人類の半分は女性だというのに,その半分の才能に活躍の場が与えられていなければわが国の国際競争力が堕ちるのも仕方がないことでしょう。(p88)
 人間という生きものは,そう賢いものでも変わるものでもないのですから,自分がいま問題にしていることに対する答えやそれに近いものをもっている人は,タテヨコに広く視野をもって探せば,必ずどこかに見つかるはずなのです。(p90)
 私はそれよりも先にやることがあると思います。それは「インプットの絶対量を増やす」ということです。私が見るかぎり,日本のビジネスパーソンはインプットが質・量ともに少なすぎます。(中略)つまり,技術やノウハウ以前の問題なのです。(p93)
 私のインプット方法は「最初は自分で選ばず,とにかく大量に取り込む」というものです。自分に役に立つ情報だけを抽出することができればそれい越したことはありませんが,そんな芸当が最初からできるわけがありません。(中略)「そんなことをしたら,時間がムダになるのでは」という心配も要りません。必要か必要でないかと迷っている時間の方がもったいないし,取り込む情報の量が多ければ多いほど処理速度は上がるからです。(p96)
 品元は失敗を通してしか本当には学べないという習性がありますから,失敗の機会もまた多い方がいいのです。(p97)
 インプットを増やすためには(中略)アウトプットの機会を強制的に設けることも有効だと思います。(p98)
 読書というのは食事と似ています。何を食べたかは忘れてしまっても,栄養分は確実に身体に吸収されて,その人の骨や筋肉やエネルギー源になっている。(p103)
 私は三十歳からライフネット生命設立プロジェクトをはじめるまでの約三十年間,家で夕食を食べたのはおそらく一回だけだと思います。誇張ではなく,本当に毎晩誰かしらと飲み歩いていたのです。会食の相手はいつも社外の人でした。(p108)
 知らない土地で旅人が多少危うい目に遭うのは古今東西ごく当たり前にことだし,自分の身を守るために四方八方に気を配って感覚を鋭敏にしておくというのもまた当然のことだと思っています。実際,そうした経験から得た情報や対処法は大きく自分の血肉となっています。(p112)
 本でも人でも旅でも,安住する場所を一度は捨て,新しいものに飛び込んでいくことが,深く多様なインプットを得るためのコツだと思っています。毎日違う道を通り,違う店でランチを食べ,違う本を読んで,違う人と酒を飲む。言ってしまえばそれだけのことですが。(p113)
 いわば自分のなかに「辺境」をつくる,という感覚です。(中略)一刻も早く,そこに足を踏み出すべきだと思うのです。辺境での対処の仕方は,辺境に身を置き,そこで失敗を繰り返すことからしか学べません。そして,そうやっていったん知識やスキルを獲得してしまえば,もはや辺境は恐るべき未知のフィールドから,勝手知ったる自分のホームグラウンドになってしまうのです。(p113)
 すべての情報がオープンになるこれからの時代では,「完全に他社と差別化した商品・サービス」などあり得ません。(中略)世の中に本当にユニークなものなどどこにもない,となったときに,最後の勝負を決めるのは人と組織風土です。(中略)スタッフがニコニコ出社してくる会社であれば,絶対に他社に負けることはないと信じています。(p140)
 「効率」という言葉を重視する人は,オーソドックスなやり方だとなんだかムダが多いような気がするのか,正攻法に背を向け,ともすればわざと奇をてらったような手段を選びがちです。でも,多くの場合それは,「策士策に溺れる」結果に終わることになります。(p146)
 私は「ビジネスに美学は不要」だと思っています。「何を美しいと感じるか」という主観的な要素をビジネスに持ち込んでしまえば,その時点で合理性が失われます。個人的にも美学や品性などという言葉はあまり好きではありませんし,「品格という言葉を使う人こそ,品格のない人」だとも感じています、最短ルートを考え抜いた上で,正規の手順で淡々とものごとを進めていく,これが私の考える「正攻法」なのです。(p150)
 私は,日本の将来を大局的には楽観しています。「若者と女性のリーダーを増やす仕組みをつくれば日本はうまくいく」というのが私の結論です。(p170)
 「最終的に勝利するために何をするか」といった本質的・戦略的な問題を徹底的に考え抜くという訓練をあまり(日本人は)受けていないのではないか,と感じることはあります。(p180)
 私は,日本が本当に豊かだったのは,現在を別にすれば室町時代から安土桃山時代にかけてだったと思っています。例えば,織田信長が南蛮貿易を推奨したので,海外との交易が盛んに行われ,国内には異国の文物がどんどん入ってきた。(中略)そして,外部との交流が盛んになると,野心に満ち溢れ,進取の気性に富んだ人間がこぞって国境を越えて外へ出ていきます。(p194)
 鎖国のような制作が続くのはいっときのこと,私たちは本質的にはいつも開かれた海洋民族だったのです。だからこそ私は国を開き,どんどん外へ出ていくのが歴史的に見ても正しい,これからのわが国のあり方だと思うのです。(p196)
 階層化し,固定化した社会に活力が生まれるはずはありません。私はやる気のある人,才能のある人がどんどん上に上がってこられるような下剋上の社会であるべきだし,そうあってほしいと心底思っています。(p198)
 新聞・雑誌に書かれていることに対して,日本では七二%の人が信頼を寄せています。しかし英国では,わずか一二%に過ぎません。考えるまでもなく,英国社会の方が健全だと思います。自分で考えて腑に落ちていることと違うことが新聞や雑誌に書かれていれば,「そちらの方が間違っている」と考えるのがふつうであるはずです。(p202)